第4話ゆらのんビイイィィィィィムッ!!!

とは言ったものの…


「どうやってやり直すの?」



「それはちゃんと説明します!」

待ってましたと言わんばかりにテンション上げ上げのゆらのんの声が響き渡る。


気付けばゆらのんは赤縁の眼鏡をかけていて右手には指示棒、左手には何かの本?資料?を持っていた。



{クイッ}と眼鏡を上げ{コホン}と咳払いをするゆらのん


「それじゃゆらのん先生が説明をしていきますよー!良い子の皆集まれ〜」


「…」


「良い子の皆あーつーまーれー!」



どうやらこのテンションに乗らないといけないらしい…



「わああああああい」

そう言ってゆらのんに駆け寄る



「それじゃ今日はターニングポイントについて話します♪」

片足を折り{きゃぴ♡}と可愛いポーズを取る



「え〜ターニングポイントとは!所謂分岐点の事です!人生は常に選択していく場面があります。例えばA君が居ました。A君は行きつけの大人のおもちゃ屋さんに―――」


「ちょっと待てやあああああ!」

俺は声を荒げてゆらのんを遮る



「はい?憐くんどーしました?」



「どーしました?…じゃねえよ!大人のおもちゃ屋ってなんだよ!そんな事先生が言っちゃダメだろ!!!」



「まあまあ憐くんったら何を想像してるのかしら」


「は?」


「この場合の大人のおもちゃは、ちょっと高い値段のおもちゃの事を指すんですよ?」



「なっ!!?」

足元救われたみたいで赤面する。

に、しても大人のおもちゃって言ったら普通……ねえ?



「それじゃ続けますね♪」



「A君は行きつけの大人のおもちゃ屋さんに行ってローターを買うかろうそくを買u―――」



「おいいいい!やっぱ違う大人のおもちゃじゃねーか!」

盛大に突っ込む俺



「小さい事は気にしない!」

{メッ}と叱られる



あ、これもう突っ込んだら負けな気がしてきたわ〜〜

俺はもうスルーする事にした!



「この日A君はローターを買っていきました。そして彼氏のB君に―――」



「はっ!?彼氏?えっ?彼氏?A君とB君???」

スルー出来ませんでした…



「え?何かおかしな事でも?」

{きょとん}とこちらを見るゆらのん



「いやいや男同士だろ?おかしいだろ?」


「おかしくないですよ?オトコノコはオトコノコとの恋愛が1番綺麗なんですよ?そもそも何故同性愛がイケナイモノみたいな扱いなんですか?オトコノコはオトコノコを女の子は女の子を良く知ってるでしょ?ならばお互い理解ある者同士がくっつくのは至極当然の事!」


握りこぶしを作って熱く語り出すゆらのん。


あぁ…もうダメだこいつ…手遅れだ。

まさかの腐☆女☆子☆でござったか…



「だいたい何ですか!ビッチと見せかけた処女とか可愛こぶったヒロインとか!そんな共感できないメスブタ共に私の彼氏を取られるなんて我慢できません!私はN君もS君も好きなんです!だからN君とS君がイチャイチャしてくれた方が美味しいんです!!」



「分かった分かった!落ち着け落ち着け」


そう言い俺は、ゆらのんをなだめる。

まさか天使が腐女子なんてな…この話はなるべくしない方が良さそうだ…色々めんどくさいから。



「で、何の話だっけ?」


俺はそう切り出した。

もう色々ぶっ飛び過ぎて何の話をしてたのかも忘れそうになっていた。



「あ、そうでした!」

{こほん}と咳払いをするゆらのん。


もう色々めんどくさいから突っ込むのはやめよう。

全然話が進まないからな…



「えっと彼氏のB君にローターを使いました!そこでその日はローターを使ったと言う選択になりますよね?じゃあ、ろうそくを買っていたら?」


「SMプレイが捗るでしょうね…」

呟くように俺はそう言った。


「そう!そこよ!つまりローターを買うかろうそくを買うかでその晩のプレイが変わるって事よ!これを分岐点…ターニングポイントって言うの!」

そう言ってドヤ顔を披露するゆらのん。

よっぽど綺麗に言えて嬉しかったのだろうか…そのドヤ顔はメチャクチャ綺麗なドヤ顔だった。



正直例えがアレだから良く分からなかったが、つまりは道端に落ちてる石を拾うか拾わないかって事だ。

実はその石は魔力が篭った魔石で、その魔石を拾った事によって非現実的な現実が待ってるかもしれない。

分岐点なんてそんなものさ。


でも俺達はその分岐点に日夜悩まされる。

どんな選択が来ても間違わないように慎重に考える。

考えて考えて考えて――


―――考え抜いた結果選んだ選択じんせいなら後は後悔しないように頑張るだけさ。

まあ、正直選択した後が1番大変なんだけどな…。



「つ!ま!り!キミがトラックに轢かれない様にするにはどーしたら良いのかって話になる訳よ!」



俺がトラックに轢かれない為には…蜜穂に会わないように外出を避けるべきだったか?

