第十六回 SHI-NO -シノ-(上月雨音/富士見ミステリー文庫)

 始めに断っておきますが、本作は現在絶版です。それなりに数刷られたので、中古ショップやネットの古本屋などで手に入れることは容易ですが、中古本に対してアレルギーをお持ちの方には、今回は申し訳ありません。あるいは、電子書籍化はされているので、そちらでもと言う方は探してみてください。

 「ぼく」の家に今日も変わらず無言で上がりこむ小学生の支倉志乃は、猟奇的、怪奇的な事件ばかりに興味を示し、危ないところに無言で突っ込んでいくという命知らずな女の子で、そのたびに「ぼく」は彼女の行動につき合わされ、そのたびに危ない思いをしながらも、事件の解決を手伝わされる羽目になるのでした。

 ラノベを長く愛好している皆さんには、電撃文庫のロウきゅーぶ!とともに、この本でロリコンに堕とされたという人も当時かなりいたはず。本作はミステリーを謳ってはいますが、どちらかというと異能バトルや怪異譚のほうが近いと思います。ラノベで言えば、物語シリーズとか、神様のメモ帳あたりが近いジャンルになろうかなと思います。シノの行動目的も、謎をどう解決していくかと言うよりは、謎そのものに興味を持って調べていく、というほうが近いです。そして、物語では「死」や「生きること」について考えさせるような描写や展開が多く、そういった意味ではあまり読後感は爽やかではありません。ただ、オタクはそういったことに興味を持つことは高校生くらいの頃に誰でも通る道ではあると思うので(筆者注:ですよね?)、こういった話に興味を持って受け付ける人も世の中には多いと思っています。なので、これらのワードが気になった人は是非にご一読を。

 本作の魅力は、なんといってもヒロインのシノのキャラクター性で、彼女は普段は無口でおとなしいのが特徴と言えば特徴というくらいの、ごくごく普通の小学生なのですが、こと上述したような「謎」が目の前に現れると、それがどんなに危険であるとわかっていても、その謎に向かって突進することをやめません。また、彼女はあまり生に執着しておらず、むしろ言動や行動の節々から、現世から開放されたがっているとすら思われるほどで、行動もさることながら存在そのものが危ういと言って言いと思います。そんなシノですが、巻が進むにつれ、「ぼく」との交流を通じて徐々に人間味と言うか、感情を表に出すようになり、やがて独占欲らしきものも見せてくるようになります。そのさりげなさというかいじらしさが、何ともかわいく見えるものです。一種の庇護欲とでも言うのでしょうか、存在が危うければ危ういほど、オタクは庇護したくなってしまうものなのです、たぶん。



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