第7話
肉食動物の口は奥へ奥へと進めそうな恐怖があるが、呑まれそうな暗闇が読んで字のごとく口を開けているからであり、それを連想させる洞窟の入り口は冒険と言わんばかりの気迫を感じさせ、人々を震わせるのだ。
流れてくる空気も暗澹として、秋を思わすトンボの精神が漂っている様である。
そのバーベキューの炎に集まって囲む気分の仲間と群の中、彼には何かが見えているのか、顰蹙するみたいな相を表に向け、冒険者らしい事を考えている様子の彼が居た。
吹く風はごうごうと、響いて届く。
「ボルグ、何を見てるの?」
シャルドネは後ろに立ったまま訊ねてきた。
まだ気を赦せるような関係になれていないのではないか、関係なんてどうつくればいいか彼にはそれしか考えられず、仲良くしないために距離を取っているとは思いもしない。
畢竟、彼の勘違いである。
「ワインに合うかどうかを、な」
気が利いているジョークではないだろうし、彼の娘は女性だ、彼の言葉がそうであることに頭がまわる事はないのだ。
娘は両手を天秤のように上げて傾げた。
「ボルグ君、準備は整ったから連れてきてくれないかい」
爺さんはたくわえた、その髭を自然とつまみながら撫で、巾着を大きくしたみたいなバッグを担ぐ姿はさながら、放浪者のようであったが、その行為が意図的であったのかを知りたい訳ではない。
彼は例のごとく皮肉に思っている。
彼は仕方がない、と頭を掻きながらあくびを一回だけし、内心、構えている事を誰にも悟られないようにと、ゆったりとした歩みを見せながら洞窟に踏み入った。
それは鳥を得るためのトラップを思わせる唐突さで、違和感が多少ある素人らしい奇襲。
踊り子が仲間だったのだろう。
女に反応する彼の性質を知っての上か、それとも彼が美人であれば見境のない事を見極めたのかは定かでないとしても、背後を取られて前を塞がれてしまったのは計画的であった可能性の高い。
非常に狡猾な人相を漂わせた人物が居る事だろう。
「ちょっと、何をするのよ。離して、離してよ……!」
娘が捕まった。
時を同じくして、人垣の向こうでは男三人衆に子ども一人で、誰も彼もが抵抗できないまま押さえられているのは誤算と言えよう。
しかし、そんな状況下でも動ける者は動けるから、彼は目の前の数人を蹴り倒し、雷が唸るような声を上げて呼んだ。
「デコ助、着いてこい!」
デコ助はその声を聞くや否や拘束していた屈強そうな男の急所を踵で蹴り、足蹴した男をよそにしがらみへと駆けていき、逃がした小動物のように避けながら捕獲しようとしてくるヤツらを次々と流して、最終的には彼の倒した男たちを踏み越えて行く事になった。
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