第25話母さんに会いたい

2027年霞未来乃かすみみらのの死後。育穂邸にて。


「未来乃には絶対に言わないでって言われてたんだけどね…」

そう切り出した育穂さんは静かに語り出した。



「あれは私と未来乃が15歳…高校1年の頃。未来乃は恋をしたの。相手は2つ上の先輩。その人は頭が良くスポーツも出来る誰もが憧れる先輩だった」


「勿論未来乃も憧れていた1人でいつもその先輩を目で追っていたわ。未来乃はね?所謂マドンナ的な存在で同級生は勿論2年生や3年生の先輩達から注目されていたの」


「だから1年のプリンセスと3年のプリンスでお似合いなんじゃないかって良く噂されていたわ。そんな訳で未来乃とその先輩は接触する事になったの」


「まあ私含めて数人で遊びに行ったってだけなんだけど。でもその時の先輩はとても紳士で正直それだけでモテるだろうなって私は思った。案の定それから未来乃は更にその先輩の事を好きになってしまったの」


「丁度その頃に未来乃に告白をした人がいた。その人は同級生で同じみゃーしょうで割と話す事もあったの。多分未来乃の先輩に対する気持ちに勘付いて告白したんだと思う」


「でも未来乃の答えはNOだった。好きな人が居るしね。そんなこんなで夏休みに入ってあの悲劇が起きたの」


「夏休みの中盤頃に未来乃は先輩と遊びに行くって言ってきたの。勿論私は誘われてなかったんだけど話を聞いたら2人きりのデートとの事。いつそんな話になったのか聞いたら昨日いきなり電話がきて決まったと言う」


「流石に2人きりは不味いんじゃないかとも思ったけど、それでも未来乃の恋を応援したかった私は明るく送り出したわ」


「でもそれが間違いだった。その晩10時頃に未来乃のおばさま…えっと憐くんのお婆ちゃんから未来乃がまだ帰って来ないと連絡が入ったの」


「私は家で雇ってる執事やメイド…そしてSPなんかも使い徹底的に調べたの。そのお陰かすぐに未来乃の居場所は分かったんだけど、その場所がその先輩の家だったの。」


「先輩は親元を離れ一人暮らしをしていてその引越し完了が前日だったの。だから先輩の家を知ってる人は一握りで多分私じゃなければこんなにすぐには見つからなかったと思う」


「嫌な予感がした私はおばさまに見つけたとだけ言って私と数人のSPでそこに突撃する事にしたの」


「そしたらそこではとんでも無い事が起きてたの…。憐くんももう18…なんとなく察しているんじゃない?」


俺は軽く頷いた



「そこには先輩含めた3人の男にレイプされていた未来乃が居たの。あの日の未来乃の泣き崩れた顔や叫び過ぎて枯れた声…もっと色々思い出しただけで腹わたが煮えくり返る光景は今でも絶対に忘れる事はない」


「勿論その3人は徹底的に罰したんだけど、まあそれは置いといて…。そんな事もあり夏休みが終わって新学期が始まったわ」


「レイプ事件から心身共に傷付いた未来乃も夏休みの残りの3週間程で一応は外に出れるようには回復していて始業式に出れたんだけど、未来乃がレイプされた事は学校中に広まっていた」


「あのプリンセスがレイプされたと私から見ても男達の目は怪しかった。それどころか同じ女からは、どうせ誘惑でもしたんでしょ、とか味方にならないといけない同姓からも自業自得と言うような言葉を浴びせられ未来乃はそのまま学校を飛び出し家に引きこもるようになった」


「今の時代はマシになったけど当時はレイプされる方が悪いってそんな風潮があったのよ。」


「そんな現実におばさまとおじさまはずっと頭を抱えていて、そんな時に丁度流行り出した通信学校を勧めたのを今でも覚えてる。でも悪い事は立て続けに起きるもので…」


「ある日未来乃の身体に異変が起きたの。頭痛や熱や吐き気とかに悩まされる様になり極め付けに生理も来なくなった。間違いなく妊娠してたの」


「それを知ったおじさまとおばさまは下ろす事を言ったの。それは親としては当然の反応だと今なら分かる。だってレイプされて出来た子よ?絶対に良い事なんてないでしょ?」


「でもね?未来乃はそれを断ったの。私はその頃未来乃から死にたいと毎日の様に相談を受けてて、そんな未来乃がこの子は私の生きる希望だと言ったから私は未来乃の味方だった」


「おじさまは産むんなら勘当すると言ったわ。でもそれは一種の脅しみたいなもので、そう言う事で未来乃の考えが変わるかもしれないと思っての発言だった。でも未来乃の意思は変わる事なく未来乃は子供を産む事にした」


「おじさまも勘当すると言った手前未来乃と縁を切る事になってとても後悔してたわ。私に未来乃の事をお願いしてそれから多分一回も連絡を取り合ってないと思うの。おじさまは頑固だしその娘の未来乃も頑固だからね。」


「てか未来乃からしたら味方をしてくれなかった怨みもあった筈。でもまあ私は定期的におじさまに連絡を入れてたんだけど…まあ、その話はいっか」


「そんな経緯で産まれたのが憐くんなのよ…」




自分の出生にただただ驚くしかなかった。

自分に父親が居なかった理由…祖父母と会った事がなかった理由…その全ての答えは想像の斜め上すぎて…



「それと、憐くんの右手の平を見る癖だけど…。その癖は未来乃をレイプした先輩と全く同じ癖なの」



なん…だって…!?



