mission 18


「本当にこれで尻尾が掴めるんですか?」


「おい新人!口じゃなく、手を動かせ手を!前見ろ」


「大丈夫ですよ。こう見えても無事故、無違反ですよ。それより、大丈夫なんですか?探偵と連絡取れないそうですけど」


「さぁな、尾行するのに夢中にでもなってんだろうよ。今向かってるのがその探偵事務所だ。そろそろ帰って来てるだろうさ」



車を運転する私服刑事の2人はある場所に向けて運転していた。

彼等は山室一の黒い噂を調べている最中であり、運転する新人刑事はここ最近にこの部署へと配属されたばかりだった。



「そこ右な」


「了解です」



新人に運転を任せ、ベテランの刑事は探偵に連絡を掛ける。

が、反応がない。

電源が切れている訳でも、電波の届かない場所にいる訳でもなかった。

楽観視している2人はなんの警戒をする事も無くその事務所へと車を走らせる。

何事も無く事務所前に車を止めると、ベテラン刑事は様子を見に先に行ってしまう。

新人は車のエンジンを切り、鍵を掛ける頃には上司の姿は見えなくなっていた。



「全く、ちょっと待ってくれてもいいんじゃないですか」



モタモタしていると目玉を食らうのは避けたいと新人も急いでベテランを追う。

が、ベテラン刑事はドアの前で佇んでおり、それを開けようとしなかった。

怪訝に思った新人は声を掛ける。



「あの!」



手を触れれば上司がグラッと体勢を崩して倒れた。

まるで糸が切れた人形の様だった。

体から流れでるそれを見るや、慌てて首に手を当て脈拍を確認する。

反応がなかった。

動かない上司を仰向けにし、呼吸の確認をしようとするが……



「ヒッ……」



眉間に開けられた流血の原因を目の当たりにし、吐き気を催す。

即死だった。

眉間から入った弾丸は威力が低かったのか、頭を貫通せず跳ね回った。

その結果脳幹に深刻なダメージを負い、死に至っていた。

酸っぱい物を胃に戻し、開けられたままの目を閉じさせる。

携帯しているSIG P230の日本警察仕様をホルスターから抜き、警戒しながらドアを開ける。

真っ暗な部屋に広がる濃い殺気。

鈍重なまでなそれは歩く足を重たくする。

今直ぐ職務を放棄してしまえば生き残れはしただろう。

だが山室一の証拠が掴める今、引くという選択肢が奪われていた。

新人として成果が欲しいと欲を出した。



部屋を進み、部屋の明かりをつけた。

すると黒い影が露わになる。

が、自身の左足と右手から感覚が消えた。

一瞬で視界が下方に落ち、捉えていた影が視界からいなくなる。

右手に持っていたSIGが床を転がる。



「うぐっ……」


「……さて、聞きたいことがある。山室一を追う理由を言え」


「………」


「チッ……雑魚か」



命は取らずにそのまま通り過ぎていく。

痛みで動かない体に鞭打ち、視界だけを動かして影を捉えようと試みた。

真っ黒なコンバットスーツに曇りガラスのガスマスク、右手にはべレッタによく似た銃が握られ、左手には湾曲の効いた小さなナイフを持っていた。

影が向かったのは入り口の上司の死体。

死んでいるのを確認するや、死体を漁る。



影が欲しているのはまるで分からないが、只者ではない。

視界を動かせばここ数日連絡取れていない探偵の死体もあった。

眉間と胸に穴が開いており、影が殺したのだと直ぐに分かる。

影はナイフを死体の腕に振り下ろして、指を切断した。

それもなんの躊躇いも無く。

転がる指を回収すると、再び来た道を戻り設置されたPCに指をのせた。



「……ログイン完了…メインサーバーにアクセス。データーベース上に存在する山室一に関するデーターコピー……コピー完了」



手慣れた手つきでキーボードを叩き、山室のデーターを抜き出してしまう。

どこかの諜報機関かと匂わせるが、真相は分からない。

厳重なセキュリティシステムを抜けて



「クラックウィルス送信。………メインサーバーの破壊完了。任務終了だ。……ああ、後の処理は任せた」



サーバーを破壊してしまう。

誰と会話しているのかすら分からない。

霞む視界に捉える影は、持って来たリックサックから細い線が繋がった物体を出し、部屋の柱部分に設置していく。

それも終われば、自身の近くに転がるSIGを拾いコッキングした。



「恨むなら山室一とそれを追う部署に配属させた上司を恨め」


「あんた何者だよ!どうしてこんな事!」


「理由が欲しいのか?山室一に依頼されたからお前達を殺す。それだけだ」



凄く淡々としていた。

死にゆく人など微塵も興味無さそうな声音だった。



「そんな……これからだって時に……」


「安心するといい。別にお前が一人で死ぬ訳じゃない。家族も待っている」



その一言で頭が絶望で一杯になった。



「そ、そんな……じゃ、じゃあ由美子と真弓は……?」


「消えた人を探されても困るからな。親類は全てこの国から抹消した」



嘘だろと思うが、彼は嘘を言っているようではなかった。

絶望しきった表情を浮かべる新人に影は容赦なくSIGのトリガーを引いた。

全弾撃ち尽くすと、死体となった新人刑事の上にSIGを放り投げ、事務所を後にする。

その数十秒後、事務所と刑事2人が乗って来た車は跡形も無く吹き飛んだ。

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