第五回 ニーナとうさぎと魔法の戦車(兎月竜之介/集英社スーパーダッシュ文庫)

 私はガールズ&パンツァーが好きです。昨日のことですが、最終章の一話を見るために映画館に行ってきました。ちなみに二回目です(笑)。いやー、まさかあんな骨董戦車が出てくるとは。。。現実にはティーガーやT-34なんかと渡り合えるわけが無いんですが、まあ一緒に登場してしまうところがガルパンの楽しいところです。元々乗り物が好きだったということもあり、独立した動力源を持って人を乗せて走る物はわりと何でも好きです。ミリタリーの陸海空で言えば一番好きなのは「海」なのですが、あまり知識は無いとはいえ、もちろん戦車も好きです。ドイツならパンターG型、ソ連ならIS-2、フィンランドのBT-42なんてゲテモノも好きですなあ。まあそんなことは今回の話とはまったく関係が無いのでさておき。

 ガールズ&パンツァー(以下ガルパン)はご存知の方も多いと思います。戦車を華道や茶道と同じように、礼節を重んじる乙女のたしなみと位置づけた世界観で、第二次世界大戦期の実在戦車が、丹念な調査と徹底的な描き込み、エンジン音にまでこだわる作りこみによって、現実には博物館で見られるだけの戦車たちが縦横無尽に動き回るという、マニアには涙モノの作品です。ガルパンの初回は2012年10月のことですが、そこから遡ること一年ほど前、現在はダッシュエックス文庫と名前を変えている集英社のラノベ部門、スーパーダッシュ文庫から「ニーナとうさぎと魔法の戦車」なるラノベが出版されました。こちらは戦車と謳ってはいますが、その実態は実在する戦車とはかけ離れた存在で、動力源は魔力、砲撃も魔法によって行われるという、極めてファンタジックな要素として戦車が描かれていました。乗り物オタクであり機械オタクでもある私にとっては、戦車はエンジンで動くからいいのであって、戦車という存在をファンタジックに描いた本作の戦車描写は、興ざめだと思ったものでした。しかし、その後ガルパンが放映されたことで、本作に対する考え方も変わってきます。要するに、映像作品では一目見てリアルさが伝わるのに対して、小説という媒体であると、あくまで文字による描写が読者にとっては全てであり、例えば「ソ連の戦車BT-5は、アメリカで開発されたクリスティー式サスペンションによって類まれなる機動力を発揮し、一世代古いBT-2よりも装甲を強化し、手法も37mmから45mm砲にパワーアップして(以下略」みたいなことを文字で書いても、大多数の読者にとってはチンプンカンプンであり(まあ私のような一部の機械オタクやミリオタにはウケるのかもしれませんが。。。)、結局はその戦車に関する魅力を十分に伝えきれないわけです。そうすると、戦車を魔法で動かすというファンタジックな作風は、媒体が小説であるということを考えると、リアリティーは犠牲にしても、理にかなった設定であるのかもしれません。

 舞台設定はかなり重めの世界観で、戦争の爪あとが残る荒廃した世界で、人間が搭乗せず意思を持って人間を攻撃してくる「野良戦車」から人々を守るために主人公と戦車乗りたちが奮闘するという物語です。特筆すべきは、戦車乗りが女性しかいないこと。男の世界であるミリタリーとはここでも一線を画しています。乗員は狭い空間の仲に押し込められるからか、百合要素に関してもかなり強調された作風です。重めの世界観が好きで、百合に目が無いという方はぜひとも読むべき作品ではないかと思っています。

 総じて、「魔法で動く戦車」「意思を持った戦車」「乗員は全員女性」など、従来の戦車をメインで扱うようなミリタリー作品とは一線を画した作品です。上述しましたが、機械オタクだった私はこれに興ざめでした。しかし、そんな偏屈な機械オタクやミリオタがラノベを読んでいる割合は、ライトノベルを読んでいる全体の人数から比べれば無視してもいいレベルであるはずで、そういう意味では、とても割り切った作風なのではないかと考えることが出来ます。狼と香辛料の回で、リアリティは大事だと何度も述べましたが、しかしリアリティを追求するだけが面白い小説を書くことに繋がるかというと、必ずしもそうではありません。一番は、リアリティを犠牲にしても読者の読みたがりそうなものを書く、というところに落ち着くのかもしれません。私はガルパンが好きですけどね!




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