100年後も、この先も

「ユウタ…。もう100年も経っちゃったよ…。なのに、私の姿は変わらないし、死にもしない。ユウタ、私のこと恨んでるの…?」

私は、ユウタの墓に桜を供えた。


もう、ユウタが死んで100年。

私は容姿が全く変わらなかった。

でも、その間に第三次世界大戦が起き、核戦争で多くの人が死に絶え、最後には死をもたらすウイルスが世界に溢れ、私以外の人はみんな死んだ。

正真正銘の、地球でひとりぼっち。


「ヒナ…タ、ヒ…!ねぇ、起きてよ!ねぇ…、目を覚ましてよ!」


誰かの鮮明な声が脳内に響いた。


それは、あの日に見た夢の切れ端のように思う。その疑いは確信に変わっていった。


「私、置いていかれてばっかりなんだよ…?ヒナタなら、私とずーっと一緒に生きていられるって、思ったのに…。お母さんも、起きてよ!なんで皆して私を置いてくの…。お母さんだって…永魂ノ巫女なのに。なんで私だけが生きてるの!?」

そのこの声は、1人虚しく響いた。

津波にのまれ、爆発事故が起き、荒廃しきった町。

その中で1人。

その夢は…私の記憶。

死んだ人は…お母さんと弟のヒナタ。

その夢に出てきた子は…私。


記憶がはっきりと蘇って来た。

私は、永魂ノ巫女だったことも。

ユウタがあの日に会った永魂ノ巫女そのものだったことも。

友達もどんどん先に逝ってしまい、最後にはひとりぼっちだったことも。

ユウタとヒナタは驚くほど顔が似ていたことも。

永魂ノ巫女は、死なないことも。

生を犠牲にすれば、死は否定される、という話をお母さんやおばあちゃん、永魂ノ巫女だった人たちから聞かされてきたことも。


今更、記憶が戻ってきたところで何もかもが遅すぎた。


もっと早く記憶が戻っていれば良かった。

そしたら、ユウタにあの時会ったのは私って言えたのに。

ユウタだけに辛い思いさせなかったのに。


「私だけ幸せになんてなれないよ…」

溢れてくる涙をそのままに言った。

私は幸せになれない。

けれど、みんなを幸せにする事はできる。

ユウタにもう一度、生きるチャンスを与えることもできる。


「永遠の命を紡ぐ神よ。私の魂を持って、死を否定してください。この世界に、再び息吹きを」

この声は、きっと誰にも届かない。

でも、それでいい。


私のささやかな命という贈り物。


そんな立ち位置で構わない。


「ありがとう。ユウタ、ヒナタ、お母さん…、幸せになってね…。もしも、また私が生まれてこれたら…、また…」


その先は言えなかった。

体に激痛が走り、その場に倒れこんだ。涙が出てくるほど痛い。

そこで、自分の身に何が起こったかをようやく理解した。


私は、ユウタと同じで被ばくしていた。だから、同じように年を重ねて、私にも病気が現れた。

どのみち、私は死ぬ運命にあったという事らしい。


「人生って、不公平」

その言葉を残して、私はこの世界を後から生まれてくる皆に託した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

My Dream.ー君と生きた365日ー 大祝 音羽 @senasyugetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