第21話心が――痛いんだよ
チュンチュンチュンと聞こえてくる。
顔半分に陽の光を感じる……多分カーテンの隙間から太陽の陽が差してるんだろう。
自分が起きた事を自覚し、ゆっくりと瞼を開ける。
すると…
「知らない天井だ」
視界に映るのは見知らぬ天井。
ここは実家でも育穂さんの家でもないみたいだ。
なら…どこだここは??
目を開け周りを見渡すと、部屋は畳張りで1…2…3……8畳の広さだ。
ドアは襖で、でっかい窓がある。
カーテンの隙間から{チラッ}と見えたのは庭だ。
{ハッ}とし、枕元を漁るとお目当ての物を見つける。
時刻は8時になろうとしていた。
普段は7時20分に目覚ましをセットしてるのだが
「鳴らない電話」
曜日を見ても平日だし休みでは無いはず…とりあえず部屋を出るか、と起き上がろうとした時
「うっ!」
突然の頭痛に襲われる。
数秒か、数分か、どのぐらい経ったか分らないが頭痛が{すー}っと引いた時は額から汗が流れていた。
そして切り取られたフィルムの様に一コマ一コマずつ記憶が上書きされるのを感じた。
これが、ゆらのんの言ってた同期なのか…??
上書きされた記憶を纏めると、俺と昏亞と蜜穂と沙織と華達5人は何事もなく無事に高校を卒業。
そして、沙織と華は同じ大学に蜜穂は別の大学に昏亞は高校卒業した後にバイトを始めている。
因みに俺は、大学に行かず一人暮らしを始めコツコツとバイトをしてるみたいだ。
母さんの件は、正史と同じ感じみたいだ。
でも正史と違うのは、あの話を育穂さんから聞かされてないと言う事。
育穂さんと祖父母の方で葬式等色々し、俺はそれに参加しなかったみたいだ。
蜜穂達に行って来なよと言われたけど頑なに嫌がったみたいだな。
蜜穂達は参加したみたいだけど
まあ、その辺の記憶は良いとして…ここはどこだよって話だよな。
ここは、俺が一人暮らしをしてる家でもなく、どうやら育穂さんの実家みたいだ。
水無月家本家ってところだな。
なんでそんな所に居るんだ??
上書きされた記憶を探っても答えが出ない。
どうやらここ最近の記憶がまだ同期してないみたいだ。
でもここが水無月家本家って知ってるって事は、何回か来てるみたいだな。
それ程までに俺と水無月家は仲良いのか??
正史では、水無月社長…育穂さんのお父さんに会う事はあったが、家に行った事はなかった。
育穂さんの方は連れたがっていたが、俺が頑なに断ったんだ。
それは、嫌いとかじゃなく…なんて言うか家族として帰省する場所が、そこなのか違和感があったからだ。
「ん?霞………?………って誰だ?」
古いテレビの砂嵐みたいに{ザザー}と記憶にノイズが走る。
その記憶は墓石を映していたが、文字までは読めない。
母さん以外の名前が載っていて驚いてる感じの記憶だと思うんだけど…
「つぅー」
思い出そうとすると{ズキン}と頭痛がする。
なんなんだこの記憶は…?まさか開示されてない最近の記憶か…?
あまりの痛さに思い出すのをやめた。
その時
スパーーン!
と襖が勢いよく開き
「あさだおー!!」
と、元気いっぱいの声が響き渡った。
「おねーたんおきてうー?」
そう言って4歳の女の子が俺の上に乗ってくる。
「おはよ
この子の名前は
ちゃん。長い黒髪をツインテールに結んだ女の子で、名前の通り育穂さんの娘だ。
同期して驚いたのだが、この世界の育穂さんは結婚していて子供も産んでいた。
元々育穂さんには付き合ってる人が居たらしい。
でも母さんの件があり別れたらしい。
多分この世界では別れず結婚にまで発展したんだろう。
この世界の俺は育穂さんの所に世話になってないしバイトも育穂さんとは関係ない所だ。
って事は、俺と言う息子の代わりが娘の夢未ちゃんなのだろう。
「あのねゆめね。ママからおねーたんをおこしてきてっていわれたの」
まだ言葉を覚えてる最中なので、舌足らずな会話になる夢未ちゃん。
因みに俺は男なんだけど…って言っても分かってもらえないのは分かってる。
「ありがとね!お兄ちゃん起きたよ」
「おねーたんごはんいこー」
な?分かってもらえないのだ。
{そそくさ}と布団をたとみ夢未ちゃんを抱っこして食卓へ向かった。
リビングに着くと
「憐君おはよ」
と育穂さんが挨拶をしたので
「育穂さんおはよ」
と返した。
すると育穂さんは
「やだぁー"さん"って何よー?育穂お姉ちゃんで良いのに〜」
と指摘してきた。
え?と思ったが
「ママーあのね。おねーたんにね。つれてきてもらったの」
と腕の中ではしゃぐ夢未ちゃん
「そー?ならありがとしないとねー?」
と、育穂さんが言う
憐君…?
その言葉を聞いて俺の心臓は{どくん}と跳ねる。
この世界では一緒に暮らしてないし間違ってはいないのだけど
何故か胸が苦しくなる。
「憐ちゃん!!起きなさい!朝よ!」
「あ、憐ちゃん醤油取って〜」
「憐ちゃんは私のたった1人の息子なんだからね」
この世界とは別の育穂さんの言葉が溢れ出てきた。
育穂さんは俺のお母さんだった。
でもそうだよな…普通に考えたら―――
「おねーたんないてるの?いたいいたいなの?」
「れ、憐君どーしたの?」
慌てて育穂さんが近寄ってくる。
俺は
「おねーたんどこがいたいの?」
と夢未ちゃんに聞かれ
「…あのね?お兄ちゃんね?――心が―――」
「――痛いんだよ」
そうして夢未ちゃんに頭を撫でて貰いながら俺は涙を流すのだった。
もう戻れないあの日を思い出しながら―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます