全てが終わる感覚

 僕のトラオムとシヴァ。何度もシヴァの攻撃を回避しつつ、コアに刃が届くように胸元を中心に双刃刀ツインブレードで斬りつけていく。しかし僕が侵入していることはもうバレているだろう。ここでシヴァとやりあっている内にも人質の命が危ない。この場をどうやって切り抜けるか……。シヴァを無視して突っ込んでいけば後ろから焼き殺される。コイツは堅牢な装甲に物理法則完全無視な再生能力。おまけに瞬間的機動力も兼ね備えている。


「とにかく、動きを止めないことには始まらない!」


 右腕に仕込んであるバルカン砲で牽制をかけ、直撃でかすり傷を負わせた場所を斬る。その一点だけをひたすら狙い続ける。ヤツの攻撃の速度を、反応速度を超えろ!


「もっとだ、もっと加速しろ!トラオム!!」


 ほぼ零距離で繰り広げられる死闘。相手は何度斬っても再生する化け物、こっちは一撃くらえば御陀仏おだぶつ。全神経を研ぎ澄ます。鋭く研がれたナイフのように。もう隠し立てする必要もない。僕はシヴァの両手首を掴み、両足先に仕込むように装備していたナイフを展開し蹴り上げるように斬りつける。


「もう一撃!!」


 そのまま同じ位置を足を振り下ろすことで斬りつける。さらに右足の膝からナイフが飛び出るように展開、そのまま膝蹴りを切り口に向かった叩きつける。前にコアがあったのはここだ、ここで足のスラスターを全開に、限界加速をかけて叩き潰す!!


 だがその直後、俺の目の前で大爆発が起こった。コアを貫いた感触はあった。それなら自爆か……でもこんなあっさり倒せるなんて思ってなかった。爆風で吹き飛ばされて、壁を突き破り屋内へと侵入する。すぐに隔壁かくへきが閉じるとトラオムが酸素反応を示した。どうやらこの先は酸素があるようだ。僕は余計な酸素の消耗を避ける為にバイザーを開けて進行する。


「来たぞ!」

「邪魔をするなぁぁぁぁぁ!!」


 僕の目の前に立ちはだかるのは横並び一列に並び銃口を向けてくるアクティブスーツの姿。


「だがそんなオモチャじゃ僕のトラオムは止められないぞ!」


 一番端に立っている者に向かってブレードを投げつけ、その腹を貫く。その刺さったブレードに飛び掛かり、腹を貫かれた男の肩に足をかけてブレードを引き抜き、横に並んでいる者達を斬りつけながら、まるで通り魔のように、その列を駆け抜けた。いくつものアクティブスーツ大爆発をバックに更に奥に向かって走る。


「いた!大丈夫ですか!?」


 ようやく見つけた捕虜になった人、彼らの腕を拘束している手錠を破壊して解放すると、僕は近くにある小型艇を見つけて運ぶ。


「これに乗って!」

「あの、アナタは……!?」

「詳しい話はあとでします!帰還ポイントをスカイラブに指定してますから早く!」


 諜報員の人をさっさと小型艇に乗せると、扉を閉めて小型艇は動き始める。僕がさっき通った道を通れるようにセットしたから大丈夫なはずだ。


「アイキ!聞こえるかアイキ!」


 すぐに報告の為に通信を試みるが応答がない、聞こえるのはまるで旧時代のテレビの砂嵐のようなノイズ音だけ。仕方なくオスカーさんに通信をしようと回線をいじっているその時だった。先ほど閉じた隔壁が、僕が手動で開くより前にレーザーによって焼かれ、開いたのだ。咄嗟に空気がなくなる前にバイザーを閉じる。


「嘘だろ……倒せてなかったのか……!?」


 俺の視界に入ってきたのは、爆炎の中から姿を現したシヴァだった。先ほどの攻撃でコアは確かに貫いたはず……まさかあれはコアじゃなく爆破装置……僕らがコアの位置を把握していることを先読みしてコアの位置を変えられていたのか……!?


