第十五回 IS 〈インフィニット・ストラトス〉(弓弦イヅル/オーバーラップ文庫)

 王道という言葉について熱く語ったことがありますが、同じような言葉に「テンプレート」という言葉があります。同じような物語、同じようなキャラクター、同じような展開、過去に見たことがある、オリジナリティがない、みたいな、ネガティブなイメージで語られることの多い言葉ですが、私はこの「テンプレート」こそ物語を書く上で大事だと確信しています。

 女性のみが扱えるはずの世界最強の兵器、インフィニットストラトス(=IS)を、主人公の織斑一夏は手違いで受けたISのパイロットを養成するための学校、IS学園の入学試験でいとも簡単に起動させてしまう。かくしてIS学園に入学してISのパイロットになるべく訓練を行うことになったが、当然まわりは女性だらけ。当人の無自覚に女性をときめかせる行動・言動によって好意を持たれることが多いものの、それに気づくことも無く、日々息苦しい毎日を送っていた。やがて彼は、ISをめぐる各国の思惑や暗躍する組織に狙われたりするなど、世界を巻き込んだ騒乱に身を投じていくことになる。

 さて、エンタメ作品に通じている方ならこのあらすじを読んでこう思っている方も大勢いるでしょう。「こんな話どこかで見たぞ」と。エンタメ作品に限らず、美術や文芸など、何がしかの作品に触れる際に、オリジナリティがあればあるほどいいというのは、わりと普遍的な価値観であるとあると思います。しかし、ことエンタメ作品に限っては、この限りではないと個人的には思うのです。以前、ハリーポッターを例に出して、ハリーポッターシリーズというのは、いわゆる「王道」を地で行く作品であるということをお話しました。学園モノで、魔法が使えて、主人公は世界を救う。これを王道と言わずして何と言うのでしょう。本作もそうした「王道」、悪い言い方をすれば「テンプレート」をうまく活用した作品です。だいたい、主人公と、主人公の周りにいる女性が操る兵器を題材にした作品など、エロゲの世界では古典芸能と言ってもいいと思います。戯画のBALDRシリーズに始まり、ageのマブラヴシリーズなど、二次元の世界では圧倒的な知名度を誇る作品が、本作1巻目の時点で既に世に出ています。ヒロインについても「テンプレート」です。幼馴染系ポニテツンデレ、ですわ系お嬢様、元気っ娘貧乳、男装僕っ娘、扱いづらい転校生、とヒロイン属性てんこ盛りです。これがどんどん増えていきます。これなんてエロゲ状態です。加えて主人公も難聴鈍感フラグたてまくり系という、まさしく古のエロゲ状態。これをテンプレを言わずして何をテンプレと言う。エロゲ風ラブコメ展開に、周囲は女性ばかり、世界の陰謀に立ち向かう主人公、それも鈍感系、そしてシリーズが重なるごとに増えるヒロイン。ストレートフラッシュです。

 ここまで、批判に聞こえるかもしれませんが、全て褒めています。テンプレートということはつまり、昔からずっと普遍的な面白さがあるということであり、オリジナリティと言う面では欠けるかもしれませんが、しかし往々にして面白さというのは保障されているわけです。加えて、ヒロインの多彩さ、可愛さと言う点ではかなり秀逸な作品です。まあ肝心のストーリーに関しては巻を追うごとに壮大になっていく世界観に対して、その裏づけとなる設定や根拠に甘さが出てくるので、手放しに褒められる作品ではないのですが、しかし本作はテンプレートをうまく活用して、バトルもののラブコメディとしては出色の出来で、テンプレート的なラブコメディを学ぶ上ではこれ以上ない教科書になることでしょう。いまさらライトノベルがキャラクター小説であることを否定される方はいらっしゃらないと思うので、主人公とヒロインの関係性を整理したり、会話文の軽妙さについて読み込んでみることは、確実にレベルアップの未知に繋がると思っています。


 ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、当初本作はMF文庫で刊行されておりました。レーベルを移った経緯でひと悶着あったのですが、あえてここには書いていません。そういう先入観なしに本作を読んで欲しいからです。日常系ではなく、SFチックなハーレムラブコメを書きたい方は是非に読むべきです。

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