第2話 衝撃

「な、なんか腹減らねぇ!?」

とっさに口走った自分の言葉に...ちょっと呆れた。煽り耐性なさすぎ...。


「は?もう食べたけど。」

「え、マジ?」

「おっさんのもの咥えたらお寿司連れてってもらえた。」

「」


こいつマジでそうやって暮らしてんのかよ...。


「これくらいで引かないでよ、めんどくさいな。」

「だ、だってよ...そんなの良くねぇだろ。」


俺がふと放った言葉に鈴は嫌そうに顔をしかめた。

「よく言うよ、あれだけ毎日犯してきたくせに。」

「」


何も言い返せない...。


実際に...俺は鈴がゲイだって分かってから気持ち悪くて仕方がなかった。


だから目の前からいなくなればいいってそう思った。

だからダチと一緒にいじめにいじめ抜いた。


罵声だって浴びせたし、暴力だって。

...そして、傷つけてもいいものだと思って性処理に使ってもいた。


「...俺のせい...なのか?」

「いいんじゃない?『俺は悪くない』って事で。」


「ッ...。」

鈴の言った言葉が俺の過去に何度も放った言葉とリンクして心をまたざくりと深くえぐった。


「やらないなら出てくけど。」


俺は罪悪感のせいで、鈴をあの場に戻したらダメな気がしてきていた。


「な、ま、待てって...その...お茶くらい...飲んでったらどうだ?」

慌てて止めた俺に、鈴はふと立ち止まった。


「そのお茶のために俺はいくら出せばいいの?」

「...いや、金とかじゃなくて...」

「じゃ、体?」

「そんなんじゃ...」


振り返った鈴の目には怒りが宿って、静かにしずくが流れ落ちていた。


「ご慈悲ならいらないから。もう二度とあの通りに顔を出さないで。マジで生活の妨害だから。」


鈴のあの目がなんとなく頭から離れないまま次の日の朝を迎えた。


あれから鈴は俺の部屋を出ていった。

その後にすぐに俺もベッドに入ったけど...鈴のことが変に気にかかってしまっていた。


タバコの匂いが残ったシーツは…いつまでも鈴がいたことを思い知らされた。


...そのせいで眠い...。

「ふぁ...。」


「会社であくびするのかい、良くないねぇ...。」

「あ、すんません。」


ついてない...本当に昨日からついてない...。

会社でイヤミを言われ、もやもやしながらまた夜を迎えた。


会社でうとついてたせいで眠気も吹っ飛んで目が冴えてる...。


昼夜逆転もいいとこだ。


俺はまたふとゲイのいる通りに足を運んでいた。


「あれ?こないだいた人だよね?」

「はい?」


何処からともなく男が声をかけてきた。

「良かったら僕と飲みに行かない?」


やっぱりそういう誘いだな。

「わりぃ、ちょっと人探してんだわ。リンってやつ知ってる?」


俺は断りつつ、鈴の居場所を聞くことにした。

「あぁ、リンちゃんか。あの子なら今3P受けてるよ。」


...3P?...なにそれ。


「あんたノンケか。」

「は?...なんでそんなことわかるんだ?」


「意味わからなかったろ。2対1でリンちゃんが総受けされてるってこと。」


ッそれって...

「リンチみたいじゃねぇかッ。」

思わず荒らげた声に自ら驚いた。


そんなの...あいつにやらせてたはずなのに...平気なはずなのに...。

胸がざわつく。


「あは、君おもしろいね。良かったらその場所連れていこっか?」

「すぐ連れてけ。」


俺がそいつの胸ぐらをつかむと、そいつはケラケラと笑った。


「おお...こわーい。でも、音出すのなしだよ。俺までその目にあっちゃうから。」

「...。」


「悪いけど俺はタチだからそういうの向かないんだよね?。」

「タチ?」

「そ。入れる方がタチで入れられる方がネコ。」


...へぇ。

「多分あの子はネコだから...上も下もズボズボだろうね。」

「...。」


そんなの想像しただけで吐きそうだ。


「順番に入れるわけじゃないのか...。」

「なわけ。穴っていう穴は責められる対象になると思うよ。」

「...本当に助けちゃダメなのか?」


とっさに聞いた質問に俺は思わず自分の口を疑った。


...これは罪悪感のせいなんだろうか...。


「やめときな。3Pなんてめっちゃ金になるんだから。妨害するとあの子殴ってくるから怖いんだよね。」


「ッ...あいつがか?」

殴る?…まさか...。


「そうだよ。危うく僕も使い物にならなくなるところだったんだから。」

「」


鈴...そんなに金が大事なのかよ...。


「あ、ここだよ。静かにね。」

そいつは声を潜めた。

俺も口をそっと閉じた。


そこに広がっていたのは、見るのも残酷な...鈴が男ふたりに好き勝手に突っ込まれている光景だった。


「ッ...。」

「ありゃ?お兄さん!?ちょ、ええ!?」

俺はそこから意識を手放した。



鈴...そんなに自分を壊してまで金が欲しいのかよッ...

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