狂気再び
小型艇から出撃した俺たちは、あまり速度を上げ過ぎずにシヴァの反応を追う。今回の出撃では推進剤タンクは装備していない、熱にやられれば一瞬でダメになる上、衛星軌道上で戦うには邪魔にしかならないからだ。そのためいつものような無駄遣いは一切出来ない。
「アイキ、特にお前は毎回スラスターをダメにして帰ってくるんだから、今回は急に噴かしたりするの、やめろよ」
「わかってるよ、それにエマの一撃があれば勝負は決まるんだろ?」
「そうやってプレッシャー押し付けるのやめて……」
「おお、すまん」
シヴァを確認出来次第、俺とエマは二手に散開、エマのレーザーライフルでシヴァを狙撃する。それで破壊完了すればシヴァの機体を回収して撤退。失敗した場合は俺がサイドから奇襲をかけて、この
「よし、見えたぞ!」
「オスカーさん、シヴァモニター越しにですが視認しました」
「よし、二人とも先ほど伝えた通りにだ、いいな」
「了解!」
俺たちは手を放し、エマはその場で停止するとレーザーライフルを構えスコープを覗き込んでシヴァに狙いを定める。その間に俺はシヴァに接近する。正直、本当の静止した状態での狙撃なんてしたことのないエマの事が心配だった俺はオスカーに専用の他に聞こえない回線で応答を求める。
「オスカー、エマの様子は?」
「脳波、心拍数、その他諸々、全て正常だ、心配なのか?」
「はは、そういう訳じゃないけどさ……一応寝食を共にしている間柄だし、気にかけてやろうかなぐらいで……」
「なんだ、やっぱり心配なんじゃないか」
「だから、違えっての!」
やっぱりこのいけ好かないオスカーなんかに聞いたのが間違いだったんだ。いくらどう言ってもわざと曲解されてしまいそうだ。すると通信の先で多くの笑い声が聞こえてきた。
「お、おい!なんなんだよ?」
「いや、あんなチビだったお前が、色恋に目覚めたって言ったら、みんな笑ってしまってな……くく……」
「お、お前も笑ってんじゃねぇか!おいお前ら!戻ったら覚えていろよ!」
オスカーめ、まさか言いふらすとは思わなかった。普段ならそんな事絶対にしないのに、いったいなんだというんだ。それにしてもチビの頃か……あの時はまさか、こうしてストライカースーツで戦うなんて想像もしていなかったな。直接回線を切って、全体の声が拾えるオープン回線に戻すとエマの声が聞こえてきた。
「シヴァの動きが完全に停止しました、狙撃します」
「了解、アイキも準備しておけ」
「ああ、了解した」
エマがレーザーライフルのエネルギーをチャージする。最大出力で撃てば
「やっぱり調整不足か……」
「しかし、かすりでもすればアイキがそこからトドメを刺せる」
整備士のおっちゃんとオスカーの声が聞こえてくる。しかしたった一日足らずで敵の武器を改良、使えるところまで整備してくれただけでも十分に凄い事だ。
「カウント……入ります……」
エネルギーの充填率が上がってきたのか、エマが発射タイミングの
「レーダーに反応!高速でこちらに接近してくる物体あり!」
「こんな時に!?いったいなんだ!?」
小型艇のオペレータ―の慌ただしい声に一同騒然とする。俺も一瞬取り乱しそうになったがエマの様子を見るとそちらには見向きもしないようだ。
「どこからだ!?」
「月の方向からです!数は二体、アクティブスーツサイズです!」
こんな時に邪魔をされたんじゃ、たまったものじゃない。俺はエマとその反応の間に立ち、
「あれは、エマが
「接近したアクティブスーツから高エネルギー反応が射出!これは!?」
俺は正面から向かってくる光の塊に向かって咄嗟にフルムーンセイバーを振ると、その光を、俺の剣の光が両断した。両断された光の塊は俺の周りを覆うように全体に拡がり、やがてゆっくりと消えていく。
「レーザーだと……どういうことだ……」
「
「三……ニ……一……」
その時、エマのレーザーライフルから超特大のレーザーが照射された。光の塊となったそれは地球の大地を見下ろすシヴァに向かって真っすぐ向かっていく。しかし、彼女の狙撃がシヴァに届く直前で、エマの放った光の弾丸に、横から同じだけの出力の光の弾丸が撃ち込まれ相殺させられる。
「そんな!?」
「エマ!来るぞ!」
俺が警告した時には、既に黄色の方がレーザーソードを持ってエマの元に突進して来ていた。エマの狙撃を妨害したのは緑色の装甲板のスーツ。
