mission 7

翌日 AM8:00



防衛省の前で待っていると、そこに相変わらずスーツ姿の多田さんが車に乗って現れた。

多田さんはクラウンのようなのセダン車では無く、左ハンドル外車のSUVとなんとも似合わない車に乗っていた。



「やあ、おはよう葵君。突然で悪いんだけど、彼との待ち合わせ場所まで移動するから車に乗ってくれ」



彼はドア窓を開け挨拶するなり、私を手招きした。

私はこれに対して少し怒ってる。

いくら空との待ち合わせ場所を教えられないからと、場所をここに指定し、7時半と伝えておきながら遅刻してるのだ、全く。



「ちょっと待ってください!どこに行くつもりなんですか!」


「どこって彼と待ち合わせした場所だよ」


「ここに指定した意味無いじゃないですか」


「えー、だって分かりやすいじゃないここ。僕もね、ここに取りに来るものがあったから凄く丁度良かったんだよ」



そんな事の為にここに呼んだの?

これには怒りどころかため息すら出ない。

ため息で誤魔化しながら、後で絶対に殴ると決心して後部座席に乗り込んだ。

ドアが閉まるのを確認した多田さんは「よし!」と車を走り出させた。

もう、さん付けする人物に値するのか怪しいがここは我慢しよう。



「空君はこの近くの喫茶店で待ってるんだよ。住所名をすっかりド忘れてしまってね、連れて行った方が早そうと思ったから許してね、てへ」


「最後がなければ許しましたよ……」



もうこの男にさんと付けるのはやめよう。

私はそう決心した。





「悪い、悪い。遅くなったね空君」


「……ああ、今来たのか」



店内に入店すると、隅の4人掛けのテーブル席でなにやら気難しそうな顔で紙書類とにらめっこしている男、空は多田さん改め多田に気付いた。

だが、そっけなく返事を返すと空はまた手にしてる紙に目を戻す。

空は今、私立藤宮学園大学附属高校の|制服(ブレザー)を着ている。

その姿は案外、様になっており歳相応の学生に見えなくはないのだが、見えなく無いのだが……ブレザーの隙間からチラッと見えたナイフで全て台無しである。

多田はブレンドコーヒーを店員に注文しながら空の対面に座ると、テーブルに広げられた紙の一つを拾い上げて空に尋ねた。

私も多田の横に座りたくないが、仕方ないので座る。



「それより、その紙束はなんだい?とても勉強してるようには見えないのだが?」


「……ヒットマンリスト。今東京にいる奴を纏めてるから少し待ってくれ」



そう言うと空はテーブルに散らばったヒットマンマンリストを整理し始めた。

ある程度確認はしていたのか、かなりな速度で纏め上げ、ものの数分で整理し終えてしまう。



「47か、多いな……」


「それは多いのかい?」


「他の国に比べれば少ないが、都市部にしては多い方だ。1人で対処するとなると少し面倒だな……」


「いやいや、全員が襲ってくるとは限らないでしょ〜」


「甘いな。殺し屋ってのは仕事中すら民間人を装ってる。殺気を隠した彼らを探すのは俺でも気を張り詰めてないと無理だ。しかもここは日本、銃が使えないとなると銃を使う殺し屋と違って特徴がないから見分け辛い」



多田の考えに対して空は熱弁する。

まるで違いが分かってるような言い方だ。

前に何かあったのだろうか?



「まるで護衛こなしたような言い方だね〜」



多田が疑うかのような聞き方で尋ねた。

空は失礼な奴だなという風な顔で多田を見るが、その顔をもっと多田にして欲しい。

風な何も結構失礼な奴なのだから。



「ようなも何もこなしてる」


「ハハハ、冗談だよ」


「でもまあ、殺し屋を相手するぐらいなら、兵士とか相手する方がよっぽど楽だ」


「その心は?」


「見分けやすい」



こっちもこっちで危険だ⁉︎

もう殺ると言う前提で話してるし……

と言うか、両方と戦った事あるの?



「へぇ〜、特徴ってのはなんだい空君?」


「銃をよく撃つ奴は手にタコが出来てる。後は匂いだな。硝煙の匂いが微かに匂う。手を隠して香水とかで誤魔化しても俺なら見分けはつく」


「なるほど、手を隠したとしても硝煙の匂いで分かる訳か。で、ナイフは何処にでも隠せるし、仮に、手にナイフを使って出来るタコが出来ていたとしても隠せるし、火薬なんて使わないからまず匂い自体が無いのか」



そうだと空は頷いた。

長年の戦士としての勘が見分けるのに繋がってるのだろうか?