それとも違うコンビニに行くべきだった?

はたまた腕を掴まれ時に大人しく話を聞けば良かった??


いや、違うな。

そうじゃない…俺が死なない為には!



「蜜穂と仲直りしとくべきだった…」



そうさ。

ちゃんと蜜穂と仲直りしとけば話は丸く収まっていたんだ!

俺が蜜穂から逃げるをしたばっかりにあの事故は起きた。



ふと、ゆらのんを見た。

左手に持っていた本?資料?を読みながら{ふむふむ}と頷いていた。



「んーと、そうだねぇー!うんうん。分かってるなら早い!でもキミはの事が1番のターニングポイントみたいだね」



なっ!!!?

沙織……だと?

なんで!なんで!!



「沙織の事知ってるんだよ!!!」



「うわぁ!びっくりした!」

その言葉通りゆらのんは飛び跳ねる。


「もー!いきなり大声はやめてくれ!」


「なんで沙織の事知ってる!?」

驚く程俺は逆上していた。



逆上する俺を見てゆらのんは静かに言う

「この本にはキミの人生が全て書いてあるんだ」


俺の人生の全て……??



「例えば…キミは2009年6月5日に産まれた。幼馴染に女の子と男の子が居て女の子の名前が百合乃蜜穂ゆりのみつほ、男の子の名前が高野鳥昏亞こうのとりくれあ。そして特に仲良い友達が2人ーー」



「もういい…」

俺は呟くように言った。



「どちらも女の子で1人は美羽野沙織みうのさおりそしてもう1人が最塚華さいづかはな。キミの好きな人は最塚ha―――」



「もういいって言ってるだろ!!!」



辺りが静まり返る。

気持ちが高まり身体中が熱い…

分かってる。ゆらのんに悪気は無いのは分かってる。

でもあいつらの事に触れられるのは嫌だった。





「すまない……と、まあこのようにキミの事は全部書いてある」

ゆらのんのか細い声が聞こえてくる。


謝るのは俺の方だ…。



「いや、ごめん大声出して」



とにかくあの本には俺の全てが載ってるのは理解した。

って事は蜜穂と仲直りするには、やっぱりに戻るって事か?


「俺が戻るのは?」


「ん?あの日?……ってキミが沙織ちゃんをフった日かい?」



どくん


と、心臓が脈を打った。

あぁ、そうだな。俺の事全部分かってるんだっけ…

何も驚く事はない…落ち着け俺。



「あぁ…」

感情をセーブしつつなんとか声を絞り出す。



「いや、違うみたいだ」



へ?

俺は{きょとん}とする。



「確かにこれは1番のターニングポイントだ。でもねキミはどうも色んな選択肢を間違えて来てるらしい」



「え?」



「つまり蜜穂ちゃんと仲直りするには幾つかの場面に戻って正しい選択を選ばないといけないらしい」



それってつまり…


「何回か人生やり直さないといけないって事か?」



「まあ、そう言う事!いやー、にしてもこんなに選択を間違えてるのは珍しいなぁ。普通ターニングポイントってのは1人に2つぐらいだよ?でもキミは幾つかクリアしないとトラックに轢かれて死んでしまう…稀有な人生だね」



そう言われても違和感は無かった。

俺は全ての選択を間違えたと理解しているからだ。

意図的に間違えたんだ。

分かってるさ…全部、全部全部逃げてきた結果さ!

結局逃げたって最後には向き合わないといけないって事だな…。



「じゃあ早速戻るべき時に戻ろう」


俺はもう覚悟が出来ていた。

あーだこーだ考えるのは無駄だ。

結局自分のケツは自分で拭くしかないんだ。



「ふむ…最初は2020年、キミが11歳の時だ。時期は9月下旬…何か心当たりはあるかい?」



9月下旬か…心当たりしかないな。



「蜜穂の誕生日が9月25日だ」



「なるほど!じゃあ早速…行くかい?」



「あぁ…頼む!」



するとゆらのんは手に持っていたものを地面に起き両手の親指と人差し指でハートを作った。

何をするんだ?と思った刹那



「ゆらのんビイイィィィィィムッ!!!」



そう叫んだ瞬間、先程作ったハートから♡型のビームみたいなのが飛び出してきて



「え?ええ?」


俺はその♡に包み込まれた。

そして視界がグルングルンと回りだし暗闇の世界に落ちるのだった。



















「ふぅ…」

目の前から憐が消えて一息つく。


これで良かったんだよね?

私…間違ってないよね?


