第8話

第八話



「緊急部長会議を始める」


歴史研究部部長・高峰フジオはそう言ってホワイトボードの前に立った。


「先日掲示板にて公開された生徒会のお知らせは、皆すでに目を通したかと思う。

気づいての通り、我々は実に、いや実に!困難な状況に置かれているのだよ、ねぇ窪内くん!」

「へ?

あっそうだねっ!」


突如話を向けられた自転車競技部の窪内ススムは一拍遅れで快活な返事をし、少し目を泳がせてから申し訳なさそうに首をかしげた。


「ごめん……何の話だっけ?」

「な……ま、全く、君と言う奴は……」


ため息を吐く高峰に窪内が「えへへ……」と頭を掻く向かいで、丸太のように太い腕がズイッと挙げられる。

トレイルランニング部の郷ヨシアキが手を挙げたまま気難しそうな顔で高峰を見ている。


「……なんですか、郷くん」


少し気おされながら高峰が話を振ると、郷は表情を変えずに口を開く。


「お知らせってなんだ?」

「………………はぁ?!」


余りにも予想外の質問に、高峰はしばらく硬直してから声を荒げた。


「そ、そんなことも知らず?!君は?!なぜ?!ここに来たのかね?!」

「……マジうるさ……」


高峰の甲高い声が耳に障るのか、文学部の松木アヤメが耳を塞ぎながら冷たい目を送る。


「何を言うかね松木くん!

これが責めずにいられようか?!」

「……高峰くんのせいで郷くん泣いてるけど?」


松木が顎で示す先では、ソファーに座った郷が気難しい表情のまま一筋の涙を流している。

体は強靭だが心はナイーブらしい。

高峰は気まずくなったのか口を閉じ、ずれ落ちたメガネを中指で持ち上げて咳払いをする。


「では、そんな君たちにもわかるよう少し前から話そう……。

我々はそれぞれ、生徒会から廃部勧告を受けている」


高峰が示した「廃部勧告通知」の書類をみて、三人もそれはわかっていると頷く。

それを確認すると高峰は続いて端末を取り出し、学園掲示板を表示して郷に差し出した。


「そして先日、生徒会より我々に特別課題が示された……

彼らいわく、見たこともない、聞いたこともない、心落村なんて場所の村おこしを考えろとのことだ……!」

「これが『お知らせ』か」

「そゆこと。

『心落村ってどこ?』って感じだよね、正直」

「全くもって正論だよ窪内くん!

なぜ僕ら高校生が、しかも廃部寸前の底辺部活が、見も知らない村の村おこしなんてしなけりゃいけない?!

もはや僕には生徒会が何を考えているのか見当もつかないよ……」


端末を覗き込む窪内と郷がその言葉に無言で頷く。

そんな三人にちらりと目をやってから、松木は吐き出すように言う。


「まぁ……今に始まったことじゃないし」


部活所属の義務化、廃部基準の見直し、活動報告会の設置など、前代未聞の制度がこの半年余りで次々と制定された。


「学園への貢献とか……?

村おこしとか……?

ほんと、なんですかって感じ……。

少ないけど趣味あう仲間がいて、のんびり活動して、それが貢献度低いから廃部……?

学校のために部活やってるんじゃないんですけど……」


胸の奥に溜まっていたものを吐き出すだけ吐き出し、松木は黙り込む。

シン、と静まり返ってしまった部屋に運動部の掛け声が窓から入り込んで空しく響く。


その一部始終を窓際で聞いていたタツノリは遂に耐えられなくなって読んでいた本を閉じた。


「――で、活動報告会で生徒会をぎゃふんと言わせるために僕の知恵が借りたいって?」

「あぁ!

やっとわかってくれたかい、栄くん?!」


さっきまでのお通夜ムードは何だったんだと言いたくなるほど明るい高峰の向こうでは、松木と窪内が小さくガッツポーズを作り、郷が静かにうれし涙を流している。

やられたなぁ、と思いながらもタツノリはもう諦めていた。

ここ放送室への侵入を許した時点で、彼の負けは決まっていたのだ。


「でもさ、なんで僕なの?リュウの方が有名でしょ」

「う~ん……有名で言ったらそうかもだけどさ」


窪内が「ここだけの話」と声を落としながら丸椅子から身を乗り出す。


「金城土ってボクたちと同類っていうの?

