第3話童貞のまま死んでたまるか!!
俺の名前は
ある日トラックに轢かれそうになった幼なじみの女の子を救って代わりに轢かれた男だ。
そして目が醒めると綺麗な青空が広がる謎の空間にいた。
地面は白くて柔らかくまるで雲の上に居るような……って!雲の上!!!?
ゴホン…。
目の前のパツキンのレオタード網タイツうさ耳…んで背中から羽が生えた美女が言うには、ここは天国らしい。
そう言えばかなり遠くの方になんか建物が見えるなぁ…あ、いっかその話は。
えーと、それから目の前の美女は
「私は天使のゆらのんです♡」
{キャピ}と可愛いポーズをとる。
見た感じ俺より少し上か同じくらいの歳だと思うけど…
「その格好恥ずかしくないんすか?」
「これは天使の正装なの!」
「俺にはただのバニーガールにしか見えないけど…」
「でもでも可愛いでしょ?」
「いや、まあ、、はい…」
童貞の俺には刺激が強すぎます!
俺の人生…あ、死んでるけど、人生においてこんな美人のバニーガールを見れる日が来ようとは!!!
バニーガールなんてアニメの中だけと思ってた!本当に実在したんだ…天使だけど。
……と、まあ現実逃避はここまでで良いだろう。
「俺は死んだんだな?」
「はい」
「蜜穂は……どうなった?」
「あなたが助けた女の子は無事ですよ。」
「そっか……」
なら良かったのかな。
俺みたいな奴でも誰かの人生を守れたんだ…ならそれで良いさ。
に、しても蜜穂かぁ…。
もう2度と関わらないと思ってたのにまさか最後の最後が蜜穂とはなぁ…。
「死んだのに何か嬉しそうですね」
言われて気付いた。
俺は今笑ってたみたいだ。
「そんな訳ないさ!死んだんだぞ!しかも幼なじみのくそブスを庇って死んだ!あぁーやだやだ、ほんとクソみたいな人生だったわ」
とことん俺は素直じゃないらしい。
「人生やり直したいですか?」
「えっ?そりゃああんなクソみたいな人生だったし?やり直せるならやり直したいよ!でもまあ人生やり直すなんてそんな都合のいい話――」
「やり直せますよ」
俺の言葉を遮りはっきりと天使はそう言った。
「は?やり直せる…?」
「あなたは今回トラックに轢かれて死にました。これは理不尽な死です。我々天使は理不尽な死を迎えた人に人生をやり直すチャンスを与えることが出来ます」
人生やり直せるって事はつまり…あの日をまたやり直せるって事なのか?
そして違う選択肢を選んだら俺の人生変わるのか?
友達も親も彼女も居ない童貞の人生じゃなく――
―――友達も彼女も居るバラ色のリア充になれるのか?
だったら俺は…迷う事なんてない!
俺はもう一度人生を………
「やり直さない」
あぁ、そうさ!やり直すかバカヤロウ!
あれは俺が選んだ
後悔なんかしてないし何よりあの日の俺を否定なんかしない!
そうさ!絶対に否定なんかしないぞ!
じゃなきゃ俺の人生って本当に何だったんだよ!
俺だけでもあの日の選択を否定するような事はしちゃいけない。
「えっ?やり直さないんですか?」
{あわあわ}と困惑を隠せないでいる天使。
「結局さ?ここまでだったんだよ俺の人生なんて…それに最後は蜜穂を救ったんだ!なら無意味では無かったさ!」
そうさ俺はもう満足してる。
やり直さなくても良いぐらいに満足しちゃってるんだ。
「ら、来世がインコだとしてもこのまま輪廻転生しますか?」
インコ?
えっ?俺の来世インコなの??
人間じゃないのかよ!!
でもそれでも…
「あぁ…良いよ」
こうして俺の人生は幕を閉じるのだった。
「いけません!!!」
!!!?!?!!!
「そんな簡単に人生を諦めるなんていけません!」
天使ゆらのんの怒号が響き渡る。
あまりの迫力に俺は言葉を失い動く事も出来なくその場で固まるしか出来なかった。
「何でそんな簡単に諦めれるんですか!」
「あ…」
なんとか絞り出した間抜けな声。
でもお陰で言葉が出せそうだ。
「別に良いだろ!俺の人生なんだし!俺がどうしようが、ゆらのんには関係ないだろ!」
そう言うとゆらのんは怒りを露わにして
「関係あるわよ!!!私はあんたの事!み……」
{ハッ}と我に帰るゆらのん。
「きゃぴ♡」
そう言ってゆらのんは可愛いポーズを取る。
まるで{きゃぴきゃぴ}してるフワフワ系アイドルが一瞬素に戻って怒ったみたいな……いや、みたいじゃないな。
間違いなく何かある反応じゃねーか…
「関係あるのか?」
「なんの事だぴ?」
と、また可愛いポーズを取るゆらのん。
どうやら【忘れろ】と言ってるみたいだ。
少なくとも俺にはそんな声が聞こえた。
「ねえ?」
ゆらのんが話しかけてきた。
「ん?」
「いやー、何て言うかキミって理解力?順応力?高いね」
「え?」
「やー、私この仕事結構長いけど、そんなすぐに自分が死んだ事を受け入れた人は居なかったなって…」
何その私このバイト長いけど〜〜みたいな言い方!
