記憶の糸をたどって

「来たか」

次の日、昨日会った場所に行くと、すでにユウタは待っていた。

「すぐに記憶が戻るかどうかはわからない。まぁ、探すに越したことはないだろ?俺も、もう一回だけ自分の記憶探ししてみたいんだ」

そして、ユウタは図書館に案内した。

「古い文献も扱ってるし、何か手がかりはあると思う…。根拠はないけど」と笑った。彼の笑顔を見たのは初めて。けれど彼の笑顔には寂しさが見えたような気がした。

あてが特に無かったから、私はとりあえず近くにあったものを取った。

「…。首都直下型大震災被害者・被ばく者名簿…?」

題名はこう書いてあった。ユウタが近づいてきて、それを覗くと、

「あぁ、それは10年前に起きた大地震のこと。10年前だと、俺はまだ6歳かな。俺、その時から記憶が無いんだ。でも、母さんが言うことには大きな地震だったらしく、被害者も…、沢山出たらしい」

「そう…」

何気なくページをめくっていくと、少し気になる名前を見つけた。


「蒼衣 雄太(アオイユウタ)…被ばく」

「青鳥 日向(アオトリ ヒナタ)…死亡」

「青鳥 冬羽 (アオトリ トワ)…被ばく」


「青鳥…冬羽。私と読みは同じ。自分の名前が漢字かどうかは覚えていないけれど…」

たしかに、その名簿には冬羽とあった。そして、その上には雄太という名前が載っていたことに引っかかった。

「ユウタ、被ばくって何…?あと、ユウタの苗字って何?」

「俺も自分の苗字は分からない。自分の名前が漢字なのかどうかも。被ばくは、放射線を浴びること。強いものを浴び続けると、遺伝子が組み替えられてしまう。一般的には組み変わった遺伝子は元に戻るけど、大量に遺伝子が組み変わったら、細胞が対応しきれずに、病気にかかってしまう。がんとか白血病とか。すぐには現れないけれど、大体10年くらい経ったら現れてくるんだって」

「物知り〜。どこで知ったの?」

「中学校はちゃんと行ってたからな。ええと…。"震災の記録"には、首都直下型大震災では50年前に起きた東日本大震災と同じように放射線を伴う爆発が起きた。50年前は原子力発電所、10年前は核融合の実験をしていた施設が爆発した。幸い、施設はかなり広大な土地を有するために人里から隔離されていて、多くの被害は無かったらしい」

私は頷き、今までの情報をすこし整理した。

「貴重な情報かもしれないわ。読みが同じ名前だけでもいい滑り出しだと思う。地震のせいで記憶を失ったかもしれない、って線を調べてみようか」

「そうだな。明日はそうしようそれじゃあ、今日のところは帰るか…、あ。お前、自分の家の場所なんて分かるわけないよな?昨日ごめん!すっかり忘れてた」

「いいのいいの。もともと海の近くに倒れてたくらいだもの。今更どうってことないわ」

「今、俺は親が経営してる施設に居るんだけど、空きがあるんだ。そこで寝泊まりしたらどうだ?なにかと都合もいいし」

突然のできごとに驚きながらも、あっさりとユウタが承諾してくれたから、ありがたく泊めさせてもらうことにした。


「久しぶりのベッドだ…」

一人で呟く。窓から覗く星がとても綺麗だった。記憶を失う前にも、こんなことがあったような気がする。どこでかはわからないけれど。


そんな事を考えながら、これからの1日にそなえて大きく伸びをした。


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