要するにバカじゃん?」

「……待ちたまえ、そこにはこの僕も含まれているのかい?」

「だからどうせ色々考えてるのは栄だろって、もっぱらの噂。

お前ら仲いいし」

「無視かい?!」

「……高峰ちょっと黙って」


松木の言葉を聞かずに騒ぎ始める高峰を横目で見ながら、タツノリはどう答えたものかと腕を組む。

確かにリュウにその手の本を貸したのはタツノリだが、あれは知識として持っていても仕方がないものだ。

正しく使えるだけの実力がなければ、彼が貸した本も紙切れ同然である。


(……って言ってもたぶんわからないだろうしなぁ)

「なあ栄くん、僕は馬鹿じゃあないよな?」

「だからっボクと一緒に赤点補修受けてる人が何言ってんの」


さっきの言い合いはなおも続いていたらしい。

やれやれ、とタツノリは手を叩いて四人の注意を引いた。


「みんな、新聞部の記事は読んだ?」


前触れなく出て来た「新聞部」の言葉に四人は顔を見合わせる。

読んでないみたいだね、とタツノリはリュウが荷物置きにしている棚から目当ての記事を引っ張り出す。

『サルでもできる!状況整理が勝負の分かれ目』

そう見出しのついた記事を覗き込み、四人の目が紙面を走る。


「長所と短所、チャンスとピンチ」

「すごいな、俺でもわかるぞ」

「まあ、サルでもわかるらしいし……って郷?!」

「郷くんを泣かせるとは何事かね、窪内くん?!」

「いや、それ最初に泣かせた人が言うこと?!」


ワイワイと盛り上がる三人を置いて、早速読み終わったのか松木がペンを手に取りホワイトボードに向かう。


「やや、松木さん、読むのが早いね」

「一応文学部部長だし……」


けだるげに答えながら、松木はホワイトボードに十字線を引く。


「じゃ……最初は文学部の作らせてくれる?」


***************************


その頃、リュウとマリエは体育倉庫の裏を歩いていた。


「お嬢、ホントにこんなとこに演劇部の部室があるのかよ?」

「心配なさらずとも間違っていませんでしてよ。

私も何度かお邪魔させていただいていますし」

「お邪魔って……お前こんなとこに用事なんてないだろ?」

「そ、それは……ほら!

知り合いに会いにですわ!

それとも何かおかしくって?!」

「べ、別におかしかねぇけどよ……」


本当はその知り合いのツテでタイガのストーキングに必要な『色々』を置かせてもらっているのだが、それがリュウにばれたら最後、翌日にはタイガの耳に入っているに違いないとマリエは必死でごまかす。

そのまま早足になって体育館の角を曲っていったマリエを追って、リュウも少し小走りで角を曲がる。


少し開けた中庭には、どう見ても手作りの小屋が建っていた。


「さ、入りましょう」

「マジ?!部室って手作りするもんだっけ?!」

「こう見えても頑丈ですから、ご安心くださいませ」

「いや、そう言う問題じゃ……まあ、大事だけど……。

お前の知り合い、本当の本当に頼りになるんだよな?」


マリエの知り合いのご令嬢が演劇部にいる、と言うのは聞いているが、手作りの小屋を部室にするような変人だとは聞いていない。


「何を言いますの。ツグハ先輩は私の恩人ですわ。

小さい頃から一緒に遊んでいただきましたし、高校の内部進学を断るときだって、お父様の説得に協力してくださいましたのよ」


そう言ってマリエが引き戸に手を掛ける。

だが彼女が手を引くより先に、扉がひとりでにスルリと開いた。

扉の向こうからは「あら」と女子生徒が顔を出す。


「今迎えに行こうと思ったんだけど、必要なかったみたいね」


ふふ、と笑って、彼女は右手に持った扇子を開いて口元に添えた。

夏だというのに肩に掛けたストールの黒さが、彼女の白い肌を一層際立たせる。


「後ろは金城土くんかしら?