「コイツもレーザーソードを!?」
「しまった!?」
「おせぇよ!!」
エマは咄嗟にレーザーライフルを盾にしようとするが、俺はエマの目の前に俺が割り込んでフルムーンセイバーで守る。鍔迫り合いが、今までに見たことが無いほどの光を放つ。
「お前……あの時のか……!!」
「殺す……」
「は……?うぉっ!?」
突然腹部に感じる鈍痛、鍔迫り合いが終わらないにも関わらず俺の腹に蹴りを一撃くらわせてきた。体が吹き飛ばされ、エマに受け止められる。
「大丈夫?」
「すまない、大丈夫だ」
エマはライフルを仕舞ってから二丁のハンドガンを構え、眼前の敵に向かって乱射する。しかし、その全てがレーザーソードによって焼き切られてしまう。
「確か前に聞いたな……緑の方がミーシャ・クロイツで……この黄色のがマーシャ・クロイツ……だったか?」
「そう、ただでさえ厄介なのがなんでここに……」
「それはな……」
もう一度、今度は更に出力の解放され、巨大な刃となったレーザーソードを振り下ろしてくる。俺はもう一度それを受け止めるが、あまりの威力にフルムーンセイバーは耐えられず、こちらの刃に敵の刃が食い込んでいく。
「このまま押し潰す……」
「くそ……こっちも出力を上げて……」
「アイキ!頭下げて!」
声に反応して頭を下げると、頭上をレーザーが通過する。もし聞かずに頭を上げたままいたら頭貫かれていた。しかも撃ったのはエマだ。
「こ、殺す気か!?」
「いいから前見る!」
黄色のスーツことマーシャ・クロイツはエマの放った弾丸を回避するが、その気が逸れた隙に二人で巨大レーザーソードの下から抜け出す。するとエマは真っ先にもう一体、緑色のスーツことミーシャ・クロイツのもとに飛んでいく。こちらは依然として大出力レーザー同士のぶつかりあいが続く。
「アレ《シヴァ》を放っておいたらどうなるか、わかっているのか!!」
「ああわかっている……地球の人間はかなり減るらしいじゃねぇか……」
何度も鍔迫り合いになるが、純粋なパワーならマーシャのレーザーソードが勝っていた。一瞬力を強められた俺の刃は弾かれ、次の斬撃を俺はやむを得ずシールドで受け止める。シールドの四分の一が焼き斬られ、大気圏突破用だというのに使い物にならない形になってしまう。
「地球の人間が死ぬなら、壊さなければみんなが不幸になる、なのになんで邪魔をする!?」
「人口が減って……なにがいけない?その方が良いじゃねぇか!!」
「何を言っているんだ!良い訳がないだろうが!!」
直後、再び蹴りを入れてこようとしたマーシャの足を、同じようにこちらも蹴りを繰り出して相殺する。すねの装甲板が衝撃に悲鳴を上げている。だがそんなことに構っていられる余裕なんてない。俺は相殺した蹴りをきっかけに一度距離をとり、小型マシンガンを連射し、ほぼ全弾焼き切られるがそのうちのほんの数発が装甲に命中し一瞬の体のよろけを生む。
「もらった!」
「甘いんだよ!」
右に回り込んで斬りかかろうとした瞬間、マーシャの左腕の装甲板だけが外れ、勢いよく俺の顔面に向かってくる。ギリギリのところで避けてバイザーへの直撃は回避したものの、肩にそれはぶつかり、身体がよろける。身体を回転させ勢いをつけたマーシャのレーザーソードを間一髪、上体を逸らして回避する。しかし、がら空きになった腹にそのままの勢いで拳が落ちてくる。身体は吹っ飛ぶが、どうにかスラスターで体制を整えるが、更にマーシャは向かってくる。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!」
「このまま……終われっかよ……!!」
まっすぐ振り下ろしてくるレーザーソードに対し、俺は腕のスラスターだけを噴かし、その勢いでフルムーンセイバーを振り上げ弾き返す。バイザー越しだが確かに、マーシャ・クロイツが驚いているのがわかる。
「まだまだ……これからだ!!」
***
マーシャ・クロイツ……彼女を止めることが出来るのは、妹であるミーシャだけのはず……それなら私は……。
「エマさん、退いてください!」
「アナタ、状況が見えてるの!?このままじゃ地球の人たちがどうなるか……わかっているの!?」
