mission 5

「紹介しよう空君。この2人は君が来るまでの護衛を務めてくれていた特殊作戦群の大河内君と第一空挺団の赤田君だ」


「どうも」


「赤田だ、よろしくな坊主」



ニッコリと笑いながら朝倉 直義は護衛に付かせていた2人を紹介し始めた。

先程まで苦悶の表情をしていた第一空挺団の赤田 |仁(じん)は、投げられた事がまるっきり嘘のようにけろっとしていた。

それどころか、総理と同じように笑みを浮かべながら空の肩をぺしぺしと叩いた。

一瞬驚く空だったが、何度も自分の肩を叩かせる訳もなく、再び赤田は投げ飛ばされた。



「うっ……結構効くねぇ」



受け身は取ってはいるものの、壁に勢い良く激突しており、その衝撃はかなりなものにも関わらず再びけろっとして立ち上がる姿に葵は絶句した。

と、言うより若干引いていた。

(本当に人間か…あいつ?)

投げた本人ですらその異常なタフさには驚いていた。



「……で、あなたを護衛するのは1ヶ月後な筈なんですけど、なんでこう早々に呼びつけたのか理由を聞いても?と言うより、何故あんたの娘なんか護衛しないといけない…日本の|S S(シークレットサービス)の護衛で事足りるだろ」


「そうしたいのは山々なんだがね。そうも言ってられない事態なんだ。このインターネットに出回ってるこのせいと言うべきか……」



そう言うと朝倉首相はタブレットを渡してきた。

書かれていたのは長い脅迫文。

日本の首相に対してアメリカの犬だのなんだの書いているかと思えば、今度は弱小な民族だの民族批判。

そんな前置きの後に今回の世界首脳階段の中止しろとの忠告と無視した場合に日本の首相とその家族を殺すと宣言し、家族の写真を添付していた。

(凄いありきたりだな……しかも身元が割れてるとは、かなり危険だ…)

ソラは呆れながらタブレットを返す。



「大体は分かった。でも、確実に守るのは無理だ。護衛対象が他に2人もいるなんて聞いてない」


「おお!妻の方も守って貰えるのか!」


「安心しろ。あんたが社長の知り合いじゃなきゃ既に帰ってる。あんた以外の護衛に金だしてんだろ?」


「私個人から払えるだけは払った。後は君に承諾して貰うだけだったんだ。だが、それも杞憂だったよ。良かった。ありがとう」


「それより資料、あんたの娘と妻の。妻の職業、娘の通ってる学校。なるべく詳細なやつで」



胸を撫で下ろし安堵する朝倉首相をよそにソラは手を伸ばした。

首相は横に控えていた秘書に二、三言言うと、秘書はあらかじめ用意していた封筒を空に手渡した。

空は封を解くと中の資料を確認する。

(良かった……英語だ)