「憐くんがその癖をする度にブっていたのは…本当に辞めてほしかったからだと思う。その癖を見る度にあの日を思い出すって未来乃はそう言ってたから…」


「でも暴力はいけないって言ったんだけど、自分でも分かってるけどどうしてもあの人を思い出して自制が効かなくなるって…そう言ってた…」




「そんなの……今更ずるい」


今まで恨みの対象でしかなかった母さんが今はこんなにも愛しい。

母さんを抱きしめてあげたい。

母さんにありがとうって言ってあげたい。


「俺…母さんに何もしてあげれなかった。母さんの事嫌いで!朝顔を合わせてもおはようって言ってくる母さんを無視していた」


俺は結局自分の事しか考えてなかったんだ。

子供なんだ。クソガキだ!

母さんはもう居ない…けど!


「母さんに会いたい…会ってちゃんとおはようって言いたい!なんで居ないんだよ!!なんで…なんで母さんは……うっうぅ…」


溢れ出る涙を止める事は出来なかった。










「そんな事が未来であって育穂さんから直接話しを聞きました」

「だから!このままだと母さんは死んで!育穂さんはずっと後悔するんです!」


そう熱く語るも育穂さんは頭を抱えていた。



「ま、待って!頭の整理が追いつかない!」


確かにそうだろう。

いきなり色々な話をしたんだ。

理解が追いつくには時間が要ると思う。


でも、時間はかけられない。

だっていつまでこの時代に居られるのか分からないから。

俺はかなり焦っていた。



「確かに…」

育穂さんが{ポツッ}と呟いた

「確かにその状況なら私言うかも…そこは、うん納得できた。未来乃は絶対に言わないだろうし憐くんが、この話を知ってる理由も一先ず理解は出来た」


「だから多分未来からきたって言うのも理解するしかなくて…って事は未来乃が死ぬ事も理解するしかなくて……」


なんとか理解しようとするも、それでもやはり頭が追いついてないのが分かる。

当然と言えば当然の反応だ。

むしろ普通より理解が早い方だとも思う。



「ねえ?1つ聞いて良い?」


「なんですか?」


「その未来の私は今日から未来乃と会ってないんだよね?」


「そう言ってましたよ」


「じゃあ明日の未来乃の誕生日はどうしたの?」


「えっ!?母さんの誕生日??」


「6月2日は未来乃の誕生日でしょ?一応レストラン予約してるんだけど…ってこの話知らないって事は一人で行ったのかな?あそこのレストラン予約キャンセル出来ないし…」



6月2日が母さんの誕生日…??



「うっ!」

唐突な頭痛に襲われる


「ちょ、ちょっと大丈夫?」


頭の中に映像が流れ込んできた。

そこはどこかの部屋で華と蜜穂と沙織が居て


「6月2日母さんの誕生日に育穂さんがお墓参りに行くらしいんだ。俺それに付いて行こうと思う」


そう言ってるシーンが再生された。


更にお墓の前のシーンでは


霞夢来乃かすみゆらの夢来乃ゆらのって誰だ?」


前に霧がかかったような記憶が鮮明に思い出され俺は全てを思い出した。


そうだあの時俺は、華に告白をしようと決意したんだ。

丁度その時に育穂さんから母さんの墓参りに行くと連絡が入って、俺は過去に…母さんに向き合おうと思って墓参りに行く事にした。


そこで祖父母とも合流し墓の前に着くと霞家の墓と書かれてその下ぐらいに霞夢来乃、霞未来乃と書かれていて

俺は爺ちゃんに聞いたんだ


「霞夢来乃って誰?」


そしたら爺ちゃんは写真を見せて未来乃の姉…つまり憐の叔母だよと言った。

その記憶の俺は気にもしなかったが、俺は!俺には!その霞夢来乃に見覚えがあった。


その写真には笑顔の少女が二人写っていてショートの方は母さん、そしてもう一人の子は綺麗な長い黒髪が特徴的で……それを金髪にしたら……



「ゆらのん…」


「えっ?夢来乃??夢来乃お姉ちゃん??」



夢来乃…ゆらのん……えっ?ゆらのんって……俺の叔母さん???


その刹那、地面に穴が空き

「うわあぁぁぁぁぁ」

俺は無様な声を上げ落ちるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る