息を吐け。そして、恥だらけの生涯を悔やめ
十五話
目の隙間から日光が入り込む。
起き上がると、既に柳田は起きて窓から外を見つめていた。
「ああ、おはようございます」
「おはよう……何をしているんだ?」
「外に出れるかどうか考えてましたが……無理そうだ。謎は解けそうですか、作家先生」
「なぜそれをっ!?」
柳田は手に持っていた手紙を差し出す。
「今朝、食卓の上にありました」
受け取って開いてみると、細く綺麗な字がビッシリと書かれていた。
拝啓、皆様方へ。
お早うございます。良い目覚めを迎えれたでしょうか。
さて。今残っておられるのは、作家殿と霊媒師殿、そして文士殿でしょう。___
「飽きた」
「はぁ?」
「読むのが面談だ。下手な言語で書くな」
手紙を突き返すと、柳田は眉を潜めた。
全く……拙い日本語で偉ぶった文を書くな。身の丈に合った言葉を使え、と習わなかったのだろうか。いや、俺も習った覚えがなかったな。ああ。
「しかし。君が霊媒師で、島崎が文士か?」
「ええ、おそらく……わたしくは、不幸体質でしてね。そういった物に好かれやすいようなので」
「面白いな」
柳田は首を大きく振ると、目線を俺から外した。そちらを見ると、グシャグシャになった毛布が残っている。
「いなくなっていますね、島崎氏」
「面白くないな。しかし、都合が良い……泉の所へ行くぞ」
下駄がカランと鳴った。
聡明な頭で考えよう。純粋な目で見よう。なぁに、焦るな。時間はまだある。
部屋は腐臭がしており、思わず袖で口元を覆った程だった。柳田は上品にハンカチで覆っている。
「で、何をするつもりですか?」
「性別を確かめる」
手っ取り早く分かりやすいのは、下半身を調べる事だろう。死体にプライバシーはないのだから、もし女性であっても気にしてはならない。
ブルーシートをめくり、スカートをめくる。下着をとる為に両手を使うと、強い臭いが鼻を襲った。
「……男性器ですね」
「ああ。それより臭い! ああ、くそ! 誰だ、窓を開けたままにして!」
窓を閉めに近寄り、ついでに外を見ると、あの死体はなくなっていた。よし、何も問題はなくなったから閉めよう。
しかし、さっきは適当に流したが、泉は男だったのか?
「……なぁ。女が男になった時って、男性器もつけれるのか?」
「興味ないので知りません。が……どちらにしても、それは男性では?」
なんだ。やはりここはむさ臭い空間だったのか。良かった、あと数時間で終わって。
一度部屋から出ると、柳田は口元を抑えたままこちらを見る。
「とりあえず、島崎氏を探しましょう。ヤクモ達は、まぁ、いつか見つかるでしょう」
いつか、とは訪れるのだろうか。一瞬、そんな考えが頭をよぎる。
いや、来るに決まっている。来なければ、葬儀も何もできないだろう? それじゃあ、生者が苦しいだけだ。葬式とは、我々生きる者が、死んだ者との思いを絶つ為の儀式なのだから。
先を歩く柳田の背を見ながら、俺は下駄を鳴らした。
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