mission 19
化け物でも見ているような目を向けられるのは何度目だったのだろう?
正直、慣れ過ぎて数は把握していない。
ただ、徹底的にやらなければ不利益を被ることになる。
それは避けたいと思うのは人として当然だと思う。
いや、生き物としてだろうか?
今まで戦いの中で一度でも向けられなかった事は無かった。
死んでいく人間は皆、化け物だと言いながら俺を見る。
子供や女性、テロリストや革命家、ギャングに軍人、特殊部隊員すら例外などどこにも無い。
ただ受け入れ難いと、あり得ないと言うだけだ。
殺されかけて初めて世界は広いのだと気付かされている様にも見えなくはない。
傭兵としてそう言われるのはいい。
うむ、やっぱり良くは無いな。
だが、諦めは着く。
曲がりなりにも特殊部隊を相手に戦って来ている。
そう呼ばれても諦める他は無いのは確かだ。
それでも、この国に来てからやっている事は傭兵ではない。
殺し屋そのものだ。
最初こそ警備だの護衛だの言っているが、結局こうなる事は予想しなかった訳ではない。
やはり、運と言う要素が全くもって無いのだろうか?
だとしたら、今後注意せねばならない。
悪い方に転ぶのならテロリストの襲撃は避けられないからだ。
失敗すれば部隊からの笑われ者確定だ。
それだけは避けたい。
だからこそ、邪魔者である山室一を早くどうにかしなければ。
回収したデータを更にコピーする。
ダウンロードしたファイルを開けば山室一の汚職の疑惑の捜査状況が出てくる。
賄賂に買収、なんでもござれ。
残念ながらまだ疑惑であり、確証に至っていない。
他に何かないか保存されたデータあさってみるが目に留まるようなものはなかった。
この国の毒を出そうと、自らも毒を生み出すその姿は滑稽だ。
早急にこの世界から退場して貰いたいが、表に顔を晒している者を簡単に排除は出来ない。
そんな事は想定済みで、携帯電話を取り出してある番号にかける。
『ハイ、ハーイ!ソラちゃん久しぶりね』
野太い男声を裏返したような口調で出たのは、俺の雇主ご用達の凄腕ハッカー……
先程のクラックウィルス製作者もこの性別を間違えた男だ。
唯一の欠点はやはり性別を間違えたと言うところか。
おっさんと呼んでブチギレたのは今でも忘れられない。
「要件だけ言う」
『もう!つれないんだから!』
「今から送るデータを解析して、ある人物の情報を調べて欲しい」
『本当に要件だけ言うつもりなのね……』
「こっちは世間話をする程暇じゃない」
『何々?またお仕事?今度は何をやってるのかしら?』
話術にも長けたこのハッカーは情報屋としても活動している。
何か言えば情報を取られかねない。
社長とは別方向で危ない人物だ。
当然黙っているしかない。
とは言っても直ぐに調べられてしまうのが落ちだが……
多少なりとも時間は稼げる唯一の抵抗である。
もっと他に抵抗する方法なんて……ないな。
俺の周りに危険人物が多過ぎるのではないだろうか?
『まぁ、いいわ。で、調べてどうするの?また消すのかしら?』
「PCデータのようにか?」
『面白い事言うわね。でもアレって、サルベージ出来るのよん。けど、関心しないわね。その年でそんな闇の世界に入り浸るのはいけないと思うわ』
「なら手を貸すあんたも同罪だな」
『ま、そうね。とりあえずこっちは任されたわ。調べたデータは、いつものようにあの人に送っておくから安心しておきなさい』
「ああ、頼んだ」
そう言って通話を切る。
逆探知される間抜けな事も起きてない。
仮にされたとしてもあのハッカーなら大した問題にもならないだろう。
よし、これでこれで情報が集まり次第、彼を表舞台から引きずり落とせる。
暫く時間は掛かるが、待つほかないだろう。
後次に問題なのは……
「ねぇ?何をやっているの?」
この目の前の護衛対象である。
いつ俺がこの屋上にいるのに気付いたのか知らないが、例のハッカーとの電話中に姿を現し、弄るノートPCを覗き込んでは首を傾げている。
理解出来ないのなら正直覗いても意味がない。
理解したところで大したモノを写している訳でもないが……
「仕事中だ」
聞かれた事に答える。
答えなければ煩いのはこの一週間で学んだ。
それに嘘は言ってない。ただ、依頼人が別なだけだが。
「そう」
すごく詰まらなそうにリアクションを見せる。
今はお昼時、この学校では昼に1時間程の休み時間がどうやら与えられている。
別段護衛以外する事もない俺はこの屋上に入り浸っている訳だが……この目の前のやんちゃな護衛対象は何故か付いて来る。
正直、この学校の守りは硬い。
ビルに囲まれている訳でもないし、狙撃ポイントはほぼ皆無。
日本のSPと呼ばれる特殊な警察も護衛に当たっている。
この上空を飛行禁止エリアに設定もさせた上に、自衛隊の哨戒ヘリも時々飛んでいる。
この屋上から警戒しているし、校門には誰にも言わずにセンサーを設置して人の出入りも見ている。
そのセンサーの確認はあのハッカー開発のAIに任せている以上、はっきり言ってすることがない。
今のところ俺の役目は非常事態における敵勢力の制圧である。
平和は良いことだと言ってられる程暇である。
「で、なんでここにいる?立ち入り禁止じゃないのか?」
「それはこっちの台詞よ」
「残念だな。ここのトップに許可は貰っている」
生徒達に聞かれてはならないような事をする為、人のいない屋上の使用許可を求めたところ、あの理事長は快く許可してくれている。
言わば、俺はここにいて何の問題にもならないのである。
傭兵だからこそ、ルールで縛られた校則などに束縛されなく自由に行動出来るのだと改めて実感する。
「あら、奇遇ね。私も理事長の娘よ。それぐらい何の問題にもならないわ」
発言撤回。
俺よりも自由の効く奴が平然と目の前にいた。
凄く誇らしげに言っているが、言って仕舞えば暴君による権力の行使である。
理不尽だと暴君に対して声を露わに叫んだところで潰されてしまうのがこの世界。
なら大人しく従うのが世の習いであり、利己的な人の取る最善策である。
まぁ、雇う方に与する俺にはあまり関係ないな。
「それより良いのか?こんな場所にいて」
この一週間、彼女の様子を見て来たが、言って仕舞えば人気者の部類だろう。
教師や生徒に一目置かれ、頼りにされている。
それこそ休みの時間は俺が付いていなくても人だかり出来ており、護衛をしなくても良いぐらいだ。
まぁ、最も警戒しなければいけないのがその集団なのだが。
一応リスト作成し、身辺調査で問題のある人物はいなさそうではある。
それぐらいに彼女はコミュニケーションを取るのが上手い。
「たまには1人になりたい時だってあるわ」
そんな彼女の声音はどこか疲れたようだった。
人気者の定めなのだろうか?
