mission 14


はぁー……

学校という場所は牢獄なのだろうか?

まぁ、牢獄に入った事はないから分からないが。

話題は全て俺に関する事だけ。行動一つにすら注目される。

それを思うと国を動かす政治家と言うのもその重圧に耐えられるからやれているのだろう。

コツとか無いものだろうか?

あまりの心労に理事長は驚いており、結果的に今日の護衛を外れるように言われてしまう始末だ。

やはり、日本人とのコミュニケーションを円滑にする為に本を探さなければならないのか……



「やぁ、不知火 空君。お久しぶりだね」


「誰だ?」



しまった……

俺とした事が学校であると気を抜いていた。

門を出て敵の襲撃があれば殺されている。

見れば、手入れの行き届いたスーツが1、護衛が2。

襲撃者では無いと分かるが、俺はこの男とあった覚えなどない。

念の為、ブレザーの中に仕込んだベレッタに手を掛ける。



「ここで騒ぎを起こすのは、双方にとって不利益だと思わないかい?」


「なら、名前を明かすべきだと思うが?」


「それなりに通った名前でね。出来れば車の中でゆっくりと話しがしたいと思うが、どうだろう?」



嘘は言ってないようだ。

護衛の動きから……警察だな。

おそらくSSの中でも選りすぐりか。

この2人ぐらいなら3秒あれば殺しきれるが、確かに下手に騒動を起こせば国家の問題レベルだ。

一体何処の誰かなど知りはしないが、ついて行くしか無いようだ。





「で、俺に何の用だ」


「随分と率直だね……。先ずは自己紹介から。私は|山室 一(やまむろはじめ) 。父である山室 |隆(たかし)は存じているかな?」


「ああ。確か前任の官房長官だった筈だ」



同じ苗字と、その顔の若さから親族であるのは間違いないようだが、それでも、俺はこの目の前にいる男を見た事はない。

記憶にあるのは前任のその官房長官とやらに、厄介事を押し付けられたと言う事だけだ。

この国の政治家と癒着しているギャング組織を片っ端から殺し周ることになった原因は、そもそもこの官房長官なのだ。



「君とは一度会った事があるのだが、覚えてはいるかな?」


「すまないが、俺はあんたと会った記憶などない」


「当時は秘書として父の手伝いをしていたからね。君とは官房長官との会談の時に会ったのだが、印象に残ってないのは非常に残念。だが、今回はそれを置いておこう」


「余計な事は話さなくていい。俺に何をさせたいつもりだ?」



やはり警戒は解くべきではないな。

見るからに俺に殺しをさせたいらしい。

あの官房長官はやたらと正義感の強い男だったが、この男はどうなのだろうか?

似ているのか、それとも真逆なのか。

まぁ、どちらにせよ、結局はやらせようとしている事は一緒だ。

俺の一言は彼にどう思われたのかは分からないが、薄ら笑みが顔から消える。



「父は国家を動かす行政の洗浄を行った。だが、どうだろう?それで国が良くなったかといえばノーだ。意地汚い奴等は国の中枢だけに癒着しているだけではない。警察や裁判所、司法権だけに留まらず、色々な権益に癒着している」



つまりは一掃されなければ綺麗にならないと。

だが、その思想は非常に危険だ。

アドルフ・ヒトラーがユダヤ人を敵視したように、そこには過程を間違えるとナチスが行ったホロコーストなど、悲惨な結果をもたらす事になる。

やろうとしている事はそれと同質に近い。

違うのはその対象が悪人か、そうじゃないかの違いだけ。


「私は強く、逞しい日本にしたい。その為には、障害は排除しなければならない」



やはり、この男は恐れている。

裏の世界の住民が力を持つ事に。そして、それが表に出てくる事を。

だが、俺も似たようなところはある。

敵対する者を生かせば、復讐に繋がる。

だからこそ、俺もそれを恐れて、敵対するのは全部殺す。



「ぜひ、君に協力して貰いたい!」


「断る。俺は今、他の仕事で忙しい。ダブルワークなど御免だ。それに、あんたの理想の為に、殺し屋と同じような事はしたくはない」


「なら何故?……」


即答で断られるとは思っても見なかっただろう。

動揺が見て取れる。

途中で途切れたソレは「何故、前はそれを行ったのか?」と言いたげだ。



「俺が殺すのは敵対するものだけだ。決して、理想や欲望で人は殺さない」



前に殺し回ったのは、やたらと俺を嗅ぎ廻り、その力を欲した連中だ。

結果的に官房長官の依頼という事で片がついたが、それが原因で、一部の議員と癒着したその組織を丸ごと潰さなければならなくなっただけだ。

それを知らない以上、手を貸す通りは無い。

ましてやこれが正義と見えている時点で歪んている。



「……後悔するぞ」



どうやら化けの皮が剥がれたようだ。

結局は、この男もあの連中となんら変わり無い。



「先ず、こうして時間を無駄にしている事に後悔してるのでね」



リムジンのドアに手を掛ければ鍵はかかっていない。

このまま閉じ込めて、無理矢理言うことを聞かせると思ったが、案外拍子抜けだ。

そうなれば、そうなればで結局全員殺すから、逃げれなくはないのだが。



「悪いが契約は不成立だ。理想の邪魔なのなら、道具にでもして飼い殺せばそれで済む」



それをする為には相当のカリスマ性を必要とするが。

まぁ、この男には無理な話しだろう。

リムジンから出ると抵抗されると思ったが、それもない。

警戒してベレッタのセーフティまで外したが、それも杞憂に終わるとは思わなかった。

まぁ、ブレザーに穴を空けずに済んだと思えば問題ないだろう。

……で、ここからどうやって帰ればいいのか、調べるのを忘れていた……

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