「自己完全修復を完了、攻撃再開」

「まずい!!」


 スラスターを全部解放して小型艇に突っ込む。そのまま右手で小型艇のケツを押す。シヴァのレーザー砲は間違いなく小型艇を狙っていた。僕を倒すことよりも情報を持ちかえられないことを最優先にプログラミングされているのか。


「だったら、無理矢理にでもこっちを向いてもらわなきゃな!!」


 シヴァの目の前に入って再びブレードで斬り裂いていく。するとシヴァの顔が俺の方を向く。


「殲滅対象を一時保留、自己防衛システム作動」

「そうだ、こっちだけを見ていろ!!」


 先ほどと同じように足のナイフで斬りつけようとした瞬間、シヴァは突然後退し距離をとられ、振り上げたナイフは空を切る。その後どれだけ接近してもシヴァは距離をとってレーザー銃のみで攻撃をしてくる。


「まさか、こっちが遠距離戦を出来ないのを見越してか……!?」


 学習している。この無人兵器はただのマシンなんかじゃない。ここで仕留めないと手が付けられなくなる。少なくともこの機を逃せば僕は二度と勝てなくなる。


「それなら!!」


 今回だけ持ってきている小型のマシンガンで牽制をかけるふりをして、僕は天井を撃ちまくった。シヴァがマシンガンの弾丸を見事全てかわし切ってくれたのがさいわいだ。天井は崩落してシヴァの頭上に落ちてくる。それに気付いた時にはもう遅い。シヴァは瞬時に崩落した瓦礫を回避する、それを狙った俺のブレードが近付いてるとも知らずに。


「くらえぇぇぇぇぇぇ!!」


 僕の双刃刀がシヴァを貫く。だがコアを貫かないことには倒せない。だから僕は左腕をシヴァの傷口に突っ込む、小型爆弾をシヴァの体内に残して距離をとる。大爆発を起こすと同時に自己修復を始めるシヴァ。だが一瞬だけ見えた、シヴァの背中の腰に一瞬だけ赤く光るものが。


「そこか!!」


 限界速度を再び出して突進する。もうスラスターはガタがきている、これが最後のチャンスだ。僕はブレードで自己修復しようとしたコアの周辺を斬り裂いていく。逃がしてたまるものか。だが最後の一突きをきめようとした瞬間、双刃刀はレーザーソードによって焼き切られる。右足のナイフも焼かれ、膝に仕込んだナイフを叩きつけようとしたが復活した装甲板を破壊すると粉々に砕け散ってしまう。


「まだまだぁ!!」


 限界を超えた全武装があと一歩のところで届かない。だがまだ終わるわけにはいかない。左腕にとったマシンガンの銃口をコアと零距離に、突き刺すようにあてがう。


「これで終わりだ……!」


 零距離から放たれるマシンガンの弾丸。だがコアを破壊するより先にシヴァのレーザー砲が俺の肩越しに何かを狙う。俺は瞬時に気付いた。破壊される前に最大目標である小型艇を潰すつもりだと。


「やめっ……!?」


 だが、そのレーザー砲の銃口はゆっくりと、僕の目の前にあてがわれた。


 一瞬白く光る世界。そして暗転。あとからくるのは左目を焼かれる激痛。いや、これは痛みじゃない、どんな言葉にも表すことが出来ない痛みを超えた何かだ。バイザーはすぐに緊急遮断システムで閉じられるが、左目は完全に何も見えなくなっていた。


「っっ……があぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 それでもマシンガンのトリガー引き続けた。だがマシンガンの弾丸も尽きた。コアはヒビは入っても破壊は出来ていない。これで終わりなのか……もう俺には……。


「いや……違う……まだ、ある……!!」


 とっておきの武器が……。


「この拳がぁ!!」


 右腕でコアを鷲掴みにすると同時にトラオムの出力リミッターを解除する。そして今、確かに手のひらに感じた。全てが終わる感覚が……握りつぶされたコアの感触……僕は……勝ったんだ……。


 目の前で起こるシヴァの爆発。その爆風で吹き飛ばされ、そのまま宙を漂う。もう指一つ動かせる気がしないや……今だけは少し、眠らせて……くれ……。

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