思守町へ

「ちょっとくらい待てよ!」

「いーやーだ!少しでも休もうとしたら置いてくよ?早く早く!」

山の途中まで来たけれど、ユウタは早くも疲れ気味らしい。ペースが落ちて来ていた。私はそんなことはお構いなく登って行く。他にも登山客がまばらにいる中、若い層の人は私たちだけだった。まだ夜は明けてない。

「どうせなら山頂で日の出を拝んでみたくない?だから早く行こうよっ!」

ユウタは私を見て少し驚いたような顔をした。

「そんなテンション高いところ、初めて見た…、ああ分かった、分かったから!」

私はユウタがぶつぶつと言うのも聞かずに手を引いて歩き始めた。


このごろ、ユウタの顔を見ているとすごく面白かった。表情がコロコロ変わって、嘘もすぐに分かる。この前なんて図書館から帰ってきてババ抜きをやったら、話にならなかった。私がジョーカーに手をかけるとニヤリと笑うものだから、3回やって3回とも私が勝利を持っていってあげた。

思い出して笑っていると、

「その感じだと…、この前のババ抜きのことか?あれは俺の調子が悪かっただけだから!次は負けないし」

と思っていたことを見抜かれてしまった。

ユウタは私の考えていることが分かるらしい。顔に出ているわけでもなく、いつも「何となくな」と答える。

まるで兄のようだった。

私の家族に兄弟がいたかは分からないけれど、兄がどんなものかはここ数日で分かったような気がする。

ユウタと会ってまだ1週間?それくらいなのに、本当の家族のようだった。

そう思っている間に、山頂近くまで来ていた。

「あと少しだから…、ここでなら休んでも良しっ!山降りる時に力尽きられても困るからね…、ただし5分っ!」

と言うと、ユウタは、即座に倒れこんだ。

「鬼かよ…。こんなハイペースな山登り、前代未聞だろ…。お前、いろんな意味で強すぎ」

と言いつつも、ユウタはなんだか楽しそうだった。


きっちり5分休ませてあげたあと、また私はユウタを引っ張るように歩いた。

すると、突如周りがひらけた。

「山頂にようやく着いたか」

「山頂!おぉー!…暗い」

日が登ろうとしてる頃に着くかなって思ってた。ユウタは呆れたような顔をして、

「だから言っただろ?お前のスピードの半分くらいでも日の出より早く着けるんだよ…」

「えぇー!早く言ってよ!もー、体力使って損したー!」

ユウタはニヤリと笑って、と言うより残忍な笑みを浮かべた。

「ザマァ〜!これがババ抜きのときの報復だ!」

「スケール小さい!」

と私はツッコんだ。すると、顔に紅い光が当たった。

夜明けだ。

自然と日の出に向かって手を合わせてしまった。隣でユウタもなにやら呟いている。私も、少しお願いをした。


「お前は何お願いした?」

と問いかけられ、私は秘密にしようか迷ったものの、

「ユウタと私の記憶が戻りますように、って」

と正直に答えた。ユウタは、

「それは反則だろ…。俺の分まで…」

「え、願いが2個になる?それじゃあ…、ユウタは切り捨てるね!ユウタは何お願いしたの?」

私が聞くと、

「俺は、強く生きられますように、って。ってか、さりげなーく俺のこと切り捨てるなよー!」

と返ってきた。

強く生きる、か。

「強さって何だろうね」

「それを知ってたらこんなお願いしてねぇよ。さ、山降りたらすぐ思守町だ。少し休んだら行こうぜ」

「うん」


山を降りるのは簡単だった。

手を引っ張って歩くのがとっても楽だったから。

ユウタは休憩させてあげたのにもかかわらず、疲れていたように見えたけどね。

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