mission 10
PM8:40 東京港区、国際コンテナターミナル。
手にしたコンテナターミナルの全域MAPに仕掛けたトラップの場所をマーキングし、全ての準備を終える。
コンテナターミナルの外は警察が全て封鎖し、海上は海上保安が封鎖してくれている。
文字通りの包囲だが、追い詰められた獲物は、時々こちらの予想だにしない行動を取ることがある。
死を覚悟してる敵ほど厄介なものはそういない。
自らの命を投げ捨ててまで達成しようと体に銃弾を受けてまで行動を起こす。
一度、中東かどこかでそんな敵にあった。
彼等は味方の一人二人殺されても、我が民族、神の為にと言いながらナイフ片手に突っ込んで来た。
結果全員殺したが、最後まで一矢報いようとしたのは今でも忘れない。
今回の敵はそれ程までに何かを成し遂げなければならない目的があるとは思えない。
だが、無理矢理に上陸まで果たした彼等は簡単に殺されてくれるほどヤワじゃないのも確かだ。
だから誇りすらも語らせずに今回は、全員殺る。
《空君〜、準備出来たかな?》
「今はジャックだと何度言ったら……」
《今はプライベート回線で繋いでるから気にしないでね。で、準備は出来たかな?》
「ああ、全て終わってる。後は指示待ちだ」
《良かったよ。じゃあ、葵君に繋ぐよ》
ザザッと言うノイズでチャンネルが切り替わった。
《担当オペレーターの大和葵です。今回の作戦の指示及びモニタリングを行わせて頂きます》
「モニタリングはUAVといったところか?」
《はい、その通りです》
「確認出来てる敵の人数及び武装状況を教えて欲しい」
《確認出来ている敵の数は12人です。武装状況はサブマンシガンやハンドガンなどの比較的軽装です」
「多田さん。2割追加だ」
《そう言うと思ってたよ。先に確認して、後は上の認証待ちだよ》
「仕事が早い事で。それと協力する奴はどうなった?」
《今繋ぐよ》
再びノイズと共にチャンネルが切り替わる。
《自衛隊特殊作戦群所属、大河内だ》
「チェンジ」
何故コイツが……
政府の意向で俺とタメを張れそうなの連れて来たか?
何かあっても直ぐには死なず、俺を監視する上で協力者としての体裁も保てる。
邪魔になるなら最悪事故に見せかけて殺せば良いか。
丁度ここにはコンテナという巨大な質量を持つ障害物がある。
爆薬の誤爆で倒れるコンテナに潰されて死んでもさほど不自然ではなそうだ。
《今回、個人的な要望に応えてくれて感謝する》
個人的?
「政府の意向ではないと?」
《……?俺は君の実力がみたい為に、今回休暇を返上して参加させて貰っている。よろしく頼むよ》
物好きもいたものだ……
こんな参考にもならない戦いしかしない年下の実力を見ても何の糧にもならない。
むしろ自分の実力を落とす原因にも繋がる。
「何故?」
《3年前の事を覚えているか?》
3年前……駄目だな、色々やり過ぎて出て来ない。
自衛隊と交戦した記憶は一度もない筈……
どこで会ったか分からない。
「いや、俺の記憶にあんたと会った覚えなんて」
《模擬戦を特選と行ったのすら覚えてないのか⁉︎》
「ああ、それの関係者か。正直、弱過ぎて言われるまで忘れてた」
《ぐ……当事者の1人だ!忘れらない記憶だよ。君1人に良いようにボコられたからな》
「そう」
《随分興味無さげだな……》
実際、興味なんてない。
いくら特殊部隊でも、実戦経験のない部隊を相手にしたって楽しくない。
どこか訓練だと思っているのか緊張感が薄い。
模擬弾で死なないと言うことが余計にその緊張を薄くしているのだろうが、殺し合いを日々行う俺にとっては面白くない。
こっちとしては訓練にすらならないのだから。
その分、実戦を何度も経験した部隊と戦うのはそれなりに骨が折れる。
命のやりとりを知ってる分、銃撃に対する耐性が強い。
《まあ良いさ。いつか君にリベンジする為に鍛えて来た。負けたままは嫌だからな」
リベンジ宣言されるのは何度目だろうか?
同じ部隊に所属する似たような歳の奴からよくそんな宣言されるのを思い出した。
ただ仲間でない以上、次会うとすれば戦場。
言ってしまえば殺し合い。
そんな覚悟がないのに宣言されるのも困りものだ。
大抵殺気を込めて返せば、大多数は諦める。
「リベンジするのは良いけど、戦場なら殺すよ」
殺気は無線の向こうにまで届いたらしく、緊張感が伝わってくる。
それで、良い。
「それに人を殺した事は?」
《ない》
「言うけど、今回の作戦人殺しだから。覚悟ないなら帰った方が身のためだよ」
覚悟ないのに居ても邪魔になるだけ。
ここが日本じゃなくて戦場ならいくら協力者でも役に立たなければ殺している。
だが、本当に今役に立たなくなるのは困るのでそんな事は言わない。
あわよくば帰って貰えればそれで良い。
休日に見るような光景ではないのだから。
けど、帰って来た言葉は俺の予想外だった。
《覚悟はある。俺にも誇りや日本も守りたいと正義感もある。それに歳下にそんな事を言われるのは癪に触る》
「そう。覚悟あるならいい」
どうやら俺は選択をミスしたらしい。
帰らせるつもりで言った筈が、煽ってると勘違いしたらしく、急に向こうから緊張感が伝わって来た。
覚悟するのは良いけど、仮にも特殊部隊の一員がそんな緊張されても困る。
言えない事だが、この作戦って正義も何もない。
ただ、日本に入られたら困るけど、敵は重武装してるし、こっちは手を汚したくないし、損害も出したくないからよろしくって依頼されているようなものだ。
そんな正義感を持って挑むようなものでもない。
まぁ、俺の仕事量は減るし、金はそのままの額で手に入るから楽って言えば楽なのだが……
《空くん。上からの許可が下りたよ。報酬は君の望み通りに支給される》
割り込みで無線に入るノイズが聞こえかと思えば多田さんから許可が出たと指示が来た。
日本は許可までの過程が長くて面倒だなと毎回思う。
今はPM8:50。
10分の猶予があるが、始めて問題はなそうだ。
「敵に動きは?」
《警戒しながら予想ルートを通ってます》
ビンゴ。
俺が予想しておいたルートを通ってるなら、このままトラップの併用で潰せる。
《まだ10分あるけど、どうするのかい?》
「敵は21時丁度に敵が来ると踏んでいるはず、だから今から始めて敵の隙を突く」
《分かった。では始めよう。現時点をもって作戦を開始する。現時点よりコードネームでの応答を開始」
《了解しました。作戦を開始します。ご武運をジャック》
多田さんが作戦開始の合図を出したのを葵が確認する。
俺は腕時計のストップウォッチ機能を使い、計測を開始する。
《もう1人のコードネームはエース1だよジャック君》
「了解した。行動を開始する」
捻りがないなと思いつつ、俺はM870のセーフティを解除し、コンテナ上を走る。
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