一点突破の破壊力
アルが作戦を開始してから二時間以上が経過した頃。俺とエマはジェラード・ガーランドと名乗る男のストライカースーツ、ロンギヌスと会敵していた。
「おいおいまるで戦い方がド素人じゃねぇか……!!」
圧倒的なスピードと一点突破の破壊力。元々非戦闘用のストライカースーツであるユニヴェールやシエルでは性能差が歴然だった。そのスピードゆえにエマの援護射撃もまるで当たらない、実質俺とジェラードの一騎打ち状態だ。
「エマ!どうにもこの状況じゃ二人相手しても意味ねぇ!量産機を仕留めてきてくれ!」
「わ、わかったわ!」
「行かせると思ったか!」
ジェラードは突進の軌道を変えて、エマに向かって加速する。だがそれを俺が予測していなかったとでも思ったのか。俺はジェラードがエマに到達するより先に動き出し、先回りをして槍を受け止めようとしたその時。
「えっなにこれ!?」
「貴様が先回りするのを、私が予見出来ていなかったとでも?」
ジェラードは俺とぶつかり合うずっと前に、左腕に仕込まれた鞭でエマの左腕を拘束していた。エマは左腕に巻き付いた鞭に引っ張られるとそのまま俺の背中に直撃させられる。
「ちっ、大丈夫かエマ!」
「ええ、大丈夫、アイキは?」
「まだまだいけるさ、任せろ、コイツは俺が止めて見せる!」
エマの腕に巻き付いた鞭を切断すると、そのままジェラードに斬りかかる。だが一撃を槍で軽く弾かれると、次にいくら振っても掠りもしない。ならこれは初見で避けた奴はいないぞ!
「ん、腕のスラスターだけ出力を上げたか」
「これなら避けられねぇだろ!」
だが、その一撃は槍の矛先で受け止められてしまう。だがこの程度で諦めていられるか。俺は
「なにっ!?」
ジェラードは一旦俺から距離をとる。さっきまでじゃ考えられなかったことだ。今の攻撃なら通用するってことか。そう確信した俺は、迷いなくもう一度刃を振り下ろす。だが剣を振り下ろすと同時にジェラードは小型の各部スラスターを巧みに使い、体を捻らせて俺の斬撃を回避する。
「まだまだぁ!!」
手首を捻り、
「意気込みはいい、度胸もある、殺すには惜しいが仕事なのでな」
地面に叩きつけられた俺に向かって、まるで星が落ちてくるかのように槍を構えて突進してくる。だがなぜ勝ち誇ったような事を言っている、まだ俺は終わってねぇぞ。
「まだだぁぁ!!」
「ぬお!?」
俺はジェラードの槍が突き刺さる直前に前面にある全スラスターを最大噴射。奴の勢いを殺すとともにそのボディを焼いていく。急いで俺の元から離れていったジェラードだったが、ロンギヌスの前面の装甲板やスラスターはもう使い物にはならなそうだった。
「これで姿勢制御なんてできたもんじゃねぇだろ」
「よくもここまでコケにしてくれたものだ……しかし……!」
ジェラードは今度は槍をこちらに向けて投げつけてくる。得物を投げるなんて正気だろうか。しかしすぐに俺は異変に気付いた。槍の柄に、さっきの鞭が巻かれている。
「まさか……!?」
俺が気付いた時にはもう遅かった。鞭の先でしなるように向かってくる槍の矛先は、俺のわき腹を、確実に、斬り裂いた。意識が……遠のく……。
ハッと意識を覚醒させるが、状況は変わっていない。どうやら気を失ったのは数秒だったらしい。斬り裂かれた部分は一瞬でスーツの緊急遮断機能のおかげで閉ざされてなんとかなったが、もう数秒遅ければ血中酸素が抜けて窒息死していた。
「それで意識を保っていられるか……高性能なスーツに感謝するのだな」
言葉を返す暇があるなら思考を巡らせろ……奴はソユーズテストに雇われただけの傭兵。おそらくヤツへの依頼は、量産されているシヴァの破壊をしようとしている者を排除しろとかだ。奴にとってのこの戦いの敗北は、量産シヴァの全滅だ。もう数十分経ったけれどエマは二桁破壊できていないみたいだ。俺がいかないと間に合わない……。
「それなら……」
俺は小型の銃で牽制をしつつ、シヴァの製造工場に向かって飛んだ。後ろから凄まじい速さで追ってくる。製造工場の上空に出たところで上から槍で串刺しにせんと急降下してくるジェラードの突きをギリギリのタイミングで避ける。ヤツが製造工場に落ちる直前に勢いを止め、こちらを向こうとした瞬間、俺は
「なにっうおぉ!?」
ジェラードは槍で受け止めたが、投げられてからも自身で加速する剣を、それも自分も同じ方向に飛ぶ勢いを殺し切れていない状態だ。奴は天井を突き破り工場の中に落ちていく。
「貴様ぁ!」
「これで終わりじゃねぇぞ!!」
俺は左腕に装備していたパイルバンカーを貫かんと左腕を前に出して飛びつく。当然それくらいなら避けられるだろう、案の定ジェラードは軽々と回避し薄ら笑いを浮かべた。しかし彼の笑みは一瞬で凍り付いた。
「悪いな、最初からこっちが狙いだ」
俺が狙っていたのは、ジェラードが背にしていた量産シヴァの一体のコアブロック。腕を伝わって聞こえてくる炸裂音でシヴァは機能を停止する。
「貴様よくも!!」
工場の中は既に完成したシヴァが縦横無尽に立ち尽くしている。こんな場所でこれを守りながら戦うなんて容易じゃないはずだ。それに比べて俺は破壊が目的なんだから自由に動ける。俺は槍を構えたジェラードから距離をとり、バックにシヴァが来るようにできるだけ位置取りをした。槍で飛び込んできたところを太刀で受け流し、そのままシヴァに突っ込ませる。直撃の感触があった時っていうのはそう止まれたものじゃない。
「しまった……!」
「もらった!!」
どうにかギリギリのところで止まったジェラードの背中に向かって、全速力でタックルをかます。槍はシヴァのコアに深々と突き刺さる。ヤツが槍を抜く前に距離をとって、出来るだけ多くのシヴァを潰さなければ……情報通りならあと、3時間を切っている。1時間やってたった十何個しか破壊できていないなんて論外だ。
「エマ!そっちは進んでないのか!?」
「こ、こっちも妨害を受けてて、ああもう!!」
これじゃ間に合わない、俺は更にもう一体にパイルバンカーを打ち込んで機能停止させる。後ろから接近してくるジェラードの槍を回避したところで太刀を叩きつける。背中をシヴァに叩きつけられたところをそのままパイルバンカーを構えて突進する。ジェラードの体ごとシヴァを貫くために。
「調子に乗るなぁ!!」
唐突に顔面に向かって突き出された槍を首を曲げてギリギリで回避する。肩の装甲板が槍の柄に擦れて火花を散らしていきながら俺は左手をジェラードの腹部に押し当てた。
「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鋼鉄の杭が、ジェラードのスーツの装甲板ごと貫き、シヴァのコアもろとも破砕する。腹部を貫かれて空いた穴を、
「なんとか……勝てた、か……」
だが、これからシヴァの破壊作業に入ろうとしたその時、突然全身に力が入らなくなった。全身に蓄積された疲労が爆発したのかもしれない。しかしだかと言って止まっている場合じゃない。ここで俺が止まったら地球が、俺の……俺たちの夢が……。
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