第27話これが本当に最後の過去改変だ!

「希望…?」

俺は腕で涙を拭いゆらのんの話に耳を傾けた。



「憐を見た時にすぐ分かったわ…未来乃の子だって。もし息子だって知らされてなければ女の子だと思うぐらい未来乃にソックリなんだもん」


「そして私はを思いついた。いや、正しくは前々から考えていた計画を実行しようと思った」


「私には未来乃が、どんな経緯で死んだのか分かっていた。そしてそれを上手い事利用すれば未来乃はんじゃないか…そう思い貴方を…憐を利用しようとした」


「過去改変の権限の引き継ぎさえ完了すれば後は幾らでもやり様はある。そう思ってたけど、憐はそれを拒否…。理由を聞いたら全く自分と同じ事を言い出してイラッとしたわ」



そう言えば、俺が一度断ったらゆらのんが声を荒げたんだっけ…

それに俺が過去改変出来たのはゆらのんのお陰だったとは…。



「でも何とか過去改変に承諾させて計画の実行を…と思ったのも束の間。憐の過去を見て驚いたわ。まったく――ウチの家系って人生に何か起こらないといけない呪いでも受けてるの??」


「憐も憐で問題を抱えていた。未来乃に憐の事を任された以上そこは手を抜くわけにはいかなかった!なにより天使としてもね」


「でも…私はふと思ったの。貴方を…憐を見ていて…だって。自分の過去を変える為に一喜一憂する姿は、なんて言うか私に母性を与えた」


「憐が幸せならそれで良いのかなって思い始め未来乃の気持ちも何となく分かってしまって…気付いたら憐は最後の過去改変を迎えていた。助っ人の参入もあったから間違いなく上手く終わる…これで憐の物語は、また歯車を回し始めるんだって…」


「私はね?気付いたのよ。未来乃を生き返らせる事は未来乃の為なんかじゃないって…ただあの日の選択をした自分を否定したいだけだったんじゃないか…って」


「自分の罪滅ぼしに憐を巻き込んで良いのか私は迷って…そして世界を創った」



「世界を創った??」

つい質問をしてしまう



「そうよ。憐にとって居心地の良い世界を創ったの。それが高3の後の世界」



それって夢未ゆみちゃんのいる世界か?

あの世界は確かに俺にとっては居心地は良かった。

でも俺は…



「憐があのままあの世界で過ごす事を選ぶんならそれで良いと思った。でもその結果…憐は私の期待通りに


「そして本来の計画通りに憐を未来乃のターニングポイントに戻した。その結果、未来乃が生きてる世界への分岐が誕生した。これで私の計画は予定通りの筈だったんだけど…」

ゆらのんは神様を{チラッ}と見た。



「もしかして記憶が曖昧だったのって…?」


「そう私の仕業。私に気付いてほしくなかったのよ。私は霞憐かすみれんの叔母の霞夢来乃かすみゆらのじゃなく…天使ゆらのんで居たかったから」



こうして聞くと俺って色んな人の想いを背負っていたんだなって思う。

母さんや叔母さんや…昏亞や育穂さん、勿論俺自身。


それに…神様の想いだって!


俺は神様を見る。

神様は俺の視線に気付き口を開く。




「夢来乃、ワシは憐に話があるんじゃ。そろそろ出て行ってもらおうか」


「待ってよ!その話は私に関係ない話なの?」


「さあの。自分で出て行かぬのならワシの力で無理矢理でも出て行かせるぞ?」


「くっ…!分かったわよ!でも憐には言わないでね!」

そう言って叔母さんは部屋を出て行った。



{コホン}

神様は咳払いをする。

「それで夢来乃の件だが…」



やっと本題って所か。

わざわざここに呼び寄せて夢来乃叔母さんの話をしたって事は、一つの要件しかないはずだ。



「分かってる。夢来乃叔母さんの未来を変えて欲しいんだろ?」


「ほぅ…何故そう思う?」


「じゃあ言い方変えるよ」



――ったく!神様ってのは、つくづく面倒だ。


「夢来乃叔母さんを助けたい」


その俺の意思を聞いて神様は{にやっ}と笑みを浮かべる。


「神様ってのは平等でなくちゃならんからの。じゃから目の前の人間の願いを聞き入れなくちゃならん。な立ち位置じゃよ」



つまりは、だ。

神様は己の願いは叶える事は出来ないが、人の…俺の願いなら叶えれるって事さ。

本当は自分が1番夢来乃叔母さんを助けたいと思ってるくせに…だ。



「それで?過去改変に行くんだろ?俺はいつでも行けるぞ」


「まあ、待て。その前にちーっと説明せなならん!」


「説明…?」


「お主、過去改変の仕組みは分かっておるのか?」


「仕組み?俺の意識を過去に飛ばすんじゃないのか?」


「半分正解って所じゃな」


「残り半分は?」


「正解は過去の自分と意識をするんじゃ」


「意識の…交換??」


「そうじゃ!お主が過去改変に行ってる間、この世界のお主は眠っておる。んで、過去のお主の意識と交代するからこの時代に過去のお主の意識が来るわけじゃが、この時代のお主は寝てるから過去のお主の意識も眠る事になる」



なるほど。

確か一回あったよな?ゆらのんに無理矢理起こされた事。

それはそう言う事だったのか。


ん?待てよ…過去改変は過去の自分の意識を交換するものだよな?

