第13話フラれたら楽か?
「――って作戦でどう?昏亞」
アドベンチャーエリアで華と作戦会議をする。
お互いの目的の為の協定だ。断る理由がない。
「分かったよ。それじゃそろそろ飯の時間だ」
こうして俺と華は約束の場所に向かう。
途中で「一緒だと怪しまれるからあんた少し遅れて来なさい」と華に言われ俺は最後に合流した。
そして更衣室に財布を取りに行きフードエリアへと向かう。
丁度そのぐらいの時に
「清掃と点検の為、プールから上がってください。12時20分に係員から指示があると思います」
とアナウンスが流れた為、この時間帯フードエリアは満員だった。
なんとか確保した席で俺達は飯を食う事にした。
「しっかし参ったなーこの時間忘れてたな」
憐が口を開ける
「早く食べちゃおー」
沙織が言った。
「に、しても沙織!逸れたと思ったら憐と一緒に居たのね」
「あ、うん。そうなんだー2人探してたら偶然合流したの!」
そんな会話を聞いて俺は女は怖いなと思う。
ガッツリ憐と一緒の所見たのにそれを見なかったフリをするなんて……
そんな事を考えて居たら華と目が合った。
俺はウインクをしてみた。
すると華の視線は更に鋭くなり沙織を指差す。
どうやら作戦開始の合図みたいだ………まあ、その合図だと分かってたけど。
俺はアドベンチャーエリアで会話した内容を思い出す。
「ねえ昏亞ちょっと私の作戦に乗りなさいよ」
「あ、ん?作戦?」
「アンタ沙織と2人きりになりたいでしょ?」
「は?は、は、はぁ?そ、そそそそ、そ、そんな訳ないだろ!なんで俺が沙織と!?」
「そー言うの良いから!」
「……」
「この後私達は、お昼ご飯で合流するでしょ?その時にアンタが憐をジャングルエリアに誘うの」
「ん?憐を、か?」
「そう!憐を!その流れで私が憐を奪うからアンタは、じゃあ沙織って感じで沙織を誘うのよ!」
「沙織がそっちに着いて行くって言う可能性もあるぞ?」
「大丈夫!私が憐を誘うのはクルーズエリアだから!」
「なるほど…」
「で、アンタは強引にでも沙織を誘えばOK!って作戦でどう?昏亞」
「分かったよ。それじゃそろそろ飯の時間だ」
作戦はバッチリな筈だ!
よし!行くぞ俺!
「なあ憐?次ジャングルエリア行かねー?」
「ジャングルエリアってジャングルジムの上から水が{ドバァー}って降ってくる所だよな?」
「そーそー!座禅組めば修行ごっこも出来るぜー?」
「うはっ!それはやりたいかも!」
そんなやり取りに割って入る華
「それは駄目ー!憐は私とクルーズエリアに行くんだから!」
「クルーズエリア?確か長いスライダーをボートで下って行くやつだよな?」
「そーそー!あれ二人乗り用だし男女ペアだとカップルコースに行けるから!ね?憐行こ!」
「じゃ、じゃあ!沙織!ジャングルエリア俺と行かね?」
「えー?私が?なんで?1人で行けば?」
ぬおっ!
ここまで順調だったのに……華を見ると首を縦に一回振る。
つまりあれだ…押せ!と言ってる。
「いやーさっき1人でアドベンチャーエリア行ったらボッチの辛さ?ってやつ味わってさぁー俺このままじゃメンタルやられそうなんだよなー」
自分でも思った…俺何言ってんだろ…。
華を見ると{はぁ…}とため息をついていた。
これはヤバイなんとかしないと――そう思った時
「沙織アンタ歴史苦手だからついでに昏亞に聞いたら?気持ち悪いぐらい歴史得意だから昏亞」
はなああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
まさか華が味方してくれるとは!言い方が凄い気になるけど!
いや、でもまあ良き。このまま畳み掛けよう!
「よっし!なら分からない所とか教えるから一緒行こう!」
「えっ?えーー?」
それでもなお、嫌な顔をする沙織に心を抉られるが、俺はそれを耐えてみせる!
「歴史に関しては俺が一番詳しいと言えるぞ!なんでも答えよう」
「ん〜?なら蜜穂も!一緒にどう?」
「えっ!?私??」
急にふられて驚く蜜穂
「蜜穂も一緒に行こー?」
げっ!しまったこの可能性は考えてなかった。
華を見るも視線を合わせてくれない…諦めろって事か??
