十二話

 嫌だ、嫌だ嫌だ。死んでないでほしい。生きていてくれ。生きていてくれ____考えたくなくても、脳が勝手に考えてしまう。ああ、嫌だ嫌だ。

「大丈夫、ですか?」

「君こそ……顔が蒼い」

 ぎこちない笑みを浮かべ、柳田は肩を落とした。俺も笑おうとしたが、おそらく彼と同じで上手く笑えていないだろう。

「……生きている。それを証明する為に、探さないといけない」

 声に出す。現実味がないが、これが現実だ。まごう事なき現実だ。夢ではない。

 食堂にいるのは、食卓の椅子に座る俺達二人だけ。ミツちゃんはメイドとキッチンに、残りの連中は外を探している。互いに目を合わせ、深く頷いた。

「まず、九時四十五分。君はあいつと話した」

「はい。日記の事と死体が瓜二つな事を聞きました。その後、外に行くように言いました」

「あの場所まで、ここから五分だが、適当に行ったとしたら十分程」

「その辺りの時間に襲われた。わたくしは、ヤクモとミツちゃんのアリバイを証明できます。珠代氏はキッチンにいたので、絶対とは言い切れません」

 キッチンには、食堂への扉と廊下への扉、あと窓がある。バレずに出る事は可能だ。

「その間、島崎は自室で本を読んでいた」

「ええ。先程、題名を聞きましたが、読み切るには結構時間がかかりそうな物でした」

「それでも、誰にもバレず部屋を出る事は可能」

「つまり、疑わしいのは島崎氏と珠代氏、ですか?」

「いや……島崎だけだ」

 あのメイドに犯罪を犯せるか。そう問われたら、俺は即座に否と答えるだろう。それ程にも、彼女は純粋無垢であった。

 しかし、柳田は首を振る。

「感情論じゃあ、正確に物事を測れませんよ」

「ああ、知っている。だが、俺は島崎が一番怪しいと思う」

「なぜ?」

「さぁな。兎に角、あの青年の死体について」

 他の人からも意見が聞きたい。そう続ける前に、ガシャリと音がした。振り返ると、件のメイドが立っている。

「あ、あの……せ、せ、青年、って……し、東雲、さん、ですか?」

「……はい。貴方の予想通りですよ」

「おい、柳田!」

「良いじゃあないですか。どうせ、知る事になるのですから」

 崩れ落ちたメイドを椅子に座らせ、柳田はそう言う。その目は過去を振り返っているようで、嫌でもこの男に何があったのか、察してしまう。同時に、自分の身に起きたある事件について思い出した。ああ、嫌だ嫌だ。思い出したくなかったのに。

「じゃあ、犯人は島崎氏か」

 ポツリと漏れた柳田の言葉と、無垢な娘の泣き声だけが、俺の耳に入った。

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