第6話
ジンカラは夜明けを待たず、朱色の光を目指して旅立っていったという。オッサン曰く、その後ろ姿は抵抗する力も無いような、今までの彼からは考えられなかった清い姿だった。
ボルグはジンカラの後を追いかけるように、数時間、間を置いて、昇る太陽に向かってラクダに飛び乗る。
光は目を焼くような明るさでありながらも優しく、そして、夜の寒い砂漠を暖めようとしているものだから彼には染みてしまい、涙を流したのだろうか。いや、染みていない。
寝不足で痛いのだ。
オッサンはジンカラの騒動のせいで彼と同じく、朝が痛かったが出迎えに来ており、サンドワームが再び出ないかどうかの見回りに加え、奇妙な頼み事を言った。
「合流出来ない難民団を見かけたら、ここに誘致するようにしてくれねえか。生憎、手が塞がっちまっててな」
若干ひとりごとのように告げると、そそくさと家に向かって踵を返してしまい、娘の面倒もみるように押し付けられていた彼は不満があるものの、娘を渡してくれるくらいには信頼を貰えたのだろう。
願ったりかなったりな彼は背中を向けながら手を振り、振り返りもしないオッサンから遠退き、いくつかのラクダの車を連れて進んだ。
砂を蹴って。
オッサンはその後ろ姿を見送りながら鼻息を漏らし、あの件での怒りをぶつけてしまいそうなのを見せまいと拳を作っていた。しかし、誰かに手を握られて、オッサンは緩める。
「ジュナか」
荒野を見渡している気分と変わらないが、オッサンにとっては水源の広がる故郷そのものであった。
彼はそんなオッサンの感傷を感じる事なくラクダの車を走らせて、荒野同然に運転している。無論、その気持ちに含まれているのは例えもあって、苦しいばかりの男二人に坊主が一人、彼に堪えられたものだろうか。
「兄弟、初顔合わせだろうから紹介するが、ソカミブッタだ。皆は彼をソカミと呼ぶぞ」
黒い肌の爺さんに紹介されたソカミは頭を軽く下げ、静かに上げた。
上品や貴賓なんて言葉でまとめるものではなく、その道を歩いているとしか当てはめる事の出来ない部類ならば納得いく雰囲気である。しかし、それを見据えるような気がない彼は、概を赦さぬ門の如く、門番の相をして渋い顔をするのだった。
「ここら辺から始めるか……」
約束だ。
サブリナの夫と思われる人物を探しだし抱くという彼らしい思考の基、親切をするという。
周りは風もないのに風景が揺らぎ、盛った塩がいくつも並んだ先の稜線はハッキリと明確に映り、不思議なほど現実味を帯びていない影が浮き出ている。
風景まではいいが、それに溶け込んでいるのは違いであり、彼はそれらしいと判断し、郡を率いて駆け寄った。
それは難民団が集まった場所を見失わないかどうかの位置での事だった。
近づくまではさほど気にはなっていなかった性別の事だが、姿をしっかりと捉えれるようになってくると、その容姿がサブリナと同じ褐色で、踊り子を彷彿とさせる服装であると知る。
砂漠に一人、倒れこんでいるのを見た彼の衝動は誰もが予測出来ただろう。
ラクダを止めてから飛び降り、呼吸をしているかどうか確認しに行くのだ。
「大丈夫ですか」
もちろん、肉体にである。
女は何日も飲まず食わずの旅でもしていたのかどうかの想像は易く、疲労困憊で今にも息が途切れてしまいそうで恐い体は跳ね、落ちても変わらぬ胸の高さには唾を飲む。
我を忘れて眺めていた彼だったが、思い出したかのように水筒を取り出し、泥水と差がないだろうが、と口に流し込んでやるのだった。
水を口にした踊り子はまどろみながら起き上がり、暑さにやられたのではないかと周りを見渡すと彼を見て言う。
「ありがとうございます」
魂がここにないようでもあったが、あいさつの後は自我を取り戻したらしい反応と対応を取り、ここに至った経緯を覚えているところまで話してくれた。
炎天下のなかの話はどんな相手だろうと嫌がる彼には酷であったが、合流できない人たちについての情報を聞いたとたん食いつき、忘れるほど懸命に見開いている。
話によれば、踊り子は合流できない難民団の一人らしく、あの一件のサンドワームによってラクダの車を壊されてしまって動けなくなっている、との事だった。そして、その場に案内してくれる事になったので彼女を荷台に乗せ、洞窟に避難している難民団と合流するべく、向かうことになった。
マチがカスんでいくナカ。
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