mission 12
何故だ……
何故、いつもこうなるんだ……
妙にアメリカかぶれなホームルームと呼ばれる、学級活動と呼称すべきなのか不明な時間で、転校生としての挨拶を済ませた後、先生は退室したんだが……
その途端、俺の周りを囲むように人がたかって来た。
この光景を目の当たりにしたのは実に2回目である。
当然、恐怖しか湧いてこないこの光景に逃げ出したくなるのだが、それを許してくれる筈も無し……
早速質問攻めに遭う。
「空くんって言うんだ」
「ねぇ、前はどこの国にいたの?」
「本当に帰国子女⁉︎」
「何ヶ国語も喋れるって本当⁉︎」
「今度俺に英語教えてくれよ!」
「親睦深めにどっか一緒に行こーぜ」
どう反応して良いのかこれは?
もう、幾多もの質問や要望などが重なり過ぎて、何を言っているのかさえ分からない。
雑音と言っていいものだ。
と言うか、人と言うものはやはり恐ろしい。
こうまで噂になっているのも驚きだが、俺は何かやった覚えなんてない。
つまり、噂されるような事は一切してない。
身につけている武器がナイフだけと言うのも心許ないな。
次からは口径が小さくてもいいから、何か銃を持って置くように覚えておこう。
もう頭がおかしくなりそうだ……
しかし、この国の昔にいた聖徳太子なる人物は、10人の言葉を瞬時に聞き分けたと言われているのだから凄い。
ちょっと、そのコツを教えて貰えないだろうか?
同じ事を出来るとは思えないが、4、5人ぐらいなら聞き分けれそうだ。
それも1500年近く差が無ければだったんだが……
「あら、随分と人気者ね」
護衛対象にはどうやら見放されたようだ。
リスク管理をまともに出来ず、予想出来たこの状況に対抗しうる策を取らなかった自分が悪い。
こうなる事は3年前のあれで全ては予想出来たんだ。
……いや待て。その前に考える事がある。
俺は誰にも自分の情報は出していない。
それでこの目の前で騒がしい奴等が俺の情報を持っているのは不自然だ。
誰が漏らしたとしか……
理事長?違うな。一生徒ごときにわざわざ俺の情報を教える事は考えにくい。
多田さんは論外だとして、あの葵という子もこの学校とは無関係である以上俺の情報を渡せる筈もない。
となると、残るのが……
「あら、どうしたのそんな顔して?」
この女か………
凄くニヤついた顔が腹立たしい。
この状況を助けるどころか、寧ろ楽しんでる……
ああ……どうして俺は運が無いのだろうか?
今更ながらに、どこかに落としてしまった自分の運の回収をしたくなると思わなかった。
|鬼畜な社長(あのおんな)といい、この横でニヤニヤしてる女といい、こんな感じな人とばっかり遭うのだろうか?
もう少しでいいから、まともな人をお願いしたい。
「いい気味ね。あなたがモーションアクターで演じた映画を言えばこんな事にならなかったのにね」
性格まで酷いときた。
しかも根に持つ感じの人ですか……
あー、放棄して帰ってしまいたい。
いや、帰っても、もっと性格のひん曲がった女帝がいるから逃げ場なんて無いな。
いや、あの女に比べるとこっちはまだ優しい方なのかもしれない。
そう考えると、結局やめると言う選択肢など存在してはいなかった。
「おい、予鈴はもう鳴ったぞー。早く席に着け」
気付けば、教師が教卓に教科書を並べながら立ち歩いている生徒を注意していた。
あー、またこの苦痛が始まるのかと思うと逃げてしまいたくなる。
だが、仕事な以上、こなす他はない俺は、諦めてノートを広げた。
三年ぶりに授業を受けて、早急に解決しなければいけない問題が発生した。
この国の漢字が読めない。
言ってる事は分かっても、読めない辛さを味わう事になるとは……
更に黒板に書かれる事を見ても分からない状況で、ノートなど取る取れず、聞いた事を全て記憶する羽目になってしまった。
日本語とは難しいものだ。
同じ文字なのに状況によっては読み方が変わってしまう。
フランス語の女性名詞と男性名詞の差がこうまで簡単に思えるとは想像につかなかった。
「やはり、カンジと言うものを覚えなければ……」
「あなた生粋の日本人よね。漢字の発音にかなり違和感を感じるのだけれど?」
どうやら俺の発音に問題があるらしく、もの珍しいものを見るような目で俺を見てくる。
こっちは気付いたら、ベッドの上で、尚且つ日本じゃなかったのだ。
俺の記憶している5年の月日の中で日本で過ごしたのは3ヶ月といったところだ。
「生粋の日本人だからって全員が読めるとは限らないだろ。こっちは、年齢の半分以上は多分この国にいない」
「随分と曖昧な答え方ね」
「記憶が曖昧なんだ。どこで何をしていたかと聞かれても答えられない」
「ふーん」
どうや納得はしたらしい。
こっちは、なけなしのコミュニティ能力を最大限に使っているのだ。
これで納得なりしてもらえなければお手上げである。
しかし、これで終われれば良かったのにと叫びたい気持ちにさせられる。
相変わらず人集りは目の前に構築されている。
しばらくこれが続くのかと思うと、気が滅入りそうだった。
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