演劇部へようこそ」


優美に微笑んで、その彼女は「入っていらっしゃい」と手招きをする。


「演劇部衣装リーダー、高校三年生の鷲条ツグハと申します。

マリエちゃんからお話は聞いているわ。

ご機嫌よう」


あまり手入れの行き届いていな中庭の真ん中、手作り小屋の入り口で、どう見ても育ちのいいお嬢様がスカートの裾をつまんで小首をかしげる。

そのミスマッチ感に、リュウも唖然としたまま宙をつまんで「ごきげんよう」と返してしまうのだった。

小屋の中は外見の印象よりもこざっぱりとして、清潔に保たれているようだった。

入って数歩のところから柔らかそうなカーペットが敷かれており、その手前で靴を脱ぐツグハとマリエにならってリュウもスニーカーを脱ぐ。

ツグハは足早に部屋の奥へ向かうと、壁際にそびえるザブトンの山から手近な三枚を取ってカーペットの上に置き、二人に手招きをした。


「地べたでごめんなさいね。

今ちょうどみんないないから、楽にしてちょうだい」


勝手のわかっているマリエが奥へ向かう後ろで、リュウは口を空けて部室を見回していた。

カーペットの手前までは劇で使うのであろう様々な器具が手作りの棚に収納されており、カーペットより奥にはテレビやテーブル、冷蔵庫などの舞台セットが並べられている。

部室と言うよりは倉庫兼リビング、と言った様子だ。

どこから引いているのか電気までちゃんとついている。


「すっげぇ……ここに住めるんじゃね……?」

「ちょっと?

ぼーっとしてないで早くこちらに来てくださいまし!」


マリエに呼ばれて慌ててザブトンに腰を降ろすと、まるでツグハの家に呼ばれた二人がリビングでくつろいでいるかのような構図になる。

ツグハの雰囲気から察するに彼女の家はもっと豪勢なのだろうが。


「珍しいわね、マリエちゃんがお友達連れてくるなんて」

「友人ではありませんわ」

「失礼、先輩だったわね。

いつもマリエちゃんがお世話になってます。

お返しってわけじゃないけど、私ができる限りの範囲で協力するわ」

「ありがとうございます!」


よっしゃ、とガッツポーズを作るリュウを横目で見ながら、マリエは腑に落ちないと言った様子だ。


(お世話された覚えなんてこれっぽっちもありませんけど……)

「で、どういうお願いかしら?」

「えっと……まず、活動報告の特別課題の事は聞いてますか?」

「えぇ。

心落村の村おこしをしろっていう無茶振りでしょ?」

「それっす。

それで、演劇部に協力してほしくて」

「協力……?」


ツグハの眉が寄る。

何もできることが思いつかない、と言った様子だ。

リュウはやっぱそうだよなぁ……と少し自信なさげに切り出す。


「心落村の村おこしに、演劇部が参加してほしいんっすよ。

そのための作戦をオレたち戦略部が立てて、それを活動報告会のネタで使おうと思って」

「……なるほど、ね。

つまり、戦略部は戦略を考えるから、それに合わせて動いてくれる部活が欲しいってこと?」

「そう言うことっす。

オレたちは作戦を考えることはできても、実際にその作戦をするためのスキルはもってないから」


今までの部活の再建でもそうだった。

廃部寸前の各部に対するアドバイザーとしてリュウが活躍しただけで、実際に活動を行っていくのはリュウではなく各部の部員たち自身なのだ。


「とりあえずスキルいっぱい持ってそうな部活を、って思って、そしたらお嬢が演劇部の先輩と知り合いだっていうんで」

「そうね。

今は部長が不在だから部としての協力は難しいけど、見込みのある人を紹介することは可能だわ」


穏やかな笑顔で頷くツグハに、リュウとマリエの表情が明るくなる。

だがツグハはそこで少し表情を曇らせると、広げていた扇子をぱちんと閉じてリュウをまっすぐ見据えた。


「でも……その報告は本当に『戦略部の活動報告』として認められるの?」


演劇部がスキルを提供するのであれば、それは演劇部の活動報告として受け取られるのではないか。

彼女が懸念しているのはそう言うことだろう。

そしてそれはリュウとマリエが懸念していることでもある。


「やっぱりそうなるよなぁ……」

「そうなりますわよねぇ……」


どうしよう……と頭を抱えるリュウにマリエは「ふん!」とそっぽを向く。


「だから言ったではありませんの!

