mission 17

いつ歩いてもこの街は慣れそうにない。

24時間活動を続けるこの都市は、休む事を忘れ、世界を動かす巨大な歯車を今日も回し続ける。

その様は人すらも取り込んだ一つの有機的パーツに見えなく無い。

街を歩く人の顔を見れば何処か疲れた顔をするリーマン達が今日も契約を求めて彷徨っている。

だが、この街の誰からも危機を感じる事はない。

一ヶ月もしないうちに開かれる首脳会談に襲撃を示唆する手紙。

メディアはその内容を取り上げているが、誰1人として警戒すらしていない。



ふと、自分が今の選択をしなければあんな風に世界を動かすだけのパーツの一つになっていたのだろうかと思う。

それはそれで幸せなのかもしれない。

外の世界で生きる自分にとってこの日本という国は柵で覆われただけの牧場のようだ。

自分達が家畜だという事を忘れてしまったかなような、そんな印象。

その柵の外はとても危険だというのに柵の防護性に絶対的な信頼を寄せている。

もし崩れた時、その中にいる家畜は全滅は間逃れないと言うのに……

一体、その絶対的な信頼とはどこにあるのか分からない。

この世界に絶対というものは無い。

でも柵の外を知らないのはある意味幸せとも言える。

見たくない光景を見なくて済むのだから。



それでも外の狼とは狡猾なものだ。

あらゆる手を使って獲物を得ようとする。

どんなに高度な防護柵を用いてもだ。

例え有刺鉄線や電圧線を用いたとしても掻い潜る事は可能だ。

飛び越えれる高さなら飛べば良い、それがダメなら穴を掘れば良い。

大して考えないでも直ぐに出てくるほどだ。

やりようによってはもっと賢い抜け道だってある。

だからこそ狩人が必要になる。



『次のニュースです。今日未明、○○市××区で起きた家族5人の死傷事件で、犯人と思われる男が逮捕されました……』



街に設置されたモニターからニュースが流れてくる。

女性キャスターが淡々とした口調でデイリーを読み上げる。

街の人も大して興味なさそうにスマートフォンを弄っていた。



『この犯人は以前にも同様の事件を起こしておりましてね。警察が押収したものからは銃を使って人を殺すビデオゲームなどがある訳ですよ。これらのビデオゲームを規制しない限りこの手の犯罪は減少はないでしょうね』



男性コメンテイターが見た事もない犯人を分かっているかのように語る。

もしその言っていることが本当ならばきっとこの国はかなりな犯罪者だらけという事になる。

そうなればきっと柵の中も危険だと気付けるのだろうか?

