第5話

それから数日過ごしてきて分かったことがある。

戦場にいる人は戦いを望んでいるわけではないようだった。女子供もいるのに、本当に軍隊のようだ。いや、軍ではあるのだが……

元居た世界よりはましな、それなりの食事をとらせてもらえる代わりに逃げることは一切許されない。

戦う気があるのはお偉いさん方。正確に言うと、彼らは戦うわけではなくので我々を「戦わせる気」といったほうが正しいのだが。

傷ついていくのは立場も体も弱い者たち。向こうでも、ここでも。

今日ももうすでに何人かけがをして後方に撤退している。

俺も刃こぼれだらけの剣を振り回す。剣など使ったことはない。変に平和ボケしたあの世界では必要のなかったものだから。こんな形で人……生き物を殺すことになるとは思わなかった。

意外と大変だ。敵の鎧は固いし、強いし。素人の俺なんてさっきから傷だらけだ。

ふと見覚えのある少女の顔が目に入る。彼女は戦場の真ん中で立ち尽くしていた。知り合いか?いや、とうの昔に死んでいる。なら?そんなことを考えている場合ではない。


「何してるんだ」


思ったよりドスの効いた声が出た。イラつきを声に出すつもりはなかったのだが。

戦場でろくに武器も構えずに何をやっているんだ。


「だれ?あなた。別に関係ないでしょ」


そう言ってこちらを向いた彼女は泣いていた。泣きじゃくるとか、目を腫らしてとかそういうのではなくて、まるでそれが自然現象であるかのように。俺はこの顔を知っている。思い出した。転生する時に俺の前に並んでいた彼女だ。


『ランクBねぇ……』


そう呟いた瞬間、敵の銃が彼女に向くのを感じ取る。彼女を押し、弾道から外す。そして代わりに自分がそこへ。

弾はおれの脇腹を貫き、若干勢い弱める。そのまま後ろの地面に着地する。


『いっっっった』


さすがにかなり痛い。内臓まで貫通だ。修復にはそれなりに時間がかかるだろう。意識ももうろうとしてきた。


「はぁ?あんたバカじゃないの!!」


そう言って彼女は俺を持ち上げようとするが、持ち上がらないことが分かると俺を引きずりながら前線から離れた。引きずられるというのはなかなかに揺れるもので、傷が痛い。


「しっかりしなさい!」


薄れゆく意識の中、そう自分に叫ぶ彼女の声が聞こえる。それなりに焦ってくれているらしい、こんな見ず知らずのおじさん相手に。これに懲りてもう戦場でぼーっとするなんてことはしないで欲しい。


柄にもなく頭に血が上るから。

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