第23話ありがとうなんて……言っちゃダメだよ

もう一度死ねば過去改変が出来、育穂さんを救えるんじゃないかと思い俺は家を飛び出した。

でも死ぬって言ったって早々、簡単な事じゃない。

またトラックに轢かれるのか?それとも首吊り自殺?または高い所から身投げ??


無理だ。

そんな簡単に死ぬなんて――出来ない。

でも、育穂さんを救うには、もう過去改変しか…

そんな事を頭の中で{グルグル}と思いながら俺は行く宛もなく彷徨っていた。

そんな時だった。



「キミは…何してるんですか?」


聞き覚えのある声が聞こえてきた。

周りを見渡すも知らない人達が歩いているだけだった。

気のせいだったのか?と前を歩き出すと



「何をしてるんですか?」


また声が聞こえてきた。

その瞬間{ぴきん}と時間が止まったような音がして辺りが真っ白に包まれた。

周りに沢山の人が居たはずなのにその人達は居なくなり1人の女性が目の前に立っていた。



「ゆらのん…」


俺はつい目の前の女性の名前を口ずさむ。



「せっかく生き返れたのに…なんでまた死のうとしてるんですか?」

長い金髪のバニーガールのような格好をした女性は少し…いや、かなり怒ってるようだった。


それでも俺には引けない理由がある!



「丁度良かったよ。また過去改変をしたいんだ!!」


「自分が何を言ってるのか分かっているんですか?」


「分かってr―――」


「――分かってないです!!!キミは何も分かってないです!!!」

ゆらのんは声を荒げた。


「良いですか?過去改変をするって事は、せっかく手に入れたこの世界!この未来を捨てると言う事ですよ!?キミは!!何の為に頑張ってきたんですか!?」



ゆらのんにそう言われ俺はつい{ハッ}とした。

俺はトラックに轢かれ死ぬ運命を変える為に過去に戻り正しい選択を選んできた。

その結果がこの世界だ。

この世界は全てが上手く行っていた。


本来バラバラになってた筈の幼馴染達とも関係は良好だし、更に水原雫と言う新しい友達も増えていて…

育穂さんも幸せそうな家庭を築いていた…。


俺の思い描くハッピーエンドに近い世界だ。

でも…



あぁ、そうさ…



でも!それはなんだ!

俺の思い描くハッピーエンドには誰一人も悲しみを背負ってちゃいけないんだ!!

だから俺は……



「だとしても!!悲しんでる人が居るんだ!!まだ過去に縛られてる人が居るんだ!!!俺の手の届く範囲で!!悲しんでる人が居るんだよ!!!その人を助けたいって思うのはそんなにいけない事なのかよ!!?」


自分の思いを全て言葉にしてぶつけた。


手の届く範囲で助けられる人が居るなら俺は絶対に助けたい!

それが自分にしか出来ない事なら尚更動くしかないじゃないか。

俺は真っ直ぐにゆらのんを見る。



「……意思は固いようですね」


「あぁ!」



ゆらのんは諦めたのか{ハァ…}とため息をつき落ち着いた口調で言った。


「確認です。もう一度過去に跳ぶって事は、少なくとも今のこの世界を捨てると言う事です。もうこの世界には絶対に戻れません。……良いんですね?」


「大丈夫だ!」

俺は即答する。



「分かりました。そこまで意思が固いのなら私から何を言っても意味ないですね」


「ごめん…でも引けないんだ。」


「トラックに轢かれたキミが引けないときましたか…」


「ちょっ!言葉遊びみたいなのやめて!?」


「ふふ…」

ゆらのんは少し笑った


「ありがとな。心配してくれて。」


「私はお礼を言われる事はしてませんよ」


「じゃあ、それでも良い…全て終わらしてくる!」


「全て……終わると良いですね」


「えっ?」


「いや、なんでもありません。じゃあ準備は良いですね?」


「おう!」


そう返事を返した時に俺は気付いた。

に戻れば良いんだ?

だから俺は、ゆらのんに聞こうとした


「あ、ま、待ってくれ!いつの時代に―――」


「――ゆらのんビイィィィィィム!!」


「えっ?えええええええぇぇぇぇぇぇ??」



こうして俺は最後の過去改変に向かうのだった。










「ふぅ…」


憐を送って一息つく。


「もう…いいか…」


私はそう呟き{パチン}と指を鳴らす。

すると今まで居た世界にヒビが入った。


びきびき……パリン


そして世界が割れていく。

私は一歩も動く事なくただただ世界の崩壊を見守るだけだった。

そんな時だった。

目の前の空間に穴が開きそこから一人の子供が現れた。


「神ちゃま…」


「神ちゃま言うな!」


そう現れたのは子供の姿をした神様だ。


「こんな世界まで…更には憐の記憶も…これで良かったのか?」


やはり神様には全部バレているみたいだ。

そうだ、この世界は私が創ったのだ。


「全てはの為です」


「お前の考えてる事は分かっているぞ。だが、その後はどうする?お前の狙い通り行ったとしてもお前は……?」


「私はこのままで良いんです。あの子が…あの子と憐が幸せなら…それで」


「そうか…まあ儂も上手く行く事を祈っておるぞゆらのん……いや、夢来乃よ」



ねえ?憐は私にありがとうと言ったよね?

でもそれは違うの…私は私の目的をただしてるだけなの。

そんな私にありがとうなんて……言っちゃダメだよ。










暗闇









暗闇








「なんで…なんで何も言ってくれないの!?未来乃!!」



意識がハッキリしたと同時にそんな声が家の中を響き渡っていた。

戻ってきた早々、悲しみへの道は開かれてしまったようだ。




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