想定外
僕は、地球の人間が嫌いだ。僕の家族をみんな殺したから……。脅しでストライカースーツを着ていたとはいえ、僕が耐えてこられたのは地球にいる僕の両親の仇をとるため。宇宙船ジャックテロの首謀者の、いまだに捕まっていない者たちを殺すため。
僕がストライカースーツの被験者になった7年前、まだ10歳の時だ。スーツの実験をする代わりの報酬は、とても子供が手にする金額ではなかった。金を持て余した僕は研究所の権力を使わせてもらい、父にボーナスが入ったという形でお金が支払われるようにした。
「なんだかよくわからんが、私の仕事っぷりで特別ボーナスが入ってな!」
「まぁ!それじゃあ今度お休みをとって旅行にでもいかない?」
両親は大喜びだった。それもそうだ、父は小さな食品製造工場で働く作業員。給料も少なく、突然大きなお金が入っても上に立つ組織は研究所と繋がっているのだから、雇う側に不都合が起きることもない。家族で初めての旅行に行ける事をただ喜んだ。だが……。
響く銃声。覆面の男たちに乗っ取られた
「この子は私達の息子ではない!」
父がついた嘘。僕をその生け贄の対象から少しでも遠ざける為についた罪の無い嘘。僕も嘘をついた。この男は父親か、と聞いてくる男の前で必死に首を横に振った。その数秒後、僕の目の前で父と母の頭を、数発の鉛弾が貫いた。僕は声を上げられなかった、泣けなかった。何か反応をすれば僕も殺されるかもしれないから。必死に現実から、ただただ目を逸らした。
アクティブスーツの鎮圧部隊が突入してくると、すぐに奴らは拘束された。もしこんな旅行に来ていなければ、いやそれ以前に僕が余計なお金を父に贈るような真似をしなければ……自責の念が心を蝕み、限界を超える直前で考え方を変えた。
「地球人は……敵だ……」
愚かしく、汚らわしい、最低な人間の考え方だ。両親を殺した男たちと違うのは立ち位置だけ。逃げるための考え方で袋小路に追いやられる。そうして壊れかけた僕を助けてくれたのが、ケーラだった。彼女は僕と一緒に電車ジャックに巻き込まれた間柄で、両親を失った事を知っている彼女に救われた。
そして僕は変わったんだ。ケーラと一緒に過ごして……アイキと出会って、地球生まれの人間も一通りじゃない、ましてや同じ人間でただ生まれた場所が違うだけ。憎しみは消えない、でも最初から憎むのは間違っている。それだけはわかった、前に進むことができた。
「だから今は……ただ駆け抜けるんだ、僕の信じた道をまっすぐ!!」
***
アルが出撃してから一時間。俺とエマも小型艇でソユーズテストに近付きつつあった。これ以上近付けばレーダーに感知されるということで、俺とエマは小型艇から出撃、熱源として感知されないように月面を歩いて進行する。
「いいか二人とも、アルフレッドくんからの通信があるまで絶対にスラスターは噴かすな、あと火器の使用も厳禁だ」
「わかってますよ、でもさオスカー、この左腕の装備が重すぎるんだよ」
「我慢しなさいよ、それがあればシヴァを一撃で倒せるんだから」
俺たちの左腕に外付け装備されたのは巨大なパイルバンカー。炸薬を使い爆発的な速度で鋼の杭をを打ち込む武器だ。零距離での使用を前提としているため、動いている敵にはほとんど効果がないらしいが、今回の作戦にはうってつけだ。
「よくこんなもの作ろうと思うもんだな」
「アポロの技術者達が冗談半分で作ってたものに調整を加えたものだからな」
それって俺が最初に使っていた太刀と同じ理由で作られていたっていうことなのか。技術者ってのはどこの誰でもたいして違いはないらしい。
「もうそろそろ、こちらからの通信も切らせてもらうぞ」
「ああ、わかったよ」
それからしばらく歩いて二時間ほど経った頃、もうそろそろアルから連絡があってもいい時間だ。こちらから通信をすれば傍受される可能性もあるから、アルが完璧に良しと思ったタイミングでしか通信は出来ない。つまりこっちは待つことしかできないわけだ。俺はエマの肩に手を触れて接触回線で話しかける。
「オスカーとの通信も無いし、こうしていると暇だな」
「そうね、でもずっと肩を掴まれているのもなんだか嫌だわ」
「じゃあどうするんだよ?」
「こうするのっ」
するとエマの肩に置かれていた俺の手は唐突に引きはがされ、次に手のひらに感じたのは彼女の手のひらの感触。あろうことかエマは俺の手を握ってきたのだ。
「こうして手を繋いでいきましょ!」
「ちょっ!それはなしで!」
俺が無理矢理手を振りほどくとエマは不満そうな顔で俺の目をバイザー越しに覗き込んでくる。俺はエマから視線を逸らして前を見る。
「今はその……作戦中だろ……アルが頑張ってるんだからさ」
「そ、そうよね、ごめんなさい」
我ながら最低だ。振りほどいた理由なんて気恥ずかしさに耐えられないからであって、今の今まで作戦の事を忘れてしまうほど頭が沸騰していたのは俺の方なのに。
「あ、見えて来たわ」
「ああ、あそこがシヴァの製造工場だな……」
あと4時間もしたら、あそこの中にいる無人機たちが全て起動する。そして地球には何億の人間を虐殺する鉄の雨が降り注ぐ。そんなことはさせられない、見ず知らずの人々を助けるとか、世界のためとかそんなたいそうなことは正直どうでもいい。ただ俺は壊されたくないんだ。地球は俺とエマの夢だから、必ずあの青い地球から俺たちの月を見るんだ。
「ちょっと待ってアイキ、この反応!!」
「なんだこの熱源反応は……!速い!!」
こちらに向かって異常な速度で突進してくる白黒カラーのスーツ。俺はエマを突き飛ばしてその反動を使って後退。俺たちの間にまるで流星が降ってきたかのような衝撃波が起こる。砕け飛散する月の欠片から身を守りつつ、敵を見定める。直後、槍を持ったそのスーツは土煙の中からこちらに向かって突進してくる。ギリギリのところでノヴァブレードを抜刀し受け止めるが、その重さは異常で耐えるだけでいっぱいいっぱいだった。
「てめぇどこのどいつだ……!!」
「そうだな、傭兵としては名乗る必要もないわけだが、私の一撃を受け止めた褒美に教えてやろう」
この男、体格が俺とは桁違いだ。190は超える身長に強靭な肉体。そしてスーツの機動性とパワー、身の丈ほどある巨大な槍を駆使した戦闘向けの一点突破型のスーツか……。
「私の名はジェラード・ガーランド、そしてこのストライカーはロンギヌス、貴様は?」
「アイキ・ノヴァク……こいつはユニヴェールだ!!」
俺は全身のスラスターをフル稼働してこの男の槍を振り払う。しかしなぜ俺たちの接近がバレたのか……まさかアルが失敗したわけじゃ……。
***
油断?……違う。慢心?……それも違う。これは、想定外だ……。アクティブスーツの妨害は想定出来ていた。でも僕とトラオムならその程度は切り抜けられる。でもまさか……。
「破壊プログラム作動……全武装解除」
「もう一体いたのか……試作型が……!!」
僕の前に立ちはだかるのは、つい先日戦ったシヴァと同型の無人機。こうなってしまっては仕方がない。僕は
「攻撃開始……」
「行くぞ!」
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