第11話俺は……沙織だ

ラクラオランド。

そこは所謂遊園地で色んな乗り物がある。

そして夏にはプールが開園される。


市民プールのようなチャチなプールじゃないぜ?

流れるプールやスライダーや深いプールやジャングルジムみたいなののてっぺんから樽に入った水が落ちてくるアレや波が出るプールとか、とにかく色々なアトラクションがあるデッカイプールなんだ。


勿論プールだけじゃなく遊園地なので、そっちの方でも楽しめるしゲームセンターとか動物と触れ合える施設もあって

ここら辺で思いっきり遊ぶならラクラオランドしかない!ってぐらいとにかく広いんだ。


俺達は入場料を払い更衣室に向かう。



「やっと涼めるな…」

汗をダラダラと流しながら昏亞が言う。


そりゃそんな格好はクソ暑いだろ…と思いつつも

「そうだな!」

と、返事を返す。


俺と昏亞……いや、多分女性陣もだと思うが、服の下に水着を着てるから服を脱ぐだけで済む。


ゴーグルを首にかけロッカーの鍵を閉め手首に巻く。



「憐はスク水なんだな」

昏亞にそう言われる。


「うちビンボーだからな」


「でもこれ名前書いてるなー大丈夫か?」


「大丈夫だって紺色に黒のマジックだぜ?意外と分からねーよ」


「それもそうだな!」



俺は昏亞の水着をみる。

明らかに派手なトランクスタイプの水着だ。


「逆に昏亞は派手だな」


「ふ…夏の太陽に負けないために必要な色を選んだまでさ」


かっこつけながらそう言う昏亞を置いて先に行く俺



「あ、ちょ、ちょっ待てよ!」



こうして俺らは更衣室を出てシャワーを浴びる。



「かぁー!冷てえー!」

急な冷水を浴び身体中が熱を帯びていく。


毎回思うがプールに入る前のこのシャワー!ほんとに苦手だわ…。



「この辺で待つか?」


「そうだなー」


シャワーを抜けたすぐの所で女性陣を待つ事にした。

太陽はサンサンと照り続いていて俺達は「あっち!あちち!」と熱を帯びたプールサイドの通路で足踏みをしていた。


「サンダルとか履いてくるべきだったかー?」


「いや、大丈夫だ。このぐらいの熱さ我がフレイムに比べ――あっちち!」



とりあえず俺達は日陰に移動した。

日陰は、ひんやりとしてて気持ち良かった。

周りは蝉の声と子供達の笑い声とかが響き渡っていた。



…に、しても遅いな…。


もうかれこれ10分近くは待ってる。

普通に着替えたとしてもかかり過ぎだよな?何やってんだ?


と、思ってた時に



「きゃー!冷たーい!」


聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「来たみたいだな」

昏亞がそう言った。



「お待たせー!」

すぐに俺達に気付いて女性陣が集まってくる。



「待ったぞ!結構待ったぞ!」

と言ってやった。


「ごめんごめん。女は色々時間かかるの!」


「それより!ほら!どうよ!」

沙織が{クルッ}と一回転する。

沙織は黄色のバンドゥビキニを着ていた。


ビタミンカラーか…ふむ、悪くない。


そして華を見るとこちらもバンドゥビキニでタイダイ柄だ。

確かこの時代の人気カラーじゃなかったっけ?


んで蜜穂も勿論バンドゥビキニで花柄のビビットカラーだな。

これも人気の色じゃなかったっけ?


そもそもバンドゥビキニ自体流行ったよな。

これは華が選んだな?



「今流行りのバンドゥビキニで統一してそれぞれの色にあった水着選び…特に華のタイダイ柄は今年一番流行った色だ。これ選んだの華だろ?」



と言った瞬間、女性陣が(特に華が)引いた。


「そ、そうだけど…憐詳しくて気持ち悪い…」




しまったあああああああ!!!

この時代の俺はこんな事知らねー筈だ!

この知識は育穂さんの所で勉強した知識だった!

くそ!やってしまったああああああ!!!



「わ、私より詳しい感じでショック…」

と落ち込む蜜穂。


「私もだよー!タイダイ柄が流行ってるの知らなかったもん」

と沙織も落ち込む。


「憐…なんでそんなに詳しいの?それにタイダイ柄は最近流行りだしたんだよ?」

と怪しむ華。



な、なんとか言い訳しないと!



