十三話

 空が赤く染まり、人が集まった。

 あと一日。あと一日で、俺達は死ぬかもしれない。そこで、ふと頭に浮かんだ。犯人は、どうやって殺す気でいるのか、と。一人でこの人数を殺すのは、少々__いや、とても難しいだろう。特に、ヤクモなんか裏社会の人間といった雰囲気がする。殺す前に殺されそうだ。いや、もしかしたらヤクモが犯人__

「とりあえず、そろそろ急ぎませんか?」

 柳田のりんとした声が部屋に響く。先刻のあれが嘘のように、落ち着いていた。

「なら、なぜ本を読んでいたんだ?」

「自分の部屋で見つけたので、何かあるだろうな、と思い……何もありませんでしたけどね。部屋にありませんでしたか?」

「……後で探してみる」

 しかし、そんな物を入れれるような所は少なかった。唯一と言っていい収納の本棚にも、何もなかった筈だ。壁にも、押絵があったくらいで……

「なぁ。部屋の壁に、押絵はあったか?」

「教え?」

「いや、絵画の方の絵で……布で作られていて、立体感があって。羽子板のあれだ」

「はごいた?……ああ、正月のあれか。ラケットのような」

 ヤクモに説明をしながら、そういえば彼は外人らしい事を思い出す。あまりに流暢に話すから、今の今まで忘れていた。

「そんな物はなかったな。ああでも、暗い感じの絵ならあったね。怪談ってやつかな?」

「僕の部屋には何も。数冊、本棚があったくらいです」

「わたくしの所にはありました。妖怪らしき物が描かれた、浮世絵風の」

 バラバラだな。見事にバラバラだ。しかし、絵の趣向は分かった。

「押絵と旅する男……小泉八雲の怪談……遠野物語」

「作家に関連する、と?」

「ああ。なら、他の部屋にもそれらしい物はあったかもしれない。だが…………今は、犯人を見つけるべきだ。」

 そう言うと、島崎が顔を曇らせた。が、言及する前に元の無表情に戻ってしまう。

 しばらくの間、静寂が俺達を包んだ。それを破ったのは、ヤクモの袖を引いた少女、ミツの声だった。

「やくもさん。おねーちゃんどこ?」

「珠代さん? そういえばいなくなってるね……いた筈なのに」

 扉は最初から開いていた。誰にも悟られずに出る事は容易そうだ。

 ミツは悲しそうに頭を落とした。ギュッと握ったスカートの裾はクシャクシャになってしまっている。

「おねーちゃん、いたそうなの」

「痛そう?」

「うん。いたいいたいしてるの……やくもさん。ミツとさがそ?」

 引っ張られるようにヤクモは部屋から連れ去られてしまう。あの少女が犯人とは思えないから誰も止めないものの、誰もが不安そうにその背を見送っていた。

 ……痛そう、か。彼女がどこかを庇って動いているようには見えなかった。あの少女は__何を見ているんだ?

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