私の財力が一番の解決策ですわ!」

「いいや!

それだけは絶対に違うね!」

「それなら他にいい案を出してみてはいかがですの?」

「今考えてんだよ!」

「あらー、そうでしたのー?

全く待ちくたびれてしまいますわー」

「こんにゃろ……」


急に喧嘩腰になった二人に戸惑うツグハを置いて、リュウとマリエは立ち上がって互いに火花を散らす。


「お前がいっつもひねりのない同じ案ばっか出すから俺が一生懸命考えなきゃいけないんだろ!」

「そんなこと言って、結局最後は『オレに任せときゃいいっしょ』ってなるではありませんの!

ひねりがないのはどちらなのか、はっきりしてるんではなくって?」

「じゃあお前が今まで何してきたってんだよ!」

「う……そ、それは…………

カフェ部の制服と講師を用意しましたわ!」

「ばーか、それはお前の執事がしたことだろうが。

一人じゃ何もできねぇお嬢様が自分のものでもない金振り回して威張ってんじゃねぇよ!」


リュウの言葉に言い返すことができず、マリエは唇を噛む。

わざわざ言われずとも、考え方を改めなければいけないことはマリエだって気づいている。

ただそれをどう改めればいいのかがわからないのだ。


(仕方ないではありませんの……!)


マリエが無言でうつむくと、リュウが「ふん!」と鼻を鳴らすのが聞こえた。

腹立たしいのに何も言い返せず、悔しさでマリエは手を強く握る。


と、突然、マリエの視界がすっと暗くなった。

目を上げると、いつの間に立ち上がったのか、ツグハがマリエとリュウの間に立っている。


マリエに背を向けたツグハの表情は見えないが、どんな顔をしているかくらい予想はつく。

マリエの顔から血の気が引いていく。


(……………………………………やってしまいましたわ)


後悔するが、もう遅い。


「金城土くん?」


開いた扇子で口元を隠し、ツグハは「うふふ」と小首をかしげた。


「私の可愛い可愛いマリエちゃんになんてこと言ってくれるのかしら?」


彼女の笑顔に圧倒されているリュウに、マリエは心の中で謝罪する。

彼女はマリエの「モンスターペアレント」なのである。

それを忘れていつもの勢いで言い合いを始めてしまったせいで、ツグハの中でのリュウの評価は虫けら同然になっているに違いない。


「いたいけな女の子に言っていい事じゃないと思うけど?」

「ツ、ツグハ先輩、マリエは大丈夫ですから……」

「マリエちゃんは下がってて。

それとお姉さまとお呼びなさい」


ツグハの気迫にマリエは下がらざるを得ない。

頼むから今からでもツグハの機嫌を取ってくれ……とマリエはリュウに目線を送るが、


「いたいけ、って……えぇ?!

もしかして、お嬢のこと?!

ないないない!

それは、ない!」


マリエが屋上の扉を蹴破っているのを知っているリュウは手と首をぶんぶんと左右に振って全力で否定する。

扇子で隠したツグハの口元が引きつり、マリエの顔からさらに血の気が引く。


「金城土くん……?」

「お、お許しくださいまし、お姉さま!」


もう無理だと判断し、マリエはツグハの背中を両手で勢いよく押した。

ツグハがよろめいた隙にリュウの手を取り、靴をひっかけ、演劇部の部室から逃げ出す。


「マリエちゃん?!お待ちなさい!」

「ちょっと、お嬢?!」

「黙って走ってくださいまし!」

「えぇ……オレ靴ちゃんと履けてないんだけど」

「今の状況がわかっていましてっ?!」


倉庫裏を走り抜け、校庭に出たところでマリエは足を止める。

放課後の校庭では運動部があちらこちらで練習を行っていた。

人の目があるここなら彼女も下手に手を出せまい。

案の定、倉庫裏の茂みの影からツグハのものと思われる視線が二人に注がれているが、何かをしてくる様子はない。


(……危ないところでしたわ)

「なぁ、お嬢、いつまで手つないでないといけねぇんだ?」

「っ……!