「えーと、た、たまたまファッションとか詳しい知り合いが居てな?母さんの友達なんだけど!なんかそんな話してたんだよ!」



まあ、間違ってはないよな…



「それって育穂お姉ちゃん?」

蜜穂が聞いてきた。



そっか、蜜穂は何回か会った事あるんだよな。



「あぁ!そうそう!育穂姉ちゃん」


「なら納得!」


「えっ?誰なの?」


「んーとねー色々詳しい人だよ!」


「へーぜひ会ってみたいなぁ。」



なんて会話を尻目に俺は声を上げる



「さあ!どこ行く!?俺はとりあえず深いプール行くわぁ〜」


「憐、それ俺も付いて行く」


「私達は流れるプール行こって話してたの!」


「んじゃとりあえず解散だな!」

そう言いながら備え付けの時計を見る。時刻は10時23分だ。



「12時頃にここに集合で良いか?」


「オッケー!」



こうして俺達は二手に分かれるのだった。














「ねえ!蜜穂!聞いてる?」


そう呼ぶ声に私は{ハッ}とする。


「ご、ごめん聞いてなかった…」


「もー!だーかーらー!憐達酷くない?って話!」


「えっ?」


「だって私達の水着見て可愛いね…とか似合ってるね…とか一言もないんだよ!」



私は今、華と沙織と3人で流れるプールで流れていた。

話しかけてくるのは華で、沙織は潜っていた。



「そうだね…せめてなんか言って欲しかったよねー!」


「でしょー!?昨日あんなに試着とかして真剣に選んだのに〜」



そう言う華の気持ちも分からなくない。

華は昨日の前日…つまり一昨日にファッション雑誌を買って今流行りの水着を片っ端からチェックしてたらしくて

私や沙織に合うものも真剣に選んだくれた。


そうまでして選んだのに一言も無いのは無礼だ。



「それより育穂さん?ってどんな人なの?」



育穂お姉ちゃんか…。

私も数回ぐらいしか会った事ないから詳しくは分からないけど、とても美人さんだ。



「ん〜?色々詳しい美人さんだよ!」


「美人なの!?憐とはどんな関係なんだろ?」


「えー?お姉ちゃんみたいな関係じゃないかな?」


「でも美人なんでしょー?」


「うん…」



そんな時に「プハァ!」と息継ぎの為に沙織が顔を出して

「憐って好きな人居るのかな…?」

と言った。



私達はその質問に沈黙するしかなかった。















「ところで憐よ」


通路を歩いていると隣に居る昏亞から話しかけられる



「ん?深い所はもうすぐだぞー」


「いや、そうじゃなくて…」


「なんだよ!?」


「女性陣ヤバくなかったか?」



まあ昏亞も男だ。

確かに中学生の男の子には刺激が強い光景ではあった。



「まあ、あいつら顔だけは良いからなー」


「とか言って華推しのくせにー」


「なっ!??」


「見てたら分かるぞ。ずっと華を見てた」



「そんなに見てねーよ!!!」


「そうか〜?」


「とか言うお前は!誰を見てたんだ?」


「俺か?俺は……沙織だ」




そうなのだ。

昏亞は沙織が好きなのだ。

未来の俺は分かってたけど一応この時代の俺は知らないからそれらしい反応をしないといけない。



「なっ!?そ、そうだったのか…」


「そんなに驚く事か?」


「いや、悪い!でも良いんじゃないか?」


「どうかな?沙織の好きな人はお前だろ?」


「えっ!?」


「そこ驚くのか?小学生の頃とかベタベタだったじゃないか」


「い、いやあれは!一種のコミュニュケーションだろ?」


「ふーん。まあ、そう言うことにしとくよ。今日は楽しみたいしな!」



そして目的地に着こうとした時に



「やめてください!」

と、女性の声が聞こえてきた。



「ん?どーした憐?」

立ち止まった俺を心配した昏亞が聞いてきた。


「いや、今声聞こえなかったか?」


「ん?声?声なら辺り一面に響き渡ってるだろ」


「いや、そうじゃなくて!」


俺は{キョロキョロ}と辺りを見渡した。

すると人気のない草木の所で3人の男に囲まれた女性がいた。



「ほら!あそこ!」

そう言って指を指す。


「ん?あれ…ナンパか?女の子嫌がってるよな?ナンパだよな?友達同士で喧嘩って感じじゃないよな?」



「あぁ…あれは確実に女の子嫌がってるし…ナンパだよ。どーする?」


「どーするって見つけた以上は…」


「そうだよな」


こうして俺達は覚悟を決め女の子救出作戦を実行する事にした。

作戦内容は実に分かりやすい内容だ。

俺達が{パッ}と女の子に近付いて「探したぞー」と如何にも逸れた友達みたいに演じるんだ。