コミュニケーションなどあまり取ろうとしない俺にとっては縁の無い話である。
「なら残念だな。俺が先客としているから2人だ」
「言葉の綾よ。気を使う相手がいないって意味よ」
うむ、やはり俺は普通に見られてないらしい。
まぁ普通ではないが……
せめて召使いのような扱いをされぬ事を祈るのみである。
半分は何を言っているのか分からないが、要するに気を使わない人と居たいらしい。
「あー、ここにいた!」
護衛対象の後ろから声をかける少女。
年齢は一緒ぐらいか……
まあ、学校という場所は近寄った年齢しかいないのだから当たり前か。
護衛対象の黒髪とは違い、栗色の茶髪。
世界で言うなら金髪と赤毛のような違いだろうか?
どうでもいいな。
顔は整っているのだろうが、俺にはよく分からない。
こんなところで俺が仕事をしているのを見られる訳にもいかない。
ノートパソコンを閉じ、ケースに突っ込む。
「あら亜美。今日は仕事お休み?」
「うん。久しぶりにオフにしてもらったんだ」
日本語に英語が入るのは別段珍しくもないのだが、この護衛対象と話す彼女はどうやら仕事をしているらしいな。
邪魔して悪いと立ち去りたいところだ。
「それでその子は?」
逃げようとしていた俺を止めようと、パソコンを突っ込んだケースを掴まれる。
「で、自己紹介とかしたらどう?」
諦めるしかないらしい。
「そうか。不知火 空だ」
あまり自分の本名をバラしたくはない。
これが自分の嘘偽りのない情報だから尚更だ。
世界で色々な敵を作る以上、狙われる事には慣れている。
が、自分の情報が流れると行動に制限がつく事になる。
それを最も避けたいのだが、一般人なんて絶対に信用ならない。
ここから情報が漏れる可能性が最も高いからだ。
「で、どこに行こうと言うのかしら?」
「理事長のとこだ。護衛対象はお前1人だけじゃない」
嘘は言っていない。
正直、こっちにいると俺の精神が削られているような気がしてならない。
それに守りを固めている以上、この学園から外へ出る可能性がある理事長を護衛する方が大事だ。
「護衛対象?」
「こっちの話だ。気にするな」
「今、この男に私達家族を護衛させているの。ねぇ、そうよね傭兵さん?」
「何故バラした」
「この子は信用出来るわ。だって私のお友達だもの」
「俺からしたら他人だ。俺が信用出来ない以上、そう言った事は避けるべきだ」
口論と呼べるか怪しいものを繰り広げていると護衛対象の後ろから笑い声が聞こえてくる。
俺がそちらを見ると、「ごめんない」とニコニコしながら謝ってくる。
「初めまして、私は浅乃 亜美。実はアイドルをやってます。よろしくね傭兵さん」
「アイドル?偶像なのか?」
「違うわよ。ムービーアイドルやマイアイドルの方よ。ここは日本だからジャパニーズアイドルと言うべきね」
護衛対象から突っ込みを入れられた。
成る程、歌手とかの方か。
どっちにしろ俺と住む世界は真反対だ。
関わってくるのも困りものだが……
正直、早くこの国から出たいものだ。
「私、それなり有名なんだけど知ってるかな?」
「いや全く」
凄く申し訳なさそうに尋ねてくるが、知らないものは知らない。
日本のオタク文化なんて知ってる訳がない。
そう言ったのは部隊内にいるもっと詳しい奴に聞くべきだ。
「そこは嘘でも知ってると言うべきじゃないの?」
「興味がないんだ。諦めろ」
「そっかー残念だな〜。テレビとか見てくれてないのかな」
少しガッカリしたように肩を落とす彼女はそれでもはにかんでいるが、ショックを隠しきれてない。
「君の事は知ってるよ。世界中に現れる謎の傭兵。3年前、日本にいたのは君でしょ」
その一言は強烈だった。
ただ、その一言で俺にベレッタを抜かせたのだから。
一般人相手に何を警戒しているのか俺にも分からない。
ほとんど知られてない筈である情報が漏れる理由も分からない。
「何故知ってる?答えによっては消す」
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