消えない火 二
雪が降ってきた。
雪……。
ああ、もう二月。
二月……。
…………。
ひょっとしたら、絹枝は、娃子の誕生日に死ぬんじゃないだろうか……。
そして、あの時のように。
「ゲェーヘッヘヘェェ」
と、笑うのではないだろうか。
だが、人の死をどうにかできるものではない。
それにしても、娃子は今もって、絹枝と言う人間の生き方がわからない。秀子はひたすら、人から物を横取りしてきた欲深でしかない。正男は嫌なことは人に押し付け、自分が損をしなければいい。庄治は常に楽がしたい。
だが、絹枝は何だろう。一言でいえば自分しか愛せない。いや、あまりにも自分を愛しすぎた。肉親に対する気持ちは、その自己愛の変形でしかない。だから、他人が許せない。だが、娃子は敵であり奴隷でしかなかった。だから、常に攻撃してやった。また、それを楽しんでいた。
それにしても、どうして絹枝はこんな生き方しか出来なかったのだろう……。
おそらく、絹枝のハハオヤがそんな人だったのだろう。
オヤ孝行な絹枝は、ハハオヤの性格をさらにパワーアップして受け継いだ。
死に瀕しても、医師や看護婦を恨み、娃子を憎んでいる。
それらの思いだけで、生ける屍を続けている。
----絹枝さん。どうしてこんな生き方しかできなかったの……。この三十年、私には楽しいことなど一つもなかった。それにしても、三十年間。アンタはずっと大人だった。
私は半分は子供。その子供を時に、同じ土俵に上げ、容赦なく叩きのめしたかと思えば、まだルールも知らない内から、バッターボックスに立たされ、鋭い球をバンバン投げられ、世間の失笑を買い、勝てる筈のないケンカをこれでもかと、売られた。
それを、アンタは勝った、勝ったと大はしゃぎ。それ、本当に楽しかったの。
私は楽しくも何ともなかったけど、それがアンタの生き様とは。
いくら貧乏しても、本当の大人ならもっと違う生き方も出来たと思うよ。
なのに、あの世まで恨みを持って行くような…。どうしてこんな生き方しかできなかったの。
気の毒な人……。
でもさ、最後に言わせてもらう。
あれ、私じゃないよね。アンタがやらかしたことだよね。
セルロイドのおもちゃ、火鉢に落としたの、アンタでしょ。
だから、あれだけ働いたんだ。
誰のためでもない、自分のために働いたんだ。
自分の罪から逃れるために。
お陰で、世間からものすごく称賛されて、よかったね。
でも、それだけでは不満だった…。
そんなこと、私は知らない。知っているのは、アンタの自作自演のドサ芝居を嫌という程、見物させられたと言うこと。
いや、まだまだ、終わらない。
最後の幕引きは、娃子の生まれた日…。
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