十四話

 俺達はたわいもない雑談をしていた。

「江戸川氏は、少年と知り合って何年に?」

「あー……七年、か? 大学の同好会で知り合った。今でも月に一度は飲みに行ってる。そういう君は、ヤクモと仲好さそうだが?」

「昔、何度か依頼を受けまして……ただそれだけですが、こんなよく分からない空間では、とても安心できます」

「知り合い、多いですね。石川さんとミツちゃんは兄妹ですし」

「ええ。泉氏と貴方、それと珠代氏くらいじゃあないですか? ここに知り合いがいないのは」

 その柳田の言葉に、島崎は苦笑を返した。まぁ、普通こういう所には知り合いは少ないのだし、俺や石川に至っては連れがいるだけなのだが。

「そういえば、石川氏と出会った時に、貴方、作品がどうこう言ってましたが……」

「あーあれは……あいつが誰か、分かってな。作品を読んだ事があるんだが、あまり好みじゃあなかったんだ。それなのに口に出してしまって、少し戸惑った。それだけだ」

 現代の借金王。そう聞けば、分かる人には分かる__彼は、そういう詩人だった。しかし、かの男と違うのは、借金の理由が難病の妹の為である事だろうか。だがその妹は……

「妹は、死んでいる筈なんだ」

 視線を巡らせる。柳田は目を見開いて驚いていて、島崎は至って冷静だった。

「俺の記憶が正しければ、石川の妹は死んでいる筈だ。去年の四月に」

「……じゃあ、ミツちゃんは」

 それ以外にも、少女に関する事で不思議な事はあった。一人称だ。普通、あれくらいの少女は自分の事を名前で呼ぶのだろう。彼女は自分の事を「ミツ」と言っていた____偽名である筈の、名前で。可笑しすぎる。ああ、笑えてしまう。

 そう思った所で、ポーンと低い音が響いた。顔を上げると、時計の針が十二を指している。

「……あと一日ですね。それにしても、ヤクモ達、遅くないですか?」

「そうですね。もう、一時間ですか」

 島崎が立ち上がった。

「探しに行きませんか? もし何かあったら__」

「いえ、大丈夫でしょう。ですが、バラバラでは危ないでしょう……今日はここで寝ましょう。毛布がどこかにあった筈です。すみませんが、江戸川氏は残っていてくれませんか?」


 柳田と島崎が部屋を離れる足音がする。

 俺は一人、思考の海に落ちていた。

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