第28話またね!綺麗な顔のお兄ちゃん!

「ここは…?」


神様の作り出した穴を入った先に光が差していた。

俺はその光の中に包まれると知らない家の前に出ていた。

家は木造の2階建てで玄関は引き戸の古い家だと理解した。


周りは殺風景で田んぼがあり転々と同じような木造の家があった。

ここの場所は分からないが、30年前の2002年の時代に着いたんだと直感的に理解した。



ガラララ

「行ってきまーす!」


そう元気な声が聞こえてきたと同時に{ドン}と元気よく飛び出してきた子とぶつかる。



「きゃっ」


「だ、大丈夫?」


ぶつかったが、そんな大したダメージは無く俺は倒れる事は無かったが、相手は子供なのだろう…その子は盛大に尻餅をついていたので慌てて手を差し伸べす。


「いたた〜」

そう言って俺の手を掴み立ち上がる。


「ごめんなさい。夢来乃急いでたから」

そう言って顔を上げるその子に見覚えがあった。


服装はミニスカートで動きやすいそうで綺麗な長い黒髪が特徴の女の子…間違いない写真で見た夢来乃叔母さんだ。



「ごめんね。お兄ちゃん{ぼ〜}っとしてたから。どこか怪我してない?」


「ううん。怪我は大丈夫だけど……お姉さんは男の人なの??」


「あはは。よく間違われるけど男だよ」



そう言うと夢来乃叔母さん……いや、ろりのんは目を輝かせる。


「すごーい!しおりちゃんが見てた本のキャラクターみたいだ♪」


「本のキャラクター…?」


「うん!あのね?女の子みたいな男の子が男の子と裸で抱き合ったりしてるの!」



おい!しおりぃぃぃぃぃぃ!!

うちの叔母さんになんちゅーもん見せてんだ!

あ!そう言えば夢来乃叔母さん腐女子だった!!この頃からそっちの属性あったの!?!



「あ、夢来乃もう行かなきゃ!」


「急いでたけど、どこ行くの?」


「お母さんに買い物頼まれたからおつかいに行くの!」


「そっか!あんまり急ぐと危ないから気をつけてね」


「はーい!またね!綺麗な顔のお兄ちゃん!」

そう言って、ろりのんは手を振って目的地に向かって行った。



あぁ^〜心がぴょんぴょんするんじゃぁ^〜

俺は至福の時間を堪能しようと思ったが、すぐに目的を思い出しろりのんの後を追いかけるのだった。



「わぁー綺麗なビー玉!」

ろりのんは道端に落ちてるビー玉を拾う。


俺は、ろりのんから付かず離れずの距離を保ったまま尾行を続けていた。

こうして見るとただの少女…こんな子が死ぬなんて考えたくもないよな。


ろりのんが動き出し俺も動く。

その時だった。


ブォォォォォン!!

いきなり看板が目の前に現れた。


「あっぶね!」

俺はそれをしゃがんで避ける。

しゃがんでなかったら間違いなく頭蓋骨が粉砕してたであろう軌道を看板が通って行く。



台風どころか風すら無いのに看板が降ってくる??

間違いない…地球が殺しに来てるんだ。

くっそ…変な汗が出てきて体も震えてきた。

そりゃそうだろ…こんな形で命狙われてるんだぞ…怖くないわけがない…


{ハッ}と道先を見る。

ろりのんを見失いそうになるのを察してすぐに追いかける。

住宅街の小道を抜け道路を突っ切るろりのんの後を追う為俺も道路を横切ろうとした。



ブウゥゥゥゥゥン

その瞬間、物凄い速さで車が目の前を横切る。


「嘘…だろ…」


標識を見ると40と書かれている。

そりゃそうだ、こんな小道なんだ。

なのに今のは100…いやもっとスピード出てたぞ…。

これも地球が俺を殺しにきてるってやつか?


恐る恐る左右を確認し、道路を突っ切る。

ろりのんが居ない…?

しまった!見失ったか??


そんな時だった。



「なんで死なない??」


急に後ろから声が聞こえてきて俺は後ろを振り向く。

振り向くと髪の長い女が{ゆら〜}と立っていて手には刃物…包丁を持っていた。


この状況、考えなくても分かる!



「地球…さんか?」

そう質問するも女は

「オマエはウイルスだ。どこから侵入した?」

と、話にならない。


「どこからでも良いだろ?あれか?人の意識を乗っ取ってるってやつか?」


「オマエはこの時代に居てはいけないウイルスだ。なら削除しないといけない。それなのに…それなのに…それなのに」

壊れた機械のように同じ言葉を連呼する。


俺は、いつ襲われても良いように女の持つ包丁に意識を集中していた。



「削除する…駆逐する…排除スル…ブチコロス!!!」

そう叫び女は包丁を振り下ろす



スサッ!

それを横に逃げ華麗に避け包丁は空を切る。


ガッ!

そして俺は包丁を持ってる腕を掴む。


だが、簡単に振り払われ俺はよろめくのだった。

「なんちゅー馬鹿力だよ!ぐわっ!」


気付いたらまたもや包丁が振り下ろされていて、俺は横に転がり飛ぶ



ズサッッ!!!

