春の訪れ?

カゲトモ

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『はなちゃ~ん、行くわよ~』と半ば強引に首根っこを摑まえられて連れて来られたのは、ビール専門の居酒屋、ムギローブだ。ここは世界のビール、日本の地ビールを多品目扱う店で、つまみも美味しいし、スタッフの愛想も良い。そして、なによりミケのお気に入りであるイツキ君がいる。

 イツキ君と言うのは、ムギローブで働くバイトなのだが、華奢で白くて可愛い顔の眼鏡を掛けた子で、ミケが言うには男の子らしいのだが、俺が見るにどうも女の子にしか見えない。ミヨやルカさんとはまた違う中性タイプだ。

「っああああぁぁぁ、やっぱりビールは一杯目の一口目が一番美味しいわよね」

 第一声は明らかに男のそれだが、最後はしっかりとオネェになっている。ミケのそういうとこ、俺は意外と嫌いじゃない。

「この枝豆をガリバタで炒めてるの好き」

「あたしもー」

 今日のお通しもビールに合う合う。これは店では出せないけど、今度家で作ってみることにしよう。

「何頼む?」

「はなちゃんに任せる」

「おっけー」

 じゃぁにら玉と豚キムと、鳥の山椒焼き、タタキきゅうり、タコのカルパッチョ辺りで。

 視線を上げて店員さんに注文のアイコンタクト。別に意図したわけじゃないけど、目が合ったのはイツキ君だ。だって一番目に付くところに居たんだもん。

「お決まりでしょうか」

「えっと・・・」

 うーん。その声、どう聞いても女の子だけどな。 

 俺が注文をしている途中も、ミケはにっこりと微笑みながらイツキ君を見ている。イツキ君の表情は穏やかだ。

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