つ、つないでなんていませんでしてよ!

あなたがさっさと走らないから仕方なく掴んでいるんですわ!」


誰があなたなんかと、と投げ捨てるようにリュウの手を離す。


「いてて……お前お嬢のクセに握力あるよな……」

「か、火事場の馬鹿力ですの……!」


心外だ、とマリエはリュウを一睨みしてから手近なベンチに腰掛ける。

上がった呼吸を落ち着かせながら、マリエの頭の中は「これからどうしよう」という困惑でいっぱいになっていた。


「……こうなると、どこの部活に行っても同じですわね」


リュウもその隣に座り、うがーっと空を見上げる。


「どうやったら俺たちが直接、心落村になんかできるんだろう」


一週間前から何度もぶつかっては乗り越えられない疑問を再度口にし、リュウは流れる雲を目で追う。

マリエも、校庭を横切っていく陸上部のジョギングを眺めながら、何度目かわからない質問を投げた。


「本当に、あの表を作っても意味はありませんの?」


マリエが言うのは折り紙部と科学部、家庭科部と調理部を救った、状況整理のための表である。

空を見上げたまま、リュウは何度目かわからない答えを返す。


「いきなりあの表だけを使うのは間違いなんだよ。

カフェ部の時だって、お前は途中参加だったけど最初はあの表じゃなくて『料理』と『裁縫』を細かく分けることから始めただろ?」

「ではそれを今から……」

「じゃあできた作戦を、オレたちだけで実行できるか?

他の部の力を借りずに」

「……できませんわ」


そうして最初の問いに戻る。

自分たちの手だけで何かできないものかと。


「ああーーーーわっかんね!」

「……やっぱり、あの表を作ってみませんこと?」

「だから、それはやめた方がいいんだって!」


そう言って堂々巡りを繰り返す二人の頭上では、開け放たれた放送室の窓からタツノリが校庭の様子を見下ろしていた。


(あれは……リュウと鷹座さんかな?)


演劇部はうまくいかなかったみたいだね、と二人を観察するタツノリの後ろでは、高峰たち廃部候補部活の部長たちが歓喜の声を上げている。


「諸君!

どうだね、この完璧なる状況整理は?!」

「いやぁすごいねっ!

こんなに簡単に整理できちゃうなんて」

「右上が文学部で、左下がトレランか。

これで全員分整理できたな」

「え……ちょっと、郷くん……?

四つの枠は部活の数とは関係ないからね……?」


何とか文学部の状況整理が終わったようで、次の部も、と意気込む四人を眺めてタツノリは内心苦笑する。


(本当はあの表だけじゃ意味ないんだけどね)


リュウと同様、タツノリもそのことはわかっている。

それでも彼はこれ以上四人に干渉するつもりはないらしい。


(そう言えば、廃部勧告って確か、五部活じゃなかったっけ……?)


新設部活として報告の義務がある戦略部と、廃部勧告を受けた文学部、歴史研究部、自転車競技部、トレイルランニング部、そして―


「ねぇ、高峰が言ってた緊急部長会議、本当にいかなくていいの?」


専科棟の一階の端、第二音楽室を活動拠点とする軽音部もまた、次回の活動報告会への参加を義務付けられていた。


校則違反の金髪をお団子にした女子生徒が机に腰掛け、黒いマスク越しにもごもごと問いかける。

それに応えたのは、床に寝ころんで楽譜を眺める男子生徒だった。


「だいじょーぶ。もうあとちょっとで完成する」

「サイコーにカッコいい曲じゃないと認めないからね」

「任せとけって!」


楽譜にコードを書き入れて、軽音部部長の相上トシキは不敵に笑った。


「俺の音楽で世界を繋げば、どんな問題も一発解決ってことよ!」


活動報告会まで、あと一週間。

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