だが、まあ…うん、諦めるか
「蜜穂も分からない所あっ―――」
たら言ってくれよと言おうとしたら
「――私は行きたい所あるから大丈夫!」
と、蜜穂が被さるように言う
「えー?どこ行くのー?」
「噴水とか見たいかなって」
そんな会話が続き昼飯の時間は終わる。
話が盛り上がってしまい早く席を立つつもりが、長居してしまい気付けばプールの清掃と点検が終わっていて子供達の楽しげな笑い声が響き渡っていた。
そして俺達は予定通りに華と憐、俺と沙織、蜜穂、と分かれるのだった。
*
ふとした事でラッキーが舞い降りた。
俺は華と2人でクルーズエリアに向かっていた。
「ところで憐?」
「ん、ん?」
ふいに名前を呼ばれ驚く。
すると華は少し先に進みその場で{クルッ}と一回転する。
「まだ感想聞いてないけど?」
感想?………あ、あぁ!水着の感想?…か?
そーか、さっきから妙に{そわそわ}してたのはそれか!?
感想って事は、じっくり見ていいんだよ…な?
と、一瞬思ったが後々めんどくさくなりそうなのでそれはやめる。
「とても似合ってるよ」
そう言うも華は訝る目で見る
「ほんとにそう思ってる?」
「思ってるって!!」
「ま、いっか。じゃ、腕組みましょ?」
へ?
今なんつった?
腕……組みましょ??
えっ?
「へ?」
唐突な事に変な声を出してしまう。
「ちょっ、ち、ちち違うわよ?変な意味じゃないよ??」
赤面しながら否定する華
「ほ、ほら!もうすぐクルーズエリアだから!私達カップルだから!…それだけよ?」
あぁ…なる…。
まあ、そんな事だろうと思ったけど舞い上がった分、落胆が凄い。
「じゃあ、ん」
俺は右腕の肘を少し曲げ"く"の字のようにする。
「へ、変な事考えないでね?」
そう言って空いた空間に腕を入れソフトな感じに俺の腕と絡ませる華
く…!
"フリ"だと分かっていても何だよこれヤバイぞ。
腕を絡ませる事によって自然と距離が近く。
華の腕は華奢で、でも細過ぎず丁度いい肉付きをしていた。
そして隣からは、ほのかにかほる良い匂い。
沙織の時と違い、あくまでソフトな感じなのでオップァイの感触は感じないが、これはこれで……
いやいや、落ち着け俺!
惑わされるな!ここで反応しちまったら色々と終わりだぞ!!
などと考えてる間にクルーズエリアに着く。
カップル専用と書かれた場所に並び一般枠と比べてそんなに混んでない事に感謝する。
「やっぱりね!カップル専用の方は混んでなかった!」
そう嬉しそうに華が言う。
「でもプールってカップル多いイメージだけど、これが普通なのか?」
「確かにカップルは多いと思うけど、ここは色んなアトラクションがあるしね。それにボート型のスライダーじゃなく普通のスライダーもあるからそっちの方が多いのかも」
あぁ、そう言えば一口でスライダーと言っても種類があったよな。
ボートに乗るタイプと普通にすべり台みたいに滑るタイプとサーフマットに乗って急降下するタイプと…他にもあったっけ?
ラクラオランドは色んな種類を用意してあるから平均的に分かれるって事なのか。
なるほど…上手く作られてるんだな。
「じゃあボート型のここを選んだのは正解だった訳だ?」
「ま、そゆこと」
流石華だな…。
なんか色々考えてある。
俺は素直に感心する。
列を見るとだいぶ前の方に来ていた。
多分あと5分ぐらいか?
「ねえ憐」
「あ、ん?どした?」
咄嗟のことで少し驚いてしまった。
なんかいきなり声かけられんの多くないか?
「憐って沙織の事どう思ってるの?」
「どう…って?」
「だ、だから…その、友達とか…それ以上とか…」
急な質問に何も言えなくなる。
沙織の事は友達としか見てない。
だから質問の答えはそれで良いんだが、なんで華がそんな事気にするんだ??
華は沙織と仲良いし俺は間違いなく沙織に好意を抱かれてる……あ、なるほど!そー言う事か!
沙織に探ってくれとでも頼まれたな?
でもそーなると、そのままストレートに言った方が良いのか?