今度は地面に包丁が突き刺さる。


「くそっ!」

俺はすぐさま立ち上がりがむしゃらに走り出すのだった。



「ニガスカアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

そう叫びながら女は俺を追いかける。


まるで貞子だな…なんて思いながら土地勘のない道をただひたすらに走る。

正直俺は喧嘩はした事ないし運動だって人並みだ…

さっきの動きだって言わば火事場のなんとやらってやつで……下手したら死んでいた。

俺、マジで地球に命狙われている!!!


知らない道をウネウネと走り続け後ろを見るとさっきの女は居なかった。

播けた…?のか…?と安心したのも束の間



「コロス…コロス…コロス…」


今度はおじさんが包丁を持ってそう呟いていた。

逃げながら思った事があった。

それは人の無さだ。

確か夢来乃叔母さんが、店から出てきたら夕日が沈んでいたんだよな?って事は少なくとも今って5時前…いや、季節によっては6時前とかだよな??

なのに!周りには人は居なく車すらもさっきのスピード違反以外は見てない。


これも地球の意思なのか?



「コロス!!!」

おじさんが包丁を振り回す。


「あぶねーだろ!」

そう言いながら俺はそれを避ける。


極度の緊張からなのか…妙に脳がハイになりしっかりと包丁の軌道が見える。


「どりゃああ!」

そして隙を突きおじさんを転ばす。



「ユルサレナイ…オマエノソンザイハ…ユルサレナイ」

無様に転びながらもそう呟くおじさんは気味が悪かった。


俺はすぐさまその場を離れる。


完ッッ全にろりのんと逸れてしまい俺は道に迷っていた。

そりゃそうだ、知らない土地だ…迷うなって方が無理だ。


それでも来た道を戻る事は出来なく、かと言って立ち止まる事も出来ない状況なので俺は道を進むしかなかった。


少し走ると目の前に3人の男女がいた。


おっ!人だ!ラッキー!




って思うわけないだろ!

手には刃物を持っていて間違いなく地球の人形だ。

今度は数人ときましたか…



「コロサネバ…コロサネバ…」

案の定そんな不吉な言葉を呟いてる。


に、しても地球って馬鹿なのか?刃物でしか人を殺せないと思ってんのか?拳銃とか持ってきたら早くないか?

あ、いや日本だから拳銃なんてないのか…??まあ、良いや。


力では絶対に勝てない。

でもあいつらは人形みたいなもので、ただ刃物…包丁を振り回すしか脳がない。

知性ってのが感じられないところを見るにそこを突けば、この場を抜けられるかもしれない。



「俺はお前なんかにやられない!目的を達成して帰るまではっ!絶対にやられてなんかやるものか!!!」

そう啖呵をきる。



「ぅぅ…コロス…」

そう呟き迫ってくる。


3人同時に動き出してきたが、俺は刃物を振り下ろす軌道を見極め上手く回避する。

そして足元を狙い蹴るッ!!


そうすると足元を掬われたように無様に転ぶ。

俺は2次元のヒーローばりの動きで見事に3人を転ばすのだった。



「はぁ…はぁ…」


死との恐怖で疲れなんか忘れていたが、ここにきて{ガクッ}と疲れが出る。

でも俺は走るしかないんだ。


走って走って…キツくて足だってもう{プルプル}で…どこに向かってるのか。

追われてるのか追っているのかもう分からなくて…そして、空のオレンジが沈み始めた頃に…


「アンタが居んのかよ…はぁ…はぁ…」


目の前には最初の髪の長い女が居た。

そして後ろには、おじさんが立っていた。


体力的にももう厳しいぞ…。



「良く頑張るじゃナイカ。ならこーいうのはドウダ?」

そう言って髪の長い女は指を指す。


女が指を指した先には、ろりのんが信号待ちをしていた。


「イマからアノショウジョヲ突き飛ばす。するとほら…ムコウからトラックが来ている。ドウナルトオモウ??」

{にたー}と、気持ち悪く笑う女。


「止めろ!あの子は関係ないだろ!」


「モウ遅い…」



そして…トンッとろりのんは押された。


「キャッ!!?」


トラックが順調にろりのんに向かっていく。



「くそっ!」

俺は髪の長い女を横切りろりのんに駆け寄る。


「ムダダ…あはははははははははははは」


ろりのんを助けると同時に俺はトラックに轢かれる…そう確信して女は…地球は高らかに笑う。


「そんな事に…なって――――




――――たまるかああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


俺は、ろりのんに向かって飛び込むのだった。



そう言えば俺のこの物語の始まりもこうだったよな。

蜜穂を助ける為に俺は跳んでいた。


不思議と時間の流れがゆっくりに感じる。

俺はその間に色々な事を思い出していた。


あんなにもつまらないと思っていた人生が、ちょっと選択を変えるだけで明るい人生に変わるなんて不思議なもんだよな。


蜜穂…お前に会えて俺は新しい未来を掴み取ろうと思った。

昏亞…お前には沙織の件で色々苦労をかけてしまったな。

沙織…ごめんな。お前にまで気を回せなかった俺を許してくれ。

育穂さん…こんな俺を息子として育ててくれてありがとう。

母さん…いっぱい迷惑とかかけたと思う。でも次は間違わないから。


そして華…好きだ。お前が好きだ!大好きだ!!!お前と幸せになりたい!だから…だから俺は必ず生還する!!!





キキキィィィィィィィィィィィ





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