そんな事を思っていたら目の前の時空が歪み半径1メートルぐらいの穴が出現した。

その穴から1人の男の子が出てくる。


見た感じ小学生低学年ぐらいの身長で子供なのだが、この人は神様だ。



「神ちゃま今行かせた所です」

そう報告する。


「神ちゃま言うな!……そうか、これで良かったんだな?」


「はい…これが私の選択です!」


「そうか…なら良い!人生のやり直しの権限の引き渡しを確認した。オイラは帰るよ」

そう言って先程の穴に戻って行く神様。

神様が戻ると時空は元に戻った。


「みらの……絶対に憐は生き返らすからね…」

私はそう呟くのだった。





















「ん、う〜ん…」



目をゆっくり開くと光が視界を遮る。

それも一瞬の事で外からは{チュンチュン}と雀の声が聞こえていた。

枕元に手をやる、何回か手をあっちこっちに動かして気付く

……そうだ携帯無いんだ。



それからすぐに天井を見る



「懐かしいな…」


そう呟き俺は布団から起き上がる。

軽く周りを見渡す。

この布団も勉強机も椅子も本棚も…何もかもが懐かしかった。


「本当に戻ったんだな…」


壁に掛けてある時計を見ると7時20分になろうとしていた。

ちと早起きしたかなって時間だ。


確かうちの学校は8時10分から朝の会が始まる。って事は8時までには席に座ってなきゃいけない。

家から学校まで10分程度だ。

だから7時50分までに家を出れば良い。



ガチャ



部屋の扉を開ける。

俺の部屋は2階だからそのまま{トントン}と階段を降りる。



俺に父親は居ない。

母子家庭ってやつさ。

の、割には2階建ての一軒家なんて贅沢だなって思うだろ?

ぶっちゃけ2人で暮らすには広すぎるんだよねこの家。


でもこの家は育穂さんが母さんのために用意してくれた家なんだ。

あ、勿論そんな事この時代の俺は知らなかったんだけどね。


そうこうしてる内に階段を降り終わった。

このまま左に行くと玄関とかトイレとかあり右に行くとリビングに行く。


リビングの扉の前まで来た。

そうだよな……この先には母さんがいる。


俺が18の時に亡くなった母さんがいるんだ。

母さんの事は正直苦手だった…だから母さんが死んだ時も俺は泣かなかった。

なんて親不孝な奴なんだろうな。


どんな顔をしたら良いかな?

普通に{おはよー}で良いよな?

それとも無言でダイニングテーブルに向かう?


そうだな!無言だ!いつもそうしてた記憶がある!

変におはよーなんて言ったら怪しまれるもんな!

この扉を開けてダイニングテーブルまで直行だ!



ガチャ



トントントン

うちはダイニングキッチンだ。

だから扉を開けてすぐにキッチンで何かを切ってる母さんと会う



「今日は早いのね」


確か俺を15で産んだんだっけ?なら今は26歳か…若いな。

久しぶりに見る母は、ポニーテールが似合う若々しい人だった。


俺はそのまま無言でダイニングテーブルに向かう。

だってそうだろ…無言で良いんだよな?



俺が18の時に母さんは死んだ。

死因は過労だ。俺を育てるために母さんは寝る間を惜しんで仕事をした。

その結果が過労死!



馬鹿だよな。

生きるために働いて死ぬなんて…本末転倒だろ。


ほんと馬鹿だよ。

女手一つで頑張ってさ?

恩着せがましいって言うかさ…なんでそこまで無理してんだよ!


18だったんだぞ!

高校卒業してんだから俺は働けたんだぞ!

……分かってる…の俺は自分の事で精一杯で、母の異変に気づけなかったんだ。



くそ!

こんな俺なんかの為に身を削って働いて…



「おはよう」

俺の放った声はどうしようもなく情けなく震えていた。

その異変にすぐ気づき母さんは俺に駆け寄る



「憐どうしたの?ほらもう泣かないで」

そう言って俺の頬から涙を拭う。


「母さん…


俺は{ガバッ}と目の前の母さんに抱きつく


おはよう!母さんおはよう!!!」



母さんごめん。

俺はすぐに手をあげる母さんが嫌いだった…憎んでいた。

でもそれには理由があった。

今の俺は知らないけど23歳の俺なら知ってる事がある。

だから俺はもう涙を抑えられなかったんだ。


あの日…母さんが死んだ日俺は泣かなかった。

それは母さんが苦手だったからだ。

でもその後、育穂さんから色々聞いて母さんの事情を知った。


俺は愚かだった。

もう一度母さんに会えたら言いたい事があったんだ。

その一つが{おはよう}だ。



「母さんおはよう!おはよう!おはよう!!!」


俺は涙を流しながらそう言い続けた。



母さんは戸惑いながらも俺を優しく抱いてくれた。

母さんの温もりを知らなかった…こんなにあったかくて優しかったんだな。

こうして俺の人生のやり直しの幕が開けた。


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