ん〜〜?悩んだ挙句俺が選んだ答えは
「どうって、そりゃ沙織とは話しやすいし一緒居て楽だけど、まあ、なんて言うか……今は受験の事で忙しいしそれ以上はなんとも…」
と、まあ曖昧に濁すのだった。
「そう…だよね。じゃ、じゃあもう一つ質問良いかな?」
「良いよ」
質問?
質問ってなんだ…そんなに聞きたい事あったのか?
「あのね?小5の時の蜜穂の誕生日覚えてる?」
小5?小5って……覚えてるも何も俺的に少し前の出来事だぞ!?
俺が過去を変えたあの誕生日だよな??
「覚えてるよ?」
「あの時、憐と蜜穂はお互い名前呼びだったよね?」
間違いない!
やっぱり俺が改変した過去の話だ!
いざこうやって話に上がると改変したんだって実感がするなぁ
「あぁー、うん、そうだね」
「あれは、どんな経緯でそうなったの?」
ほへ?
華の聞きたい事ってそれか?それなのか??
あの時は―――
「蜜穂がそうしたいって言ったんだよ」
「そっ…か…」
華は驚く事もなく、やっぱりか、みたいな含みを持った感じで呟いた。
「次のカップルさんこちらにお願いします」
スタッフの声が聞こえ俺達の番になったのを理解する。
俺達は言われるまま2人用のボートに乗る。
「それじゃカウントしますねー。ごー!よーん!さーん!にー――――」
「私も頑張らなくちゃね」
「いーち!でわしゅっぱーつ!!」
スタッフの声でかき消されたが微かに聞こえた華の声。
俺は何を言ったんだ?と思ったが、すぐにボートが滑り出し考える暇がなかった。
*
「で、昏亞?私ね?昏亞には悪いんだけど好きな人居るから…さ?」
ジャングルエリアを前にして沙織の言葉に{どくん}と心臓が跳ねる。
「な、何の話だよ?」
そう誤魔化してみるも
「そー言うの良いから!華と作戦でも立ててたんでしょ?」
と全て見抜かれてしまっていた。
「あー、バレました?」
「バレッバレ!!2人でアイコンタクト取ってたし!多分蜜穂も気付いてたんじゃないかな〜?憐は絶対気付いてないと思うけど」
げっ、沙織に気付かれてるだけでも恥ずかしいのに蜜穂にも気付かれてんのかよ!
「昏亞が私の事好きなのは薄々感じていたしそれは本当に嬉しい事でもあるんだけど…」
「憐の事が好きなんだろ?」
「まあ、うん…そゆこと」
だろうな。
俺はこの事実に驚きもしない。
だって見てれば分かる事だし、気付いてないのなんて憐ぐらいじゃないか?
つか!アイツ、ハーレム系の主人公並みの鈍感かよ!!
「だから昏亞には悪いけど2人きりになっても何も無いよ?」
「いや、何か狙いがあるとかそんなんじゃないよ。」
「そーなの?一応気遣って先に断ったんだけど、余計な事だった?」
なるほどな。
沙織は俺が告るって思ったのか…
まあ、確かに華との作戦を踏まえた上で2人きりになるって事は、それも考えるよな。
「なあ?一つ聞いて良いか?」
「ん?何?スリーサイズは教えないよ!」
「ばっ!バカ!そんなんじゃないし!」
「じゃあ何よ?」
「沙織は憐に告るとか考えないの?」
「ない」
あまりの即答に驚く。
「いや、でもよ?好きなんだろ?だったらさ?」
「好きだけど、憐には他に好きな人居るでしょ?」
「だからって諦めるのか?」
「私が入り込む余地無いって……」
「じゃあ沙織は一生片思いのままで良いのか?」
「は、はあ?それは極端過ぎない?流石に一生は無いって…」
「じゃあ!じゃあ俺にしろよ!!それで良いじゃんか!!!」
{ハッ}と我にかえる。
熱くなりすぎて俺は言わなくて良い事を言ってしまった。
沙織を見ると{きょとん}としていた。
これはまずい!
「い、いや、今のは忘れて!」
そう言い訳してみるも沙織は何も言わない。
かんっぜんに間違えましたわーー!俺のばかやろうううぅぅぅぅぅ!!!!!
「ごめん。」
沙織の小さく呟いた声が聞こえた。
「あ、わ、わるぃ!そ、そーだよな!変な事言ってごめん」
「ち、違うの!そーじゃないの!!」
「え?」
「私は憐が好き。だから今は他の人の気持ちまで考えられる余裕がないの。いっそ…いっそ―――」
「――フラれたら楽か?」
「そう…かもね……」
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