それでもこの国は気づけないと思う。

きっと誰も抵抗できず声高にしてただ悲鳴をあげる光景が浮かぶ。



このような犯罪は周りの環境や状況によるものが大きいと聞いた事がある。

もし仮に世界というものが崩壊し、法律も秩序も消えたなら、道徳心という枷が最後の頼みの綱になるのだろう。

きっと一日に誰か一人を殺さなければいけない世界になった時、彼等は仕方がないと言って自分や家族を守るために他人を手にかけるのだろう。

そうなれば誰だって状況次第では人殺しになれるという訳だ。

嬉しくもないが、平等に人殺しの要素は誰にでも持っている。

人が好きになれないのはこういったものを見過ぎたのかもしれない。

だから自分を含めて人間ってのは凄く嫌いだ。



テレビに映るコメンテイターの解説は尺の都合か切り上げられ、次の話題へと移っていく。

スポンサーに媚を売らなきゃ行けないテレビというのも大変なものだ。

信号も青に変わり足を進めるが、不意に違和感を感じる。

後ろ約15メートル程離れた場所に一定の間隔で足音と気配を殺す影。

一瞬殺し屋かと思うが、殺し屋というのは上手く雑多な人に紛れており見分けはつきにくい。

おそらく諜報系だろうか。

いくら諜報系だからとマニュアル通りに動く輩の対処はかなり楽だ。

だが、このままついて来られるのも面倒である。

どこの国の諜報か確認の必要があるな。



携帯を取り出しマップアプリを起動する。

単調な色彩なマップと自身の居場所が二等辺三角形で表示され、現在位置がわかり易く映し出された。

そこから近くの人の少なそうな場所を拡大表示で探しつつ、バレないように人混みに紛れる。

ベレッタのスライドだけ引いておき、弾を装填する頃には大体目星はついた。

最近の携帯電話とは便利なものだ。

誘導機能を使い、そこまでの距離や到着時間までハッキリと教えてくれる。

指示に従い人に紛れながら後ろの影を確認するが、一定の距離を相変わらず保っていた。

10分も歩けば怪しげな街並みが広がる場所へと変化していた。



ワザと携帯電話を使い通話をしているフリをしながら角を曲がる。

優秀な諜報員ならばここら辺で既に尾行バレしていると気付くが、その影は違うらしい。

見失わないように歩調を早くし、角を曲がろうとした。

絵に描いたようなマニュアルな諜報員だ。



曲がった直後に合わせ拳を顔面に入れると、袖を掴み足を払う。

当然バランスを崩し、いいように投げられる。

地面に背を付けたところに腹部に蹴りを一撃入れる。



「お前は誰だ?」


「………」



ここまでは当然予想通り。

顔はアジアといったところか。



「お前は誰だ?」



次は英語で問い詰めつつ、もう一撃入れる。

彼はポケットに腕を突っ込む。

武器を警戒し、ベレッタを抜きセーフティを解除し銃口を向ける。

だが、男が取り出したのは通話中の携帯電話だった。

差し出してくるそれを受け取り、警戒しながら耳に当てる。



『やぁ、お久しぶりかなジャック君』


「山室 一……何が目的だ」



あー、とても嫌な予感だ。

こう言う予感と言うのは必ず的中するのはどうしてだろうか。

勘が今すぐ離れろと警告している。



『どうだったかな、私からのちょっとしたサプライズは?』


「そんな事はどうでもいい。目的はなんだ」


『話が早くて助かるよ。君に仕事を受けてもらいたくてね』


「断った筈だ」


『いや、今すぐに君は受けると言うよ』



どう言う事だ。

そう言う前に、山室一は先手を打ってきた。



『君に妹がいるらしいね』



やはり勘は当たりらしい。



『君と生き別れになったと聞いているよ。両親や姉が死んだ中で生き残った君。病弱で入院して難を逃れた彼女。この不透明な金の流れは君によるものかな?毎月一定の額が外国の口座から流れている。彼女はとても体が弱いらしいね。もしかしたら何かあった時、彼女は死んでしまうかもしれない』



正面では駄目だからと脅しか。

しかし、よく調べている。短時間にしては上出来だ。

正直脅しを使ってくる政治家然としたものはとても気に入らないが、それはどこの国も一緒なのは変わりがない。

それでも、まだ決定的ではない。



「今の契約では日本人は殺せないぞ」


『そう思っているのはあの総理と多田と言う人だけさ。あらゆる人は君の力を望んでいる。それに君が殺すのは日本人じゃなくなる』



やはりそう来るか。

殺した人物を何かと付け加えてしまえば書類上は問題なくなる。

この様子であるなら死体処理も行うのだろう。



『この国の最高裁判所から裏で発行されるマーダーライセンスの使用。契約書はこちらで変更しておくよ。君はいつも通りに敵を殺し、殲滅すればそれで構わない』


「良いだろう、受ける。だが高いぞ?」


『良い額を出そう』



仕方がないが契約成立だ。

後でこの男を調べる必要がある。

最悪この世から消えてもらうが、今は時期早々である以上大人しく聞くほかにない。

やはり俺に運と言うのは無いのだろうか?



『よし早速だが、これから頼みたい。警察の一部が私の事を嗅ぎまわっていてね、少々うるさいから消してもらいたいんだ。一撃重たいのを食らわせてしまえば彼等は黙る筈だ。頼んだよ』


「敵の座標、人数、武装、特徴、分かる事を全て教えろ」



早速が火消しとはぶっ飛んだ依頼人だ。

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