いや、経験もかなり含まれている。

そう思うと、この目の前の男はかなりな実戦を経験している。



「で、纏め終わったんだが。そろそろ行かなくて良いのか?」


「時間的にはまだ余裕だよ。それよりおじさんもっと空君とお喋りしたいなー」


「断る。公私混同していいなら俺は無口になるぞ。その方が楽だ」


「またまた〜。とか言って会話に参加してくれちゃうでしょー?」


「……もう黙る」



空は殺意がこもった目で多田を睨むと、窓の外を眺めるようにして黙ってしまった。

その後、多田が「おーい!空君〜?」と呼びかけても返事すら返さない。

そのまま時間だけが過ぎ去り約束の時間が近付くと、多田の「そろそろ時間か……」という言葉に空が反応を見せた。



「…会計よろしく」



空はおもむろに立ち上がるや店員に数言何か言うと、「かしこまりました」と返事が返ってくる。

そのまま店を後にする空に多田は冷や汗をかいた。



「私の分もよろしくお願いしますね」


「君もか⁉︎ まぁ、いいでしょう。払ってやりますよ。どうせ税金から出ますし…」



全員の分コーヒーの料金を多田1人が払う事になった。

支払いを終え店の外に出るや、目の前のパーキングエリアに止めてある車の前で空は早くしろよと言った目で多田を見てきていた。




「こんなとこで2千円も取られるとは……ねぇ、空君?君一体何杯飲んだの?」



車を走らせる中、多田は予想外の出費に溜め息を吐きながら、空に内容を聞けば…



「……とりあえず一番高い豆にしろとは言った」



と返してきた。

これには多田もかなりなダメージを負っていた。



「まさかの計画的犯行⁉︎ ちょっとしっかりし過ぎじゃないですか?」


「しっかりしてる方が良いよと昔のあんたは言ってたよ」


「まさかは私が過去にそんな事を言ってたとは……」



多田は自分が過去に言った事を呪った。

まさか、過去の発言がそのような事を招くとは…

過去の自分に何やってんの!と過去の自分を叱りながら運転をする中、葵は空に近付き、耳打ちで真実をたずねた。



「本当なのそれ?」


「もちろん嘘だ」


「え?」



空はなんの悪びれもなくそう言って来た。

もう、清々しいほど率直な返答だ。

何か言うべきことがあるのだが、言ったところで華麗に論破されて終わるのが目に見えて来る。

そう思って項垂れてると、空はなにやら続きを喋り始めた。



「問題ってのは、バレたから問題になるのであって、バレなければ問題ではないんだよねー。とは言ってたがな」


「あなたの担当が多田さんだった理由が良く分かりました…」



この横にいる問題児の相手を務めれてるのは、問題を問題にさせないとする事が出来る、この目の前で運転してるおっさんだからなのだろう。

問題児の問題部分を除けば不思議と普通に見せる事は可能なのだろう。

と言うより、下手すれば優等生にだって見せれるのではないだろうか?

この様子だと、私の知らない3年前に色々とやらかしたんだろうな……

知りたくは無いけど。

気付けば多田は気力を取り戻したようで、車の速度が少し上がった。



「後2キロほどで着くけど、空君。身につけてる武装は?前も言ったけど、公の場であまり抜かないでくれたまえよ。後処……フォローが大変だからね」



今、後処理って言ったよこの人!

言い直してももう遅い。

とても問題にさせなければ良いとか言ってた人の発言とは思えない。

空はそれに全くの疑問も抱かずに答えていた。



「ハンドガン、コンバットナイフ、カランビットナイフ。後は学園の方に言って他の武器は置かせてもらう」


「他と言うと?」


「ショットガン、スナイパーライフル、アサルトライフル、PDW、グレネード数種、プラスチック爆薬、クレイモア対人地雷、予備弾とその他は……」


「おおーと、これ以上おじさんに言われても分からないなー。と言うより武器多くない空君?」


「用心した事に越したことは無い?だろう。最悪の場合俺1人で殺り合う」


「それ、最悪な状況しか考えて無いよね、ねぇ?」


「常に最悪な状況を考えて行動するのが当然だ。……取り敢えず前見ろ」



多田が後ろを向いて話していただけあってか、さっきまでの台詞を台無しにするかのように空は困った顔で車の進行方向へ指を差した。

50メートル先に道路を横断しようとしていた猫が、向かってくるこの車に気付き、見事に硬直していた。

多田は思いっきりブレーキを踏み、車は手前で止まり猫は引く事はなかった。

多田は「あっぶねー、危うく轢くところだったよ」と冷や汗を拭っていた。

おかげで車の中の物があちこちに飛び散り大変な状況だ。

このままでは先が思いやられる……

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