第8話大きな一歩ですね

地面は、ふかふかのベッド並みに柔らかく空はどこまでも続くブルースカイ

更に奥には何かの建物があって目の前には、羽根の生えた金髪のバニーガール。


戻ってきたんだ…。



「どうやら正解の選択じんせいを選んできたみたいですね」

ゆらのんは本を見ながら言う。


ゆらのんの見てる本は俺の事が書かれてあるらしい。

どんな事が書かれているのかは見てないので分からないのだが、全部……そう、全部書いてあるんだと思う。



「その本には変わった未来の事も書かれているの?」

ふとした疑問を投げかける。



そしたら{どやぁ}と勝ち誇ったような顔をしていつの間にか掛けてた眼鏡を{クイッ}と調整するゆらのん。


「説明しましょう!」

得意げにそう言い放ち

「それでは!耳の穴かっぽじって良〜〜く聞いてください!」

{ニコ}と営業スマイルをかます。



「ふむふむ…頑張りましたね!本来ならもっと先だったのに早い段階で名前呼びに持っていきました!これにより百合乃蜜穂ゆりのみつほちゃんとの仲……そーですね親密度と言っておきましょう!その親密度がかなり上がりましたよ!」



親密度って…ギャルゲーみたいに言うなよ…と心の中で突っ込んでおく。

実際に突っ込むと何か色々めんどくさい事になって話進まなくなるからな…と、前回の事を思い出す。



「それから誕生日パーティーの時に名前呼びになった2人が付き合ったのかと勘違いし3人が色々バタバタとするのですが、そーじゃなく親愛の証として…と理解され皆も名前呼びに変わります」



まあ、そーだろうな。

昏亞辺りが「この誕生日パーティーをキッカケに俺たちの友情も深めて行こう」とか何とか言ったんだろうな、と想像する。



「に、しても良い物をプレゼントしたねキミは。本来あげた物はノートだっただろ?なのに何で5色の蛍光ペンに変えたんだい?」



ゆらのんの言う通り俺は蜜穂の誕生日プレゼントを変更し5色の蛍光ペンにした。

色は赤、青、緑、黄、ピンクだ。

この色で{ピン}と来る人も居るだろうな。

何故ならこの色は戦隊モノを表す色だからだ。


元々文房具で統一するのは決まっていた事だ。

ならばそれに何か意味を持たせたいと5色の蛍光ペンにした。



「特撮って知ってるかい?」


「ん?あぁ、知ってるよ」



「蜜穂は昏亞の影響で戦隊モノが好きなんだよ。だからその戦隊モノをイメージした5色の蛍光ペンにしたわけさ」



「ふむふむなるほど」



俺は密かに気になっている事があった。

それは、その俺のプレゼントを俺がどーしたのか、だ。



「俺は……そのプレゼントをちゃんとのか?」



と、言うのもこれは蜜穂宛のプレゼントなのだが、蜜穂だけじゃなく皆のプレゼントにもなるのだ。

戦隊ヒーローには絆がある、何があっても決して折れない絆があるんだ。

俺はそー言う意味を込めて5色を皆で分けたい、と思ってたのだ。


買い物の時点では次の日の蜜穂の誕生日パーティーまで居るんだと思ってたから俺が渡すと思ってた。

でも今実際戻ってきた今、過去の自分がその思惑に気付いたのか不安で不安でしょうがなかった。


そんな俺の不安そうな顔を見て{ニコッ}と笑い「大丈夫だよ」と、ゆらのんが言う。


って事は俺はちゃんと渡せたんだな…。



「赤色が蜜穂ちゃんで青色がキミ。緑色が昏亞くんで黄色が沙織ちゃんピンクが華ちゃんだよ」


赤が蜜穂かよ…と、思うもそれも予想済みだった。

でも俺はてっきり緑色だと思ったんだがな…


「そうか…」


「嬉しそうだね」


そう言われて自分が微笑んでいた事に気付く


「そんな事ないさ」

と言うも俺は{ふふっ}と笑っていた。



{パタン}と本を閉じ

「まあ君が変えた未来はこんな感じです」

とゆらのんが言う。


続けて

「大きな一歩ですね」

と微笑んでくれた。



あぁ、大きな一歩だ。

俺は自分の成し遂げた事に嬉しさを噛み締めていた。

これで俺があの日トラックに轢かれなくなる未来に近づいた訳だ。


「次はどの時代なんだ?」


「次は2024年の8月16日だね!」


って事は中3の夏休みか?

