mission 11


日本へと侵入した12人の謎の集団。

………少しは楽しませろ。

コンテナの上を走り抜けながら、予め作っておいた工作を取り出す。

その無理矢理に作り上げたトラップ起動装置のスイッチ6つのうちの1つを起動させた。

耳を塞ぎたくなるような爆発音と、何かが崩れて地面に叩きつけられる音が鼓膜を叩く。



この港には悪いがクレーンを壊させて貰った。

そのクレーンは丁度よく止まってる不審船への退路を塞ぎ、爆発による気力の削ぎ落とし。

更には敵の移動の誘導。

手始めにはやり過ぎかもしれないが、念には念をだ。

これから誘導されていると知らずに到達するであろう場所に先回りするが、流石にあの大河内の活躍を奪うのも可哀想だろう。

戦士、兵士であるなら人の死に慣れなければならない。

いくら極限状態を知っていても、その先は知らない筈だ。

だから今、それを知る必要がある。



「ジャックより、エースへ」



無線機を使い、彼のコードネームを呼ぶ。

流石にエース1と言ってもこの場にはエースと呼ばれるコードネームを与えられたのは1人しかいない。



「敵の最終移動地点を報告する。その場所に先回りし、待機しろ」



そして、そのまま敵が移動するであろう最終地点のポイントを報告した。



《……? 了解した》



信じてはいなそうだが、こちらも誘導完了。

ならば、後は敵の誘導だけだ。

起動装置の2つ目と3つ目を同時起動させる。

また爆発音が鼓膜を叩く。

今度は2箇所。

コンテナ内に仕込んだ爆薬を爆発させて、横道の侵入を潰した上での攻撃。

この程度で殺されはしないだろうが、挑発程度には受け取ってくれるだろう。

人間は興奮すると、案外判断力を見失いやすい。

それは災害時にはよくある光景だ。

極限に追い込まれれば追い込まれるだけ判断力を失う。

今は災害ではないが、意図的に興奮状態にさせ、判断力を奪う。

それを、このコンテナターミナルで行う。



「コントロール。状況報告」


《ジャックが指定している進路を進行中です。爆発の爆風により吹き飛びはしましたが、今のところはエネミーダウンはありません》



UAVでの監視も問題無し、か。

さて、未だ五体満足のようだが、怪我人を出した上での行軍。

どこまで持つのやら……



あれから2分30秒。

なにもアクシデントがなければ、今のところは指定した進路通りだ。

4つ目のスイッチを押す。

爆風音は小さめだが、距離的にはそう遠くない。

後200と言ったところだ。

今度はショットシェルの中に詰まっていたバードショット用の弾を地上から20メートルの場所でばら撒いただけ。

それも威力は低めにしてあるから致命傷になるようなものでもない。

ただ、身を隠す場所がないこのコンテナターミナルでは十分苦痛を与えられる。

身を隠そうにも前の爆発で怪我をした状況なら間違いなく動けなくなる。



そろそろこっちも動かないとな。

そして、5つ目、6つ目と全てのスイッチを押した。

爆発音と金属の塊が地面に叩きつけられる音が響き渡る。

動けなくなった敵達を分断するためにコンテナを落とすように爆破してやり、二手に分かれさせる。

要するにふるいに掛けて怪我人とそうでない者に分けるためだけに設置したトラップ。

仲間と離れる不安や敵の姿見えないのに攻撃させる恐怖。

この最低とも言うべき技は社長に拾われてから、俺を教育した爆弾魔に近しい何かに教わった。

彼は敵で遊ぶ癖があったが、どうやらそれは俺にも伝染したのかもしれない……

さて、これで2つに分かれた。

怪我人はあっちに任せるとしよう。



***



酷い……酷過ぎる。

目の前に広がるのは地獄絵図そのものだった。

3年前に味わった地獄とはまた違う地獄。

数回の爆発によって辺りは滅茶苦茶、コンテナには小さな穴が空いていたり、道を塞ぐようにコンテナが倒れていたりと、この惨状ともいうべき状況で倒れている人を確認する。

不審船によりこの国に不法侵入したテロリスト。

その2人が呻き声を上げながら横たわっているのだ。

銃を撃つのすら躊躇いたくなる。

1人は呪詛のように何か祈るようなそんなポーズをとっており、戦意などどこかに忘れてきたように見える。

この反対側では一体どんな状況になっているのか……



この3年間、更に自分を追い込み、鍛え、ここまで来た。

だが、それを無意味だったかのように圧倒的な力を目の当たりにした。

3年前、最初の地獄を見た時、特選は演習だと油断して痛い目を見た。

こちらの連携を物ともせず、ヒットアンドアウェイを繰り返して戦力を削り、逃げたところを深追いすれば数々のトラップが待ち受ける。

まるで手玉にとるような、そんな戦い方に翻弄され、プライドも体もズタズタのボロボロにされた。

そんな事を思いうかべていると、反対側では銃撃戦が始まった。

もし、彼と敵対した場合。

次にあそこで銃を撃っているのは俺自身になっているのだろうか?

もし、仮にそうだとしたらきっと死んでいるのだろう。

まだまだ足りないのだと、自分の無力さを理解させられる。

そんな中、彼がこの作戦が始まる前に言った言葉を思い出した。



覚悟がないなら帰った方が身の為だよ。



覚悟はして来たつもりだった。

実際、殺し合う覚悟もしていた。

ただ、それは銃撃戦の果てにである。

決して、こんな一方的に殺すような事じゃない。

これはもう、ただの人殺し。正義も大義も何もない。

いくら国を守る為とはいえ、これはあまり惨すぎる。



「ここまでお膳立てしてやったのにトリガー1つ引けないとは、興醒めだよ」



道を塞ぐように崩れたコンテナの上に悪魔が立っていた。

顔は返り血によって血に濡れ、右手には誰の血なのかも分からないほど真っ赤に染まったナイフ。

左手のM870の銃口も至近距離で撃ったのか、血に濡れている。

もはや、悪魔と形容するのもやめたくなるような存在がコンテナの上から見下ろしている。



「覚悟がないのなら、帰った方が良いと始めに言った」



ジャックはコンテナから飛び降りると、祈り続ける敵に近付き、頭に銃口をあてがうと……

それを容赦なく撃った。

頭がねじ切れる音が聞こえ、頭と切り離された体からまだ活動を続けているポンプによって送り出された液体が飛び散る。

一瞬の出来事に呆気に取られたが、それは間違いなく人殺しの瞬間だった。

ガシャ!と金属が擦れる音でポンプを後退させてシェルを排出すると、ポーチから取り出した別のショットシェルをエジェクションポートへとねじ込み、今度は横たわっている敵に銃口向けた。



「これは紛れもない人殺しだ。ただ、それは個人によるものではなく、国が行なった行為だ。俺を悪と罵るのは勝手だが、それを見てるあんたも同様に悪だ」


「ま、待て!」



1発の銃声が最後の1人の命を消しとばした。

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