第22話明日家行って良い?

「ごちそうさま」

そう言って食器を綺麗に重ねる。


「やるから良いわよ」

その言葉に甘え育穂さんに食器洗いを任せた。



あの後…思わず泣いてしまった後、育穂さんは何も言わず夢未ちゃんと共に抱きしめてくれた。

深く追求されなかった事に{ホッ}と胸をなでおろす。

ふと、夢未ちゃんを見る



「きゃっきゃっ」


テレビを見て笑っていた。

実に――――――尊い。

俺はこの光景に心の中で敬礼をする。


そんな時だった

{プルルルル}

ポケットに入れていた携帯が音を鳴らしながら振動する。

俺はすぐさま静かな部屋に行き携帯の画面を見ると【雫】と表示されていた。


雫って……水原雫みずはらしずくか?

俺が中3のときにプールで助けた…。

あ、そうだ、記憶の中では水原雫とは仲が良い。とりあえず取るか



「もしもし」


「ごめん寝てた?」


「いや、大丈夫だよ。」


とりあえず蜜穂達と絡む様に喋ってみたけど、大丈夫なようだ。

何せは初めましてだからな…。



「昨日だったでしょ?大丈夫かなって…」



昨日…しまった、ここ最近の…正確には5日ぐらいの記憶はまだ同期してないんだ。

昨日何があったんだ…?


「き、昨日?」

とりあえず聞き返してみる


「うん。憐の苦手な人だって聞いてたから…」



俺の…苦手な人??

何を言ってるんだ?


「あ、あぁーそうだねー」

とりあえず無難な返事をしておく


「でも蜜穂達驚いてたよ?憐が自分から向き合おうとするなんて!って」



俺が?自分から向き合う……?

くそっ!ダメだ分からん!


「そ、そーかな?」


「私はあんまり分からないからなんとも言えないんだけどね…」


少し声のトーンが下がったのが分かった。

でも昨日何があったのかは全然分からない。


「あっ、ねえ?明日帰ってくるんだよね?」


「えっ?あ、あぁ…一応な」

そうだよないつまでもここに居るわけにもいかないよな。


「じゃあ明日家行って良い?」


「えっ!?あ、あぁ、も、勿論!」


「じゃあまた明日電話するね♪職場着いたから切るね」


「おう!またな!頑張れよ!」


「うん!ありがと!またね」



こうして雫との電話は終わった。

とりあえず頭の整理をしよう。


俺は苦手な人に向き合おうとしていた。それが昨日だ。

勿論それが誰なのかは分からない。


そして雫との会話……記憶を遡ると雫は割と頻繁に俺の家に来てるらしい。

一人暮らしの!俺の!家に!だ!


もしかして…と更に記憶を遡るが、俺と雫が付き合ってる事実は無かった。

雫には悪いが俺は{ホッ}とした。

俺の好きな人は別に居るからな…


そんな事より!昨日だ!

ここ、水無月家に居るのも関係があるんだろう。

因みに今日は2032年の6月3日だ。

つまり昨日は6月2日。

1つ過ぎったのが母さんの命日だ。

でも母さんの命日はまだ先だし…一体6月2日に何があったんだ??



「くそっ」

そんな独り言が出た。



「あ、憐君居た!」


「わっ!育穂さ……姉ちゃん!」


「電話終わったならこっちおいでよ」


そう言われ俺はリビングのソファに招かれた。



「はい」

と、目の前にお茶を出される。


「ありがとうございます」


「そんなに固くならなくて良いのに〜」

そう言って育穂さんは{チラッ}と夢未ちゃんを見る。


「今なら大事な話出来るかなぁ」


「大事な話??」


「そう…大事な話」

そう言って育穂さんは一口お茶を飲んだ。


俺も釣られるようにお茶を飲む



「とりあえず…ありがとう」


「えっ?」


「憐君から来たいって言ってくれたの初めてだったから私は嬉しかったよ」



まただ…なんの話だ?

昨日…の事と解釈して良いんだよな?



「そ、そーですか?」

とりあえず無難な返事をしておく。


「ん、それと……ごめんね。」


「へっ!?」

いきなり過ぎて変な声が出た。


「さっきの事…憐君にはやっぱり辛かったよね…」


さっき?さっきって…泣いた事さっきか?


「あ、あれはその…」


「未来乃の事…本当にごめんね」


えっ?なんで母さんの名前が出るんだ?


「私ね?今でも思うの…私があの子を産んで良かったのかって…」



育穂さんはいつも母さんの事で後悔していた。

この世界でもそれは変わらないのか?


「私のせいで未来乃を…貴方を…ううん、未来乃と貴方を引き離してしまった。なのに私は結婚して子供まで産んで…幸せで…それで良いの―――」


「――良いんですよ。母さんの事で、あれこれ悩まなくて今の幸せを噛み締めてください」

俺は育穂さんの言葉を遮るように言った。



「でも…私があんな事を言わなければ…」


育穂さんと母さんの間に何があったのかは俺は知っている。

だが、多分本来のこの世界の俺は知らないだろう。

でも!知ってるからこそ言わせてもらう!!



「母さんの死に育穂姉ちゃんは関係ないよ。あれは事故みたいなものだよ」



「関係ないなんて!!」

急に大声を出す育穂さん。

そして目から涙を流す


「関係ないなんて…ないよ…」



「まま?どーしあの?まま?」

涙を流す自分の母親を見て駆け寄る夢未ちゃん


「なんでも…ないよ」

そう言うも涙は止まる事は無かった。



ここにもまた…救われない人が居た。

世の中はこんなにも冷たいのか!

1人の人間が今の幸せを喜べない世界なのか?


こんなの…間違ってる。

もしあの時に戻れたなら育穂さんは素直に幸せを喜べるのか?

もしあの時に戻れたら………戻れたら??


そうだ!過去改変だ!

俺はそうして自分の過去を変えたじゃないか。

な!ならば!



「行ってきます」


「えっ?」



こうして俺は家を飛び出すのだった―――





――もう一度過去を改変する為に――




死ぬ事を―――






――――選んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る