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「可愛いわねぇ」

「そうだな」

 ミケは彼を可愛いと言う。うん、確かに可愛い。可愛いけど、ミケの恋愛対象は男である。イツキ君を男の子だと言うけれど、俺には女の子に見えるし、第一初めて見た時、イツキ君はスカートを穿いていた。いや、それだけで女の子だと決めつけるのは時期早々である。ミヨのような男の娘と言う可能性もないとは言えないから。

「本当に女の子じゃないのか」

「こんな可愛い子が女の子のはずがない」

「そうかな」

「そうよ。どう見たって男の子でしょ」

 というよりは、男の子であって欲しいと思っているようにも聞こえなくない、か。

「だって、胸だってないし」

 もし本当に女の子だったらどうすんだ。そんなことで決めつけて。

「私が好きだって思うくらいなんだから、間違いなく男よ」

 だって生まれた時からそうだもの、とミケは続ける。どんな自信なんだ。

「確認した?」

「前掛けしてるからわかんないけど」

「おい」

「第一、イツキ君は男の子ですかって、普通訊く?」

「え?」

 ドヤ顔で言い放ったミケの言葉に、困惑の色が混じった声が聞こえる。同時に視線を上げると、にら玉を持ったイツキ君が。

「お待たせいたしました。にら、たまです」

「あ」

「あ、あぁありがとう」

 この空気どうしたものか、ととりあえずにっこりと笑ってみる。“イツキ”と名札の付いたポロシャツは何となくストンとしている風にも見えた。イツキ君の笑顔は明らかにぎこちない。

「あの」

「うん?」

 精一杯にこやかに言ったのに、どうしてミケはそんなに普通の顔でいられるんだ?

「女です」

「え」

「よく間違えられますけど、女です」

 イツキ君、いや、イツキちゃんは怒った様子もなく、少し赤くなってそう答えて、去って行った。

 あぁやっぱり女の子だったか、とミケを見ると情報処理が追いついていないように笑顔が張り付いている。な、ずっと言っていただろ?

「大丈夫か」

「だいじょばない」

「とりあえず飲めよ」

「・・・うん」

 それから会計をするまで、大した話をすることもなく、今日の飲み会は静かに終わった。

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