「あの!離してください!」

男に腕を掴まれてる女の子が小さく言う


「良いじゃんかー!俺達と遊ぼうぜー」


「や、やめて…ください…」


男3人に囲まれ畏怖する女の子。

そりゃそうだろ怖いだろうな。

俺はすぐさまに女の子に駆け寄る



「さきー!ここに居たのかよ!」


と女の子の腕を掴む。

女の子は当然困惑した顔を見せるも俺はウインクをして合図を送る。


「さき…皆待ってるぞ行くぞ」

そこに昏亞もやってくる。



「んだよ!玉付きかよ!」

そう言って白けた感じで男3人は去っていった。


男達が去ったのを確認して

「もう大丈夫だよ」

と優しく声をかける


「あ、ありがとうございます……きゃあ!」


緊張が抜けたのか女の子は突然俺に倒れ込む。

反動で倒れそうになるがなんとか我慢する俺。


てか!!!



ボイン



んげっ!柔らかい物が俺の胸に!!




ドクンドクン



柔らかい感触を感じて心臓が鼓動を早める。

や、ヤバイ…主に下半身がヤバくなる!

まだだ…まだ我慢しろ!!!


クッ!童貞には刺激が強い!


と、言うか柔らかい物に意識が行ったが、頭めっちゃ良い香りだ。

こ、これが女の子の香りなのか!?


はっ!?ヤバイ!これ以上はヤバイ!


俺は堪らず倒れ込んだ女の子の背中を{トントン}と叩く



「ひゃっ!?すいません!で、でも力が抜けちゃって…」


「昏亞!手伝ってくれ!」



こうして昏亞の手を借りて俺は女の子を剥がす事に性交した……ちがっ!成功!!!



「これで大丈夫だろ」

昏亞がそう言った。


俺達は近くのベンチに女の子を引っ張って行った。


「ありがとうございます」

女の子はそう礼を言う



「いや、大丈夫だよ!それより一人で来たの?」


「いえ、友達と来たんですが逸れちゃって…」


「じゃあ友達と合流するまで一緒に居る?」


「えっ!?い、いえ大丈夫です!」


「でもまたさっきの連中に会ったら嫌じゃない?」


「そ、それは…」

と俯く女の子。


そんな時



「しずくー!」


と叫びながら女の子が近付いてきた。


「あっ、友達です!」

そう言って女の子は

「よもー!」

と手を振る



「どうやら大丈夫みたいだな」

昏亞が、そう言った。


「じゃ、俺達行くね。気を付けてね!」

と、昏亞と共に目的地の深いプールに向かう。












「もー!探したんだよしずく!」


「ごめんごめん」


私は友達の好田紅葉よしだもみじ…通称よもに謝る。


「ところで今の人達誰?どっちもレベル高くない!?」


「んー?色々あってね…一人の人は霞憐かすみれん?って言うのかな?」


「えっ?なになに?どゆこと?」


「いや、あの人スクール水着なのかな?名前書いてたから」


「ふーん。で、どんな関係なの〜?」


「そんな深い関係じゃないよー」












「プハァー」

深いプールに潜って息継ぎする。


「いやー気持ちいいなぁ!」

昏亞が言う。



「やっぱこのクソ暑い日はプールに限るな!」


「ところで憐」


「ん?なんだよ?」



ここのプールは水深3mあり当然足が付かない。

ゴーグルを装着し下まで潜り上がってくる…そんな遊び方ぐらいしか出来ないが、これがめっちゃ楽しいんだ!


俺達は上手く体を使い浮かびながら話をしていた。



「なんて言うか意外だった」


「ん?何が?」


「さっきの事だ。あぁ言う場面に出会っても憐はにするんだと思ってたよ。ごめん」



確かに昏亞の言う事は正しい。

俺は……この時代の俺は面倒毎には基本的に突っ込まないようにしていた。

事実、正史では女の子を助けた事なんてないし多分俺はにして昏亞と遊んだんだと思う。


でも今は23歳だ。

なんて言うかこー言うの見逃せなかった。

暴力とか怖いし見て見ぬフリするのは簡単で楽だけど、一度死んだからかな?なんか度胸が付いたって言うか……まあ、とにかく見逃せなかったんだ。



「失礼な奴だな!」

そう言って昏亞の頭を沈める


「ちょっ!ぐわ!あばばば」


そして手を離す


ザバァ



「はぁ…はぁ…おまっ!殺す気かよ!」


「人を過小評価した罰だ」

と{にしし}と笑ってやった。


「くそー!お返しだ!」


「なっ!?ちょっ!?ぐばばばば」



こうして俺の夏は始まった。

でもこの時は、知る由もなかった。

まさか自分が行なった善意が、をうむなんて―――


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