第10話未来乃ごめんね…
昏亞と共に待ち合わせの駅に着くと「おそーい!」と蜜穂と華と沙織が{ぷんぷん}になっていた。
「ごめんごめん」と謝り時間がないので{バタバタ}と電車に乗り込み3人席の向かい合わせに座る。
勿論俺の隣は昏亞だ。
「だいたい蜜穂は、もう少し女らしさを持つべきよ!白のワンピース着たいなら下にタンクトップとかペチコートとか着るとか」
蜜穂が華にガミガミ言われてた。
「だって暑いし…水着だからまあ、良いかなって」
「はぁ…そうね。水着だしね」
えっ!?水着なら良いのか!?見られても良いのか!?
中身は23歳だが、女のそー言う所は未だに理解できない。
「てか昏亞暑苦しい」
沙織が言う。
昏亞の格好は黒のコートに黒のパーカーに黒のズボンに腕には包帯をグルグルと巻いていて見るからに暑苦しい。
「何を言う!フレイムマスターとしての正装だぞ!」
「憐〜〜なんとかしてよこの厨二!」
確かに電車の中は冷房が効いているとしても昏亞のこの格好は見るだけで暑苦しい。
なんとかさせるべきだが、どーする?
てか!こいつ暑くないのかよ!
と、昏亞を見ると{ダラダラ}と滝のように汗を流しながら飲み物を飲んでいた。
こいつ…我慢してやがる。
昏亞のこの頑張りを俺には否定する事は出来ない。
ならば俺は…
「沙織俺には無理だ…」
と返事を返した。
「はぁ…やれやれ」
そんな沙織の呆れ声を聞いた。
俺は華を見た。
華はミニスカで涼しそうな格好をしていた。
沙織はショーパンで動きやすそうな格好をしていた。
これから皆でプールだと言うのにどうしても家を出る前の事を思い出す。
母さんは普段は優しいのだが、俺の考え事をすると右手の平を見る癖を目撃すると豹変する。
そのせいで俺は母さんに良い思いを抱いてなかった。
母さんが息を引き取った日も俺は病院に行かず部屋に篭っていた。
その時に育穂さんがやってきて
「ちょっと来なさい!」
と俺の腕を引っ張り車に乗せて病院のベッドに寝てる母さんの元へ連れ出したんだ。
病院に向かう車の中で
「あの人が死のうが俺には関係ない!勝手に死ねば良いんだよ!あんなヒスババア!!!」
そう言い放った俺を育穂さんは、怒ってるような悲しいようなそんな複雑な表情を浮かべて
「それでも未来乃の息子は貴方一人なのよ!」
と言ったのを覚えてる。
俺は育穂さんの表情を見て何も言えなくなりそのまま死んだ母さんの元へ連れて行かれた。
霊安室の入り口の前の椅子に二人の人物が涙を流していた。
育穂さんはその二人に軽く頭を下げ霊安室の中に入る。
霊安室に入って顔にかけてある白い布を少し捲ると育穂さんはその場で泣き崩れる。
「未来乃ごめんね…ごめんね…」
育穂さんは死んだ母さんに向かってひたすら{ごめんね}と繰り返していた。
当然俺には意味が分からなかった。
俺は涙が出るところか{ざまあみろ}と心の中で悪態をついていた。
これでもう理不尽な暴力を振るわれる事がないと安心していた。
それから数分が経ち育穂さんは霊安室の入り口に居た二人に頭を下げていた。
「私のせいで未来乃を死なせてしまい申し訳ありません」
「よしてくれ育穂ちゃん」
男の人が言う。
「ねえ?その子…憐なの?」
女の人が俺を見て言った。
「はい、未来乃の為連れ出して来ました」
そう言って育穂さんは俺の手を引っ張り
「お爺ちゃんとお婆ちゃんだよ」
と説明した。
その時初めてこの二人が自分の祖父と祖母だと知った。
今まで会った事もなく話すら聞かなかったから死んでるのかと思ってたけど、居たんだな俺にも母さん以外の家族が…
「それじゃ憐は私達の方で…」
と祖母が言った。
俺はすぐにこの二人に引き取られるんだと理解した。
まあ当然と言えば当然だ。
「その事で私のわがままを聞いてください」
それから育穂さんは俺を引き取りたいと言った。
と、言っても養子とかじゃなく同じ家で面倒を見ると言う意味だ。
何度か言葉の掛け合いがあったが最終的に
「憐に決めてもらいましょう」
と、祖母が言って俺が決める事になった。
俺は正直に
「今更祖父とか祖母とか言われても俺にとって他人みたいなものだから俺は育穂さんについて行く」
と言った。
二人は納得し俺は育穂さんの家に行く事になった。
「まさか先に二人も娘に先立たれるとはな…」
「そうね二人仲良く天国で会えてたら良いねぇ…」
「心中お察しします…」
こんな会話があったような気がする。
それから俺は荷物をまとめ育穂さんの家にお世話になる事になった。
その日育穂さんが話があると俺を呼んだ。
「ごめんね。色々あってゆっくりしたい所だろうけど大事な話があるの」
「なんですか話って」
「未来乃には絶対言わないでって言われてたけど言った方が良いと思って…」
その時に俺は想像もしてなかった話を聞いた。
何故俺には父親が居ないのか、何故今日まで祖父と祖母に会わなかったのか、何故母さんは時々俺に暴力を振るうのか……そして何故母さんが死んだのか。
俺はその全部を聞いた。
「そんなの……今更そんなの!ずるい…」
俺は話を聞いて戸惑っていた。
今まで憎しみの対象でしかなかった母さんに対して複雑な感情が湧いて出ていた。
それと同時に涙が溢れてきた。
「俺は母さんが嫌いだった。憎んでいた!死んでざまあみろって思った!…なんて馬鹿だったんだろう。俺はただ自分の事しか考えてなかった!」
「母さんはいつも俺に優しかった。俺のわがままは聞いてくれていた。父さんが居ない分愛してくれていた!!なのに俺は!そんな愛情を知らぬフリしてブたれた事実だけで憎んで……」
涙は止まることを知らずどんどん溢れてきていた。
「俺…母さんにおはようって!おやすみって!言ってない!…なにより大事な事を言えてない……そうだ。母さんに言わなきゃ」
そう思い辺りを見渡すも母さんの姿はない。
当然だ。死んだのだから居るはずがない。
「母さんごめんね…そして産んでくれて…育ててくれてありがとう」
*
「憐!!!」
俺は誰かに呼ばれ{ハッ}と我にかえる。
周りを見ると電車のドアが空いていて蜜穂達が立っていた。
「着いたよ!早く早く」
そう沙織に急かされ俺は{サッ}と電車を出るのだった。
「どーしたの?」
華が不安そうに聞いてきた。
他の3人も不安そうにこっちを見てる。
「いや、大丈夫大丈夫!ちょっと考え事してただけ!」
「ほんとに?具合悪かったりしたらちゃんと言ってよ?」
「分かってるって!それじゃ!行こうぜ!」
俺は思い出した過去を振り切るように元気よく目的地に向かうのだった。
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