文が英語だと言う事に安堵しながら、かなりな速度で資料を流し見ていた。



「娘と妻の距離はそんな遠くない。娘が通ってる高校は私の妻が理事長をしている。妻の方には話しを通してある。明日には君の編入手続きが終わるだろう」


「やはり高校には通った方が良いのか?」


「君の歳で学校に通わない子の方が珍しいよ。それに、学校での方が活動はしやすいと思う」


「………」



空は考え込むように黙り込んだ



「どうした?君と同い歳の子は苦手かい?」


「人と接するのが苦手なだけだ」


「君と似通った歳の子と関わるだけでも君には有益な事だと私は思うよ。だから、この依頼が終わるまでの間、高校生として過ごしてはくれないだろうか?」


「やるだけやってはみるさ。だけど、あまり期待はするな。俺にだって苦手な事はかなりある」


「分かった。君の言う通り、期待せずに待つとしよう。明日は妻の方に色々と聞いてくれ」



そう言って総理はニッコリと微笑んだ。




こうして会話を終えた帰りの道中。

日本に着いた頃は太陽が燦々と照り付けていた空も、今では真っ暗になり空は夜と言う強烈な自己主張と静寂感が混ざったような色をしていた。

高級リムジンの一番後ろの座席に座りながら空は、タブレット端末を手に、渡された資料を見つめていた。

メガネは掛けていないものの、その姿はまるで仕事の出来るビシネスマンのようであり、葵はその姿に見惚れていた。



「何故俺を見る?」


「す、凄いね空。日本のトップとあんな風に話せるなんて…」



見られている事に気付いた空は睨んできた。

葵は慌てて誤魔化そうとしたのだが、



「皮肉のつもりか?」


「………」



と空はタブレット端末から視線すらズラさず、容赦ない一言を浴びせてくる。

強烈な一言に葵はしゅんとなり、俯きげになり、黙ってしまう。

これには空はどうして良いのか分からず、困ったような顔をした。



「冗談だ。…何故そんな顔をする」


「別に。なんでもないよ」


「そう。ならいい」


「「………」」


(会話が下手っ⁉︎ 何ですかね、この不器用な2人……)



空の対面に座って一部始終を見ていた多田はその不器用な2人にもどかしさを感じていた。



「ねぇ、空君。君もう少し会話というものをだね……」


「言っただろ。俺は会話が苦手だと。人と接すると寒気がする」


「嫌だな〜、それじゃまるでおじさんと話す時も寒気がしてるのかな?」


「ああ感じるね。それもかなり強烈なヤツが」



タブレットをスリープモードにしながら空は皮肉たっぷりに返す。

今までタブレット端末で資料に目を通していたため、殆ど車の外の光景など気に留めはしなかったが車窓いっぱいに東京駅が写っていた。

そこで、空は大事な事を一つ思い出した。



「ここでいい」


「良いのかい、ここで?」


「今日は色々あって疲れた。ビシネスホテルにでも泊まる」


「君の祖父母はまだ生きているだろう?」


「だから何故その情報持ってる……」


「君の事は3年前にかなり調べてはあるんだ。君が望めば、調べて欲しい人ぐらいちょちょいと調べられる。で、君は何故帰らないのかい?」


「死んだ奴がいきなりパッと出て来て、のうのうと帰れるとでも?俺なんかに居場所なんてないよ」


「止めてあげてくれ」



多田が運転手に一言、それだけ言うと、リムジンは東京駅前に停車し、空が座る側のドアが開かれる。

空はリムジンから降りると多田の方へ向き直り、



「明日は何処に行けば良い?直接現地に行く事も出来るが?」



明日の予定を聞いていた。



「いや、それは避けたい。3年前と同じ場所と言えば分かるかい?」


「了解した」


「家に行かないって事はこれから何か用事でも?」


「いや、これから会う予定の奴が一人いる」


「もしや」


「安心しろ、あんたが思ってるような奴じゃない。あんたで言う会社の同僚?みたいなものだ」


「安心、安心」


「なにが安心なんだか……」



呆れた顔でそう言うと、ドアは閉められ空は人混みの中に消えて行く。

多田は空の姿が見えなくなるまで窓の外を見続けた後、運転手に出してくれと言い、リムジンは出発した。

多田はリムジンの中に置いてたままのタブレット端末を拾うと、それをいじり始めた。



「ねぇ葵君。君はいつまで窓の外を見ているつもりなのかな?」


「なっ⁉︎」


「カマかけのつもりだったんだが、本当に窓の外でも見てたのかい?」


「………」



返答は無言の右ストレートだった。

多田の胸に直撃した瞬間、ゴゥッ!と重たい音が響いた。



「地味に腰の入ったパンチは痛ぁっ⁉︎」



衝撃が凄まじく、殴られた箇所を押さえながら車の中で身悶える多田。

葵は怒りで顔を真っ赤にしていた。



「まさか本当に惚れた訳じゃ無いだろう?冗談だよ、冗談」


「そんな冗談は笑えませんよ!」


「お詫びに一つ空君の情報を与えよう。空君はね、昔、かなり有名な企業社長の息子だったんだよ。なんで彼が傭兵になったのか調べてみると良い。かなり面白い生き様だよ。君のお父さんにも通じる情報もある筈だから」


「なんでいきなりそんな情報……」


「さぁねー、おじさんもう歳だからなんて言ったのか覚えて無いなー。さぁ、明日も早い。宿舎に戻ったら明日の準備をしておきなさい」



多田にごまかされ、釈然としないままリムジンは葵が暮らす宿舎へと向かった。



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