あなたを知りたい
スカイラブの格納庫に戻ってから、詳しい事の
「しかしこれからどうするにしても……ユニヴェールとシエルがこの調子じゃ……」
かなり無理をさせたせいでもうガタがきている。それに正直なところ、全身に負った火傷の痛みで今にもどうにかなってしまいそうなくらいだ。それに俺よりエマの方が症状はひどい、こんな彼女を無理はさせられない。
「しかし再びあの二人組が……いやアポロのアルフレッドが再び来る可能性もまだある……」
「ああ、だったらその時になったら俺に痛み止め打ちまくってくれ」
「アイキ、お前は既に痛み止めを使い過ぎだ、ここで無理はさせられない」
「その時は、私が行きます、外傷は私の方がひどく見えますが、アイキの方が蓄積されたダメージは大きいです」
「でも……」
俺がダメだと言おうとすると、エマはそれを先読みしたかのように視線を送ってくる。一瞬彼女の気迫に押された俺は言葉を失っていた。
「ともかく、二人とも医務室で処置をしてもらってこい」
「了解です、行きましょうアイキ」
「あ、ああ……」
医務室で全身の応急処置をしてもらう、明日には細胞活性装置という最新の装置で治すらしい。その後二人で部屋に戻るが、この状態じゃシャワーも浴びれない。口の中も結構切ったりしてるから流動食で食事を済ませて、さっさ寝床につく。エマを助けに行くときに打った痛み止めが今になって切れてしまい、全身に激痛が走るが、エマに気取られないように必死に声を抑える。
「ねぇ、アイキ……」
俺は返事をする余裕もなく、寝ていることにして返事はしない。少し間が空いてからエマは話を続ける。
「寝ちゃったかな……アイキが助けに来てくれたってわかった時、私すごくうれしかった……あなたがいて本当によかった……ありがとう」
それを聞くと体の痛みよりも照れくささで悶えそうだ。今夜は痛み以上に、エマの言葉が嬉しすぎて眠れなかった。
翌日は医務室にある医療用の細胞活性化装置のカプセルの中に食事の時以外は入っていることになった。体中の傷が早く治るのは良いが一日中動けないというのはかなり苦痛だ。それでもまだ、隣にエマが一緒にいるからまだマシかもしれない。
「計画まであと二週間切ったのに、こんなんで大丈夫なのかな、俺たち」
「どうかしらね……私としてはいまだに静観しているマーキュリーとソユーズテストの人たちがどう動いてくるのかが気になるわ」
「確かに……ソユーズテストに関しては市民のほとんどが俺たちの敵だと思った方がいいくらい地球嫌いだからな」
それ以降、考え事をし始めたのかエマは黙りこくってしまった。とりあえず一日このカプセルの中でじっとしていよう。目が覚めたら痛みもきっとなくなっているだろう。
カプセルに入って一日を過ごすと、本当に全身の傷が治っていた。その異常な早さには本心から驚かされる。その日の夜中、みんなが寝静まった時間になってから俺は格納庫に向かっていた。今もユニヴェールの整備作業はやっているのだろうか。
「あれ、オスカー何やってんだ?」
リフトを降りるとそこにいたのは、整備班のメンバーではなく、オスカーただ一人だった。彼は小さなモニターの前で黙々とキーボードを打っていた。
「何やってんだ、こんな時間に」
「ん?アイキか、ちょっとシミュレーションをな……」
画面を覗き込むとそこには地球とそこに飛び込んでいくユニヴェールとシエルの姿。しかしその機体は無残なまでに大気圏で燃え尽きていた。
「色々と調整したから、こちらでも色々と調整し直さなければならなくてな」
「この映像は……?」
「今の状態から未調整で大気圏突破をした場合の結果だ、他都市の妨害対策のために火器や余計な姿勢制御スラスターを増やしてることで、スーツのメインエンジンがオーバーロードを起こしてしまっているんだ」
すぐそばにあるコーヒーメーカーで二杯カップにコーヒーを入れ、片方をオスカーに差し出す。それを受け取ると意外そうな表情で俺の顔を見る。
