アビーちゃんのキューピット大作戦
アビーちゃんのキューピット大作戦とやらが開始されると、アビーは
「なんで……いっつも阻止してくるのがエマさんなのよぉぉぉ!!」
「アルなんもしてねぇなぁ……」
毎回アビーが声をかけてきてすぐ、アルが付け入る隙もなくエマが前に出てしまうんだ。これはアルがヘタレとか根性なしとか言う前に、エマが男らしすぎるのではないか……。
「こうなったら……エマさんを引っぺがすしかないね……」
「引っぺがすってどうやって?」
俺とアビーは前を歩く三人とは少しだけ距離を置いて作戦会議のようなことをしている。しかしホームシティならいざしらず、知らない街でエマだけを離す方法なんてどこにある?口実を作るにしても、かなり無茶なことになるだろう。
「じゃあさ、アーくんがエマを連れ出してよ、おてて繋いでさ」
「あーはいはい俺が連れだせばいいのな……おてて繋いで仲良く……って何言ってんだ!?」
「ダメだよ~女の子をエスコートする時は、ちゃんと手を握らないと!」
俺がエマを連れ出すのは、少し頭捻れば出来ないことはないが、手をつなぐ必要なんてどこにもないだろ。だいたい、ただのおびき出しにエスコートもなにもないだろうに。
「そもそもさ……アーくんはエマさんのこと、どう思ってるの?」
「え……」
俺が、エマをどう思っているか……?そりゃ男と女って関係ではあるけど、そういう下心的なものは初日にへし折られたから、そういうこと考えてたら、やってられないんだ。
「色々と胸の奥で何か考えてるのはわかるけどさ、好きなんだよね?」
「なっ……!?」
「だって、私や他の人を見る時と、エマさんを見る時の顔って別人だよ?」
もし前にいる三人の誰か一人にでも聞かれていたらどうするんだ。俺は慌てて三人の後ろ姿に視線を移すが、特に変わった様子はない。さっきと同じように笑いながら歩いているだけだ。
「何か理由はあるのかもしれない、でも私思うの、気持ちは、心は、ちゃんと言葉にしないとダメだよ?」
「心を……言葉に、か……」
ある意味、今日はチャンスなのかもしれない。そうして何かしらの口実を作ってエマと二人きりになれれば……普段から二人きりなんてしょっちゅうだけど、こういう他の人との差別化が出来た状況なら言いやすいかもしれない。
「わかった……やってみるか」
俺たちは軽く打ち合わせをして動き出した。善は急げだ。まず俺が帰る前に買い出しをしなければならないと言い出す。
「悪いんだけどさ、こっちにいる間に食材の買い出しとか済ませたいんだ」
「ああそれなら、あっちに工場からの直売店があるから、そこに行こうか」
「い、いや、たかが買い出しに付き合わせるのは悪ぃよ」
ここで軽く同行を拒否する。俺自身は別に一人でもいいというアピールをしておくんだ。そしてここでお節介アビーのサポートが入る。
「じゃあさ、エマさんと一緒に行きなよ!またアクティブスーツ仕事で一緒の事多いんだしさ!」
「仕事で一緒だから私が行くの?それってなんだか変じゃない?」
「良いの良いの!親睦を深めるって意味でもさ!」
どこか危うさを感じるが、どうにかフォローできている、かな?まぁとにかくこれで十分な理由にはなるはずだ。
「でも、お料理のお仕事してこっちにも来てるアビーの方が色々わかるんじゃないですか?」
「うげっ!?」
くそっアルのヤツ余計な事に勘づきやがって……俺から言える事があるとしたら……ダメだ、どう思考を回転させても下心丸出しな発言しか出てこない。俺がエマと一緒がいいんだ。とかエマと一緒に住んでるからとか……。
「あー!そーだそーだ!私食堂のおばちゃんにお土産頼まれてたんだったー!」
「それならこの先にお土産屋さんあるから、後でそこに……」
「ううん今行こう!アーくんが買い出ししている間に行こう!」
アビーがアルとケーラの背中をぐいぐいと押していく。二人とも戸惑っていたが、アビーの強引さと勢いに
「じゃ、じゃあ行くか」
「……わざとらしい」
「へっ?ど、どこがかな……あははは……」
するとエマは、俺の正面に立って俺の目を見つめてくる。その疑いの眼差しから目を逸らして、スーパーがある方へと歩き出す。一応ああ言った手前何か買って行かないと変な風にとられるしな。
***
「アビー、お土産ってどのくらい買うんだい?」
「え?そ、そりゃあそこにいる人数分買うに決まってるよ!」
「いやでも……」
多分アルは私の買い物かごに入った大量のお土産を見て驚いているのだろう。でも私は特に趣味とかあるわけじゃないから他にお金の使いどころがないのです。だからまだ20歳だけど、そこそこの貯金があって余裕がある。でもこのままじゃ怪しい女Eを演じれない。ちなみに女Eというのは役の名前であって、ここにくるまでAからDまではやったのです。つまり既に四連敗……今度こそは!
「ちょっとトイレ行ってくる!カゴ持ってて!」
「あ、ちょっと!」
我ながら頻尿みたいだなとか思いながら、二人を置いて一旦トイレまで行って着替えを始める。服はどこから用意しているかって?細かいことを気にしちゃいけない。これで行けば、きっとアルが
「へぇい彼女かわいいね~この後暇~?」
ド定番のセリフを言ってケーラちゃんの腕を掴む。今日だけでナンパスキルがどれだけ上がったことか……最初にかける言葉とか色々考えたりするけれど、結局は定番のものに帰ってくる。王道こそ常道ということです。
「いや、あの……」
そうそう、ケーラちゃんはおろおろしてるだけでいいの、さぁアルくん出番だよ、彼女を助けるのは男の役目なんだから、ビシッと私の腕を振り払って……
「あの、やめていただけませんか、彼女嫌がってるじゃないですか」
「嫌だね、アタシはこの子が気に入っちまってねぇ!」
だー!もうそうじゃない!もっとビシッと!バシッと!なんならエマ並みに厳しく来るくらいじゃないと暴漢は追い払えないんだよ!もうアルはその程度の男だったか……。
「相変わらずだねアルは」
ほら見なさい!とうとう彼女にも愛想をつかされたじゃない!これじゃキューピット大作戦は失敗だよ。
「昔からそう、女の子にはいつも弱くてさ」
「え……」
「相手の女の子も傷付けないでアタシも守ろうとか色々考えていたよね」
「そうだった、かな……」
あれ、そんなに悪い雰囲気じゃない?っていうか何その中途半端な紳士的性格は、それってただの八方美人じゃない?
「そういうわけじゃないんだけどさ、どんな理由であれ女の子を泣かせるのは、男として最低だからね、極力平和的解決を目指すんだけど……」
するとアルは、私の腕に軽く手を置いてニッコリと笑顔を作る。でも違う。この表情は笑っていない、腕の上に置かれた手のひらから、彼の怒気がひしひしと伝わってくる。
「し、失礼しましたー!」
その迫力に圧倒された私はトイレにトンボ返りすることとなった。もしかしたら私がどうこうしなくてもアルって結構男らしかったのかな。その辺でピーピー吠えてる力任せの不良男達なんかより、数倍かっこよかった。なんだか今日はただ私が張り切って空回りしすぎてたみたいです。
「はぁ~アビーちゃんキューピット大作戦、終了~」
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