手がかりのある場所

顔に当たる光を感じて目を覚ました。

太陽の日差しが、窓から差し込んでいる。


「…すこ、し…?」

くぐもった声が扉の外から聞こえてきた。耳をそっとあててみる。

「今日から…1週間。無理は禁物だからね?」

女の人の声がする。この人の声は、昨日会ったユウタの母親の声に似ている。

「残された時間が…なら…。自分のために…」

苦しそうな声。少し幼い男の子の声かな、少し怖さがあるのも感じられる。

少し経つと、苦しそうな声が消え、代わりにユウタの声が聞こえてきた。

「トワ、起きたか?」

私は焦った。

扉の前にいるのがバレたらどうする?

とりあえず全力で扉から遠ざかり、

「さっき起きたところだよ」

と告げた。すると、

「んじゃ、準備しろ。今日も記憶探し行くぞ!」

「う、うん」

私はすでに着替えていたから、少し時間をおいてユウタに合流した。


「これはどうだ?ちょっと違うか」

「じゃあこれは?」

手がかりに近そうな10年前に起きた巨大地震について調べ始めた。

「あ、ねぇ。見てこれ」

私が手にした本をユウタに見せた。

「ん…、"思守町の記録"…?ここの地名は何だった?」

ユウタが呟いた。私は、一度だけ地名らしきものの書かれた看板で見たことがある。

「ゆめ…も…、り。そう、夢守町」

「それだ。名前が似ているし…。少し調べてみる価値はありそうだな。よし、じゃあ…これから」

私たちがやろうとしている作業はとっても地味。記憶の残像すらも残ってない中、ただフィーリングを頼りに読み進めていく。


『思守町は500年前、人々の記憶と共に海に飲まれた』


「これって…」

私は少し衝撃を受けた。

「おそらく…津波のことだ。地図からすると、思守町は、ここ夢守町と違って海がすぐ近くにある。でも、10年前の地震から、立入禁止区域になっている。その上、復興のめどが立っていない…か」

ユウタの文字を追う目が少し悲しげに曇った。ユウタは自分の調べていた本に目を移し、

「こっちには、『人々の思いは通じなかった』って書いてある。俺的には、町の名前にもあるように、思いを守る…、昔に起きたことを踏まえて、何か守るべき思いがあったんだと思う」

そういうなり今度は違う本を調べていた。

私は、さっき見つけた本を読み通していると、気になる文を見つけた。


『思守町に直撃する地震は500年後に一度。その地震は、人々に対する神の怒りだと言われていた。

思守町では神の怒りが鎮まることを願って、1年に1度、巫女が舞う』


「これだね、思守町の人たちが持っていた思いって」

「そうだな。でも、地震によってその思いは途切れてしまい、海に沈んだ」

「ねぇ、ユウタ…。思守町に行ってみようよ」

唐突に言ったからか、ユウタの目が大きく開いた。

「冗談だろ?こっから思守町まで20キロあるんだぞ。徒歩で行けるような距離に無いってのに、どうやって行くつもりだよ?」

と聞いてくるユウタに対して、私はニヤリと笑いたくなるのをこらえながら、

「ちゃーんと地図見た?」

と聞いた。きっと目がいたずらっぽく光っていたのは確実にバレているかもしれない。彼の目が一瞬「からかうな」と言うように鋭く私を制してきたから。すると、地図をじっくりと眺めていたユウタがハッと気づいた。

「あっ…。まさか、お前…」

「そのまさかよ!ほら、ふつうに道を歩いて行くより、山を越えたほうが近いじゃない⁉︎これくらいなら…2日でつけると思うよ?」

「おい…。楽観視し過ぎだろ…。まぁ、なにか手がかりがあるかもしれないし…冒険だな、冒険!」

ユウタも承諾してくれたし、早速、明日から行くことにした。

「私たちが登るのは、思夢山。朝から登って、夕方には反対側につければいいけど…」

「まぁ、その場のノリで何とかなるだろ?」

と言うユウタの顔が、少し不安げだったのを不思議に感じながらも、ベッドに入った時には忘れてそのまま寝てしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る