第13話 てんこうせいず

 俺、武藤・藍人は、巻き込まれないように言い争う里香と花梨を視界の端で捉えながら、幸次に契約を迫る工藤先輩を取り押さえていた


「ちょっと落ち着いてください先輩!」


「なあ頼むよ~! 僕もう三年生なんだ! 早く後継者を残さないとこの学園で魔法少女が途絶えてしまう!後継者を残さなといけないんだ!!」


 幸次はと言うと距離を取って、何時でも反撃できるように身構えながら2杯目の缶コーヒーを飲んでいた。そして先輩の言葉にポツリと呟く


「いや超能力あるからいらないし、魔法で変身するなんて面倒すぎるでしょ。それに女の魔法使いなんてこの学園にゴロゴロ居るし、後継者とか言われてもなぁ・・・」


「そ!れ!で!もお~!!」


 先輩は俺の拘束されてるにもかかわらず、なんとかステッキを取り出して変身してしまった


「マジカルハート!メイクアップ!」


「うわ!」


 俺は先輩の魔力で弾かれて尻もちをつき、目の前で全裸になり男から少女になる身体を見せられてしまった。そして先輩は決めポーズをしながらこう言い放つ


「変身はやっぱりかっこいいよね☆ 変身には燃るだろ、男の子なら!」


「魔法少女じゃなければね。嫌なもん見ちまった・・・・ん?」


 ふと横に目をやると冷めた目でこの惨状を見つめる士道の姿があった


「士道さん何か用?」


「・・・・・」


 名前を呼んでも反応しない士道


”よほどショックだったのだろうか。もう一回呼んでみよう”


「士道さん?」


 二回目で士道はやっと反応を示した


「え、ああ、すみません! 苗字で呼ばれることに慣れていなくて」


「いつも名前で呼ばれてたの?」


「はい、前の学校では家名で呼ぶのはタブーとされていましたから」


 変わった学校に通っていたんだなぁと思っていると、士道は姿勢を正して自己紹介を始めた


「詳しい自己紹介がまだでしたね。改めて私は士道・京香、この学園の前は聖・鬼松女学園に通っていました。よろしくお願いいたしますわね」


「女子校からウチに転入!? また珍しい・・・」


 先輩が俺と士道の間に突然割り込んで叫んだ


「乙女の園からの転校生だって!いいじゃないか!! 僕と契約してお嬢様魔法少女になってよ☆」


「お断りします。オカマの仲間に見られたくありませんもの」


「ひどい! そんな事言わないで僕と姉妹の契りを結んでよ!」


「いいえ、姉妹の契りについては間に合ってますから」


「チャキ、シャキ、ジャキン」


 先輩の誘いを士道はキッパリと断わりながら、笑顔でキラキラと輝くバタフライナイフいじりながらけん制している


「バタフライナイフ扱える生徒が居るなんてどんな女子高だよ。なあ幸次・・・・、幸次?」


 幸次は腕を組んで何かを思い出そうとしていて、俺が話しかけた事にきずいてない様だった。そしてハッとして言った


「せいきしょうじょがくえん? 聖・鬼松女学園・・・、せい…あ!聞いた事あるな!」


「知ってるのか幸次」


「ああ、聖・鬼松女学園って正確な場所を秘密にしている超お嬢様学校だろ」


 士道はナイフをいじる手を止め、幸次に嬉しそうに話しかけた


「あら、ご存知の方が居るのですね。見たところ庶民に見えますのに、どこかのお家に仕えていたとか?」


「いいや、中学の時に仕事でね。商店街の近くのケーキ屋に世紀末の卒業生が居るから行ってみたらどうだ」


「まあ!?そんな方がいらっしゃいますの! ひと息ついたらさっそく行ってみますわ」


「後で地図渡すよ。でも店長が気まぐれでゲームの発売日とかによく休むから注意な」


「分かりましたわ。これから同じクラスの学友としてよろしくお願いいたしますわね。貴女のお名前は?」


「中村・幸次だ。この学園じゃ何かと苦労するだろうがよろしくな、京香さん。名前で呼んだ方が良いだろ?」


「はい。わたくしも名前で呼んでよろしいでしょうか?」


「もちろん。ほどよく仲よくしようぜ」


 仲良く話している二人だが何か違和感があった。会話の中に変な単語が混じっていた様な?


「おい幸次、世紀末って言わなかったか?」


「通称だよ、世紀末女学園。英才教育をする為に人里離れた場所に作った全寮制の学園だったんだが、それが災いしてな」


「どういうことだ?」


 俺の疑問に士道が涙を流しながら答えた


「災害で孤立してしまいましたの! それからは生きるのに必死で木の根を食らい泥水を啜り・・・、ううっ、ごめんねフランソワ、食べちゃって」


 暗い過去を思い出し泣き崩れてしまった士道の代わりに幸次が説明してくれた


「まあ、外界から完全に遮断され生徒が野生化しちまって、名前の通りの世紀末になったわけだ」


「なるほど」


 ”つまり、ゾンビ災害の生き残りと同類か・・・。いや、知性のある人間を相手にしていた分やっかいか?”


 などと考えていると背後からピンクに抱きしめられてしまった


「あ~いと♡ なに、他の女と話してるの! 女泣かせめ!」


「うわ!離れろ!」


 里香が花梨を止めようとさらにのしかかって来た


「おい!里香まで! おいやめろよ!」


「キン♪コン♪カン♪コン♪」


 チャイムが鳴って、幸次が叫んで走って言ってしまた


「まずい! おい、授業に遅れるぞ!」


 俺も追いかけようとしたが


「おい待て!おいていくな!」


「途中まで一緒に行きましょう。ダーリン♡」


「アイちゃんから離れてよ!明海さん!」


 花梨と里香の力で今にも押しつぶされそうになり、思う様に動けなかった。そして士道が先ほどの泣き顔が嘘の様な涼しい顔で行ってしまった


「ではお先に。ごきげんよう」

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