天使って職業なの!?給料出るの!?お金使う場所あるの!?
と、心の中で突っ込む
「強がってるだけだよ」
「ほえ?」
「流石に死んだ事は怖いって言うか未だに信じれないって言うか…でもここ地上って訳じゃないし目の前には天使だって居るし…信じない訳にはいかないって言うか…。そうやって現実を見て恐怖を和らげてるって言うかさ…まあ、色々あるよ!」
「そう…だよね…なんかごめんね」
「いや、謝らないで!大丈夫だから。それよりも聞きたい事はそれだったの?」
{ぽん}と手を叩いて思い出したような顔をするゆらのん。
「キミが死んだ後どうなったか見たくない?」
「俺が死んだ後…?」
死んだ後の世界に興味はないさ。
でも…そうだな…見れるんなら見たい。
俺のそう語る目を見てゆらのんが頷く。
そしてどこからともなく占い師が使うような水晶玉を出してきた。
「キミが死んで一週間後の世界よ。キミが見たいと思った人を映すわ」
その説明を聞き俺は水晶玉を覗く。
水晶玉には育穂さんが映し出される。
水晶玉に映る育穂さんは写真を見ながら泣いていた。
あの写真は……初めて育穂さんの家に来た時に撮った写真だ。
「これから私達は家族よ!遠慮せず迷惑をかけていくの!」
何もかも失って半ば抜け殻のようになっていた俺にかけてくれた言葉だ。
育穂さんはそれから俺の事を息子のように育ててくれた。
時には喧嘩した事もあった。
でも最後には仲直りして一緒にご飯を食べて…
そんな暖かい家庭で涙が零れ
「今日のご飯しょっぱいですね」
なんて言った事もあった。
俺が昔の事で色々悩んだり立ち止まったりした時も
「大丈夫…一緒に前に進んで行こ」
って言ってくれた事もあった。
俺が仕事に慣れなかった時も
「焦らなくて良いわよ!ゆっくりで良いんだから♪」
そう言って元気付けてくれた事もあった。
育穂さんには色々なものを教えてもらった。
育穂さんが居たから俺は生きてこれたんだと思う。
なぁ……俺の人生ってクソだったのかな?
友達も親も恋人も居ない人生だったけど、クソだったのかな?
んな訳ねーだろ!!!
俺は育穂さんのお陰で家族の温かみを知った!
育穂さんのお陰で家族の大切さを知った!
俺は幸せ者だ。
{ポタポタ}と目から涙が溢れていた。
俺は育穂さんの涙だけは見たくないと思ったのに……泣かせちゃった。
「大切な人だったんですね?」
ゆらのんの優しい声が聞こえてくる。
「はい…大切な
涙を流しながら俺は声を震わせて言う。
「本当の母親じゃないけど、こんな俺を引き取ってくれて…感謝してます」
「そう……ですか…」
ふと水晶玉を見た。
すると今度は蜜穂が映し出された。
蜜穂は棺に腕を置いてその腕の中に顔を埋めて泣いていた。
「なんで…蜜穂は泣いてるんでしょうか?」
俺は呟くように天使ゆらのんに問いかける。
「なんでって…キミの事が大切だからでしょ?」
大切?俺が??
そんな訳……
「そんな訳ない…だって俺は!蜜穂に酷い事をした!あの日俺は手を差し伸べてくれた蜜穂を突き放した!トラックに轢かれた日だって俺はアイツに酷い事を言った!」
自分でもデカイ声で言ってるのを理解した。
でも止まらなかった……止められなかった。
「俺はアイツに泣いてもらう資格はない!俺は!アイツに…ざまあみろって笑われた方がマシだ!じゃないとアイツを傷付けた俺が許せない!!!」
言葉が……思いが溢れて止まらなかった。
「うわああああああああああん」
声を荒げて俺は泣いた。
涙が枯れるぐらい泣いた。
そして泣き疲れて……ふと我にかえると俺はゆらのんに抱きしめられていた。
柔らかく弾力のあるマシュマロが俺の顔を包み込む。
これがオッパイの――温かさ――優しさ――懐かしさ――愛おしさ――か。
正直このまま揉みしだきたいと思ったが、すぐにゆらのんから離れる。
手で涙を拭いた。
「落ち着きました?」
そう聞かれ恥ずかしさのあまり赤面する。
まさか二十歳超えてこんなに大泣きする事があるとは…
「ゆらのん決めたよ」
「え?」
「俺……人生やり直してみる」
あぁ、そうさ!
このまま理不尽なまま死んでたまるか!
俺はこの死を回避する為にもう一度人生をやり直すぞ!
「それは良かったです!」
まるで自分の事のように喜ぶゆらのんを見て俺は自虐ネタを言ってみた。
「それに――
あぁ、そうさ…
―――童貞のまま死んでたまるか!!」
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