「すまんな、気が利くじゃないか」
「俺も飲みたかったからな、ついでだ」
「そうか、それにしてもなんでこんな時間まで起きてるんだ?」
「あのカプセルの中で寝てたから、目が冴えちまってな」
オスカーの少し後ろ隣に椅子を持ってきて背もたれを前にして座る。この夜中にこうして飲むコーヒーは格別だ。しかしオスカーの作業をしばらく眺めていると段々眠たくなってきた。難しい事を考えるのはやっぱり苦手だ。
「おい、あくびするくらいなら休め」
「いや悪い悪い、もう少し理解度深めといた方が良いかと見てたんだけどな……」
「それは良い心がけだが、知能レベルが一般人レベルのお前はそこまで無理しなくてもいい」
「
「ちょっと待て」
「なにこれ?」
「地上用のスラスターだ、降下してからの話だがスカイラブの姉妹都市の施設で作らせている、形状について聞きたくてな」
「形状なんてどうでもいいよ、っていうか地上に降りてからなんてすることないだろ?」
「いや、アクティブスーツの地上での運用について聞かれていてな、実際に使っている人の言葉が聞きたいってだけだ」
「なるほど、じゃあ真面目にみるとするか」
俺もオスカーの横からモニターを覗き込んで地上用スラスターの形状やらなにやらに口出ししていく。まったくもって無駄の多い設計にはほとほと呆れた。
「よし、だいぶいい具合になったかもな、これ以外にもユニヴェールのことで要望があったら遠慮なく言えよ、なるべく善処はする」
「へぇ、珍しく気前いいじゃん」
「お前が乗るんだ、命を懸けるのはお前自身なんだからな、当然だ」
「……ありがとよ」
俺は一言、礼だけ述べてその場を後にする。リフトに乗って部屋に戻ると、シャワー音が聞こえる。バスタオルの彼女と鉢合わせるのは気まずくなるのがわかりきっているからと、俺は二段ベットの上の階に上がる。
「あれ?アイキ帰ってきたの?」
シャワーの音が止まり、彼女が出てくると、案の定水の
「ねぇアイキ、起きてるわよね?」
「起きてるけど、なに?」
布擦れの音が聞こえたのを確認してから彼女の方に視線を向ける。Tシャツにハーフパンツだけ着た彼女が二段ベットの
「ねぇアイキ、これ一緒に飲まない?」
「酒?」
「そう、さっきアビーに貰ったのよ」
エマが持っていたのは高そうなお酒の瓶と二つのグラスだ。せっかくのお誘いだが気がかりな事が一つ。
「いつ敵が来るかもわからないのに、いいのか?」
「たまにはいいでしょ?今を逃したらしばらく飲めないわよ」
「なら、とりあえずもらおうかな」
グラスに注がれた透明な液体を軽く喉に流し込む。結構アルコールの強い酒のようだ。一口でも結構くる……。しかしエマはなんともなさそうに二杯目を自分のグラスに注いでいた。
「……アイキはあの姉妹のこと、どう思った?」
唐突な彼女からの問い。どういうつもりでそんなことを聞いてくるのか、とか考えてしまうが、正直に答えよう。
「アイツらの事か?直接会ったことはないから、なんとも言えねぇな、でも……」
「でも?」
「あまり戦いたくはない、かな……」
エマの話に聞いたストライカースーツ乗りの姉妹。所々は違うが俺に似た環境にいた二人。唯一俺が幸運だったのは、幼少期から一通りの学業を終えるまではまともに育てられた事だ。
「そういえば、情報程度にはアイキの事知ってるけど、子どもの頃のアナタはどんな人だったの?」
「子どもの頃……か」
正直なところあまり思い出したくない事が多い、無意識のうちに目を伏せていると、突然エマの顔が俺の顔を覗き込むようにして目の前に現れる。
「ぅわ!?な、なんだよ……!?」
「教えてくれないかな?アイキの事、ちゃんと知りたいから」
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