8月16日って事は、勉強の息抜きに遊びに行った日じゃなかったっけ?



「何か心当たりあるって顔だね!」



って言ってもただプール行って遊んだだけだけどな…。

この時何か未来を変えるほどの事があったのか?



「まあ、一応な」



でも高校生の時の《あの日》じゃない事に{ホッ}とする自分がいた。

あの日は何だかんだで一番のターニングポイントだからな……正直まだ覚悟が決まってなかったんだ。


蜜穂とは俺が受け入れさえすれば問題は無い筈だが、でもそれだけじゃない。

昏亞の事だって華の事だって……沙織の事だってちゃんとしないといけないんだ。

でもだからと言って好きでもないのに沙織と付き合うのは絶対に違う。


さて、どうやったら上手くいくんだろうな…。



「私は憐の事が好き!だから絶対に憐の味方をしたいの!」


「俺はお前の事なんて好きじゃない!!!だからもう放っといてくれよ!近付かないでくれよ!!もうウンザリなんだよ!誰が好きとかそー言うの……もうウンザリなんだよ!!!」



あの日の俺は蜜穂にそう言って背中を向けた。

クラスで浮き昏亞とも喧嘩して口を聞いてない状態だった時にそう言われ嬉しかった。

でも俺はになっていたので、そんな俺と一緒に居たら駄目だと突き放したんだ。


学校も行かず家に閉じこもった俺は自分が正しいのだと揺らぐ事はなかった。



「憐は不器用だ。私は全部分かってる……ううん、蜜穂だって分かってるんだよ。だから憐!私達から……世界から逃げないで!!!」


家に閉じこもってから数日して華から電話でそう言われた。



「誰にも俺の気持ちなんて分からないよ。もう……電話もラインもしてこないで」


好きな人にそう言って俺は静かに電話を切った。

それからも携帯が鳴る事があっても無視を貫き気付いたら携帯が鳴る事は無くなった。


その1年後に母さんが死んで育穂さんに引き取られそして更に5年後、蜜穂と再会しトラックに轢かれ死亡。

我ながら中々ヘビーな人生だったよな。



ところで今ふと思ったんだが、その1番のターニングポイントを解決すれば良いんじゃないか?

わざわざ別の過去に戻らなくてもその方が手っ取り早いんじゃ?

そう思ってゆらのんに聞いたら



「親密度が貯まってないので、それを回避してもその後、絶対喧嘩します」


と説明され納得した。

だから親密度ね…。



「それでは!そろそろ行きますか?」

両手で♡を作ってスタンバるゆらのん。



前回急だったから突っ込めなかったけど

「そのポーズ取らないと駄目なの?」

と、突っ込んでしまう。



「駄目です!主に私のやる気に繋がるので!」



つまり自分がしたいだけね…。




「ゆらのんビイィィィィィムッ!!!」




こうして俺は2度目のやり直しに向かうのだった。

でもこの時の俺は、まだハッキリと理解していなかった。

この過去に戻る行為が、どんなに繊細で不安定で残酷な事なのかを―――





























ふう…2度目の転生が終わり{ホッ}と一息つく。

…に、しても憐には頑張ってもらわないと。


何気なく憐の人生が記された本を見ると文字が消えていた。


「これ、何?」


私は驚きのあまりに声を出してしまう。

それから真っ白なページに徐々に文字が写し出される。


そこには、さっきまで【死因:トラックに轢かれた事による事故死】と書かれていた筈なのに【死因:最塚華さいづかはなによって殺される】と変わっていた。


何度も何度も目を凝らして見るもその文字は変わらず私はのだと理解した。



「憐……あんた何したのよ…」

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