私がミーシャに接近してからずっと、私はハンドガンで、ミーシャはレーザー砲での互いの攻防が続いている。ほんの数メートル、弾丸が発射から届くまで1秒もない世界。相手の銃口を見ていては遅い、全身の動きを見て先読みに先読みを繰り返し、回避と攻撃を並行していく。
「あの時の話の続きを、させてもらえるかしら」
「話の続き……!?」
「ええ、アナタは何のためにシングルストライカー計画をしようと思ったの」
一瞬の油断は命を落とす。でも彼女の真意を聞かない事には何も始まらない。ただミーシャの眉間を撃ち抜いても何も解決しない。なにより、そんなの私が納得しない。
「それを言ってどうなるんですか……!!」
「私にもわからないわよ……でもあなた一人で抱え込んでも何も解決しない、前に進まないわ!!」
「うるさい!!」
彼女が放ったレーザーを回避し、そのまま一直線に間合いを詰める。ミーシャが懐から抜こうとしたナイフを手の甲の装甲板で叩き落し、そのまま両腕の手首を掴む。
「答えて……シングルストライカー計画だけじゃない……なぜ、戦うの……?」
「私は……」
バイザー越しに彼女の瞳を見つめる。ミーシャは視線を逸らすがその瞳にはかすかに涙が浮かんでいた。
「お姉ちゃん……元の優しいお姉ちゃん……に戻ってほしかった……でも……!!」
突然の膝蹴りが私の腹を打つ。装甲板越しとはいえ、スラスターで加速した蹴りをみぞおちに受けた私は、衝撃のあまりに手を放してしまう。そして解放された腕が振り上げられる。両手を盾にしてバイザーを覆うように守るがその上からでも拳は振り下ろされ体は後ろに吹っ飛ぶ。
「でもそれは、またお姉ちゃんを苦しませるんです!私が願えば、お姉ちゃんはもっと壊れる!もうこれ以上壊れていくお姉ちゃんは見たくないんです!!」
唯一の肉親である妹を幸せに出来なかったことが、姉であるマーシャの破滅の始まり。確かにそうかもしれない、互いに互いの幸せを願った事で互いが重しになっていく。その悪循環を断つためには願いを捨てる……。
「でも、願いも無いならどうして私たちに戦いを……妨害をしてくるのよ!」
「それが、お姉ちゃんの望み……あなた達への復讐がお姉ちゃんの願いだからよ!」
「そんなの願いでも望みでもない……ただ憎しみが伝染してるだけじゃない……その先には絶望以外何もないわよ!!」
「そんなことわかってる!!……でも、他にどうしようもないじゃないですか!!」
更に激しくなる猛攻。レーザー砲だけでなく、前に戦った時には無かった
「それなら……狙い変えるだけ……」
ミサイルはまだ追尾している。ショルダーバルカンも掃射は止まらない、背中にチラっと見える四角い箱状のパーツはおそらくバルカンの拡張弾倉、つまりまだまだ弾切れはない。でもレーザー砲だけは、私の一瞬の隙を狙い、自分からは撃ってこない。私は右手のハンドガンを腰の
「しまっ……!?」
「かかった……!」
レーザー砲が放たれる瞬間、私の放ったライフルの弾はレーザー砲の銃身に直撃し、砲撃の方向が逸れる。私の眼前を過ぎ去るレーザーは、私を追うミサイル全てを焼き払った。
「おい!おいエマ!後ろ見ろ!!」
「え……!?」
突然聞こえたアイキの声に驚き、一瞬後ろを見た時、私は目を疑うと同時に熱くなって重大なミスをしたことに気付いた。
「シヴァが……」
私が逸らしたミーシャの砲撃は、あろうことかシヴァの半身を焼き溶かしていた。だがそこにはまだ、あの赤いコアが光っている。急ぎライフルにレーザー用弾倉を挿し込み狙いを定めるが、その時大量のミサイルの煙の中から、生き残りのミサイルが一つ。
「しまった!きゃあ!!」
「エマ!!?」
ミサイルが右肩の装甲板を吹き飛ばす。そして放ったレーザーも射線が逸れてしまう。シヴァは異常な速度で自己修復をしていく。そこにフルムーンセイバーを構えたアイキが突撃していく。
「させるかぁぁぁ!!」
後ろから斬りかかったアイキの刃が届く直前、何かにその刃は阻まれた。アイキの刃を遮ったのは私たちのレーザーと同じ青白い光の刃。出どころは、シヴァの手の上。するとシヴァの頭部だけがゆっくりと後ろを振り向き、赤いツインアイが光る。
「自動防御システム作動……
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