夢来乃叔母さんが亡くなったのは10歳の時で…夢来乃叔母さんは母さんの二つ上だから…実際だと40だから……30年前の事だよな?

30年前って俺産まれてないよな…



「そうじゃ!そこじゃよ大事なのは!」


あ、そっか神様は心読めるんだっけ。



「過去の自分の意識と交換するのに過去の自分が居ない…と、なると過去改変に行けないのだ」


「じゃあどうするんだ?」


「直接行くんじゃよ」


「直接っ!?」


「そう。お主が直接過去に跳ぶんじゃ!」


「タイムマシンでもあんの?」



「いや?そんな物は必要ない。」

そう言って神様は2m程の穴を作り出す。


「この穴は、お主が行くべき時代…つまり2002年の時代に繋がっておる。」


「じゃあこの穴を通ればいい訳だな?」


「そうなんだが、注意点がある」


「注意点…?」


「この穴はのう…色んな所に繋がっておる。それこそ地獄や下界とかにの。じゃからこの中で迷ったら一生出てこれない」


「ま、待てよ?じゃあ俺は迷子になる訳だろ?」


「真っ直ぐ進めば良いんじゃよ。そしたら光が見えてくる…そこがゴールじゃ」


「真っ直ぐねぇ…分かった」


「そしてもう一つ大事な事が!これはお主の存在にも関わる事だ」


「俺の存在ときましたか…」


「さっきも説明したが、お主は今から本来はお主が居ない世界に行く事になる。それは地球にとってはバグみたいな物で…つまりお主はウイルスみたいな物でよ?そのウイルスを排除しようと地球はお主を殺しにかかる」



「地球が俺を殺す…?」


「本来死ぬ者がその運命を回避し生き延びる程度のバグならば同期で、その存在を肯定するのだが、今回は存在する筈のない者が存在すると言うバグになる。これは同期なんかじゃ調整できない事実!ならば、地球はそれを排除すれば早いと結論するわけだ」



「それで?地球に殺されたらどうなる?」


「お主の存在が消滅する。文字通りな。」



要するに失敗すれば俺は、俺と言う存在は消滅するって事だな?

俺が消滅すれば…どうなる?

俺の居ない世界は…どうなる?

何も問題が無いように当たり前のように世界は回っていくのか?

それとも蜜穂達は、何かしらのリアクションをしてくれるのか??


いや、多分だが俺の代わりが誕生する筈だ。

顔も知らねえ誰かが俺の席に座るなんて許さねえ!認められねぇ!

なら…ならば俺は!



必ず生きて帰る!



「良い表情だ。憐ならやってくれると思っているよ」


「その前に一つだけ良いか?」


「ん?なんじゃ?」


「仮に、だ。良いか?仮にだぞ?俺が消滅したら母さんは俺を産まなくて良いって事になるんだよな?ならば母さんは…レイプされなくなるのか?」



「うむ。時と言うのはある程度決まっておっての。お主が過去に行くとそれをウイルスと認識し地球がお主を殺そうとすると話したばっかだが、お主が夢来乃を救って無事にこの時代に戻ってくるとしよう」


「地球は一度お主と言う存在を認識した。そこでアカシックレコードにログインするわけじゃ」


「アカシックレコード…??」


「アカシックレコードとは、過去や未来が記されてる物での…未来予知者とか予知夢なんかはそのアカシックレコードを覗ける者の事なんじゃが…まあ、なんでも知ってる機械みたいな物だと思ってくれ」


「地球はそのアカシックレコードにログインしてお主の事を調べる。勿論お主の事も記されておるから何年の何月に生まれると分かるわけじゃ!そこで地球はそう帳尻が合うように未来を作るんじゃよ」


「逆にお主が消滅すればアカシックレコードからの記録も無くなるからお主が産まれる事はないって事じゃな」



つまり俺が存在している以上、母さんがレイプ…あるいは妊娠する事は決まっていて俺が消滅すれば、母さんはレイプされる事は無くなるかもしれないって事か…?


「誰もが都合の良い世界なんて無いって事じゃな。でも霞未来乃は、お主を産んで幸せと言っておった!ならばそれで良いんじゃないかの?」



あれもこれも助けるって事は出来ないって訳だな。

犠牲の上に成り立つ幸せか…しょうがないと目を瞑るしかないのか?

母さんごめん…辛い経験をさせるけど、今度は必ず―――そう必ず!良い息子になるから!



「覚悟は決まったようだな」


「ま、いっちょ行ってきますよ!これが本当に最後の――








―――過去改変だ!」




そうして俺は神様の出した穴に入って行くのだった。

必ずハッピーエンドを掴む為に。

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