第9話 侵略
ルグーナス王国と帝国の戦争はすぐに決着がついた。
本来ならば数的に3日で終わるはずの戦争はたったの半日で終結していた。
その結果を生み出したのは帝国に存在する魔剣使いいや、魔剣を生み出すとされる者『
かの存在の功績は大きく単騎にて王国戦略の八割を壊滅まで追い詰め軍を言葉通りの全滅を齎した。
帝国最強の英雄にして
敵国からはこう恐れられていた。
『剣の悪魔』
と。
そして、彼らは首都に侵略しに来ていた。
「ふむ、此度の戦争も手応えがない」
「そりゃぁ、魔剣王さんに敵う存在など勇者くらいですよ」
「その勇者も我が国が独占している。だから、つまらんのだ」
「なんてことをおっしゃるんですか…」
魔剣王に呆れたため息を溢す存在は彼の幼馴染にして魔剣王を指揮官とした軍隊の副指揮官ブレハ。
「ブレハ…逃げるものは?」
「それは勇者様が対処してくださるそうで」
「ならいい…鍛治師を探すぞ俺と同じ存在がいたら厄介だ」
彼はそう言って街を歩く。
周りではさまざまな略奪行為が行われており街はどんどんと破壊されていく。
そして、彼は様々な鍛治師を殺していき最後にルギンドのいる工房へと辿り着く。
「いいんですか?無差別に殺しちまって」
「ふん、例え当たりを引いたとしてもこれ以上はいらない」
「生かした方が強い敵に会えるのに?」
「確かに個人的には生かす方が良い。しかし、帝国のためならば個人の私欲など二の次だ」
「相変わらずの堅物で…」
そんな事を話しながら彼らはルギンドの工房に入る。
そして、彼らはそれを目撃した。
「ひぃ!」
ブレハは腰を抜かして尻餅をつく。
そして、魔剣王は…
笑っていた。
「どうやら、当たり…いや、それ以上の大物が出てきやがった」
そうそこにいたのは二つの剣を握っているルギンドだった。
「なぁに、才能無き我が身の最後の傑作だ。魔剣王と呼ばれる主から見てどう思う」
ルギンド自身の傑作を自慢するように構える。
こうして大仰に構えてはいるがルギンドの内心は凄く荒れていた。
(どうすればいい。なんかテキトーなこと言って場を持たせてるがやばい何言ってんだ俺…あー、意味わからん!)
荒れていた。
「ふむ、帝国が求めている覇王の剣ではない。しかし、人工的魔剣を作り出す者…危険分子だ」
「安心しろ…もうこれは作れんさ。何故ならこの剣が我が生涯を飾る剣だからな!」
そう言ってルギンドは動き出す。
己の誇りの為に。
血が舞う。
そして、今日この日ルギンドという男の命日となるのだった。
**
俺達は現在、王国を出て遠くまで歩いていた。
とは言ってもようやく王国が見えなくなったくらいでありそこまでではない。
「…おっさん」
俺はポツリと呟いてしまう。
俺の握ってる剣は間違いなく最高傑作の剣。
しかし、この剣は使って良いのか迷っていた。
ただの鋼の剣であるこの剣を上回る剣を作ることは容易ではないのか?
しかし、この剣は鋼という素材故に作られたものである。
そんな意味があるのかないのか分からない悩みは俺の歩みを遅くしていた。
「カルゥ様、急いでください」
「マスター!早く!」
「ど、どうした?」
急に二人が血相を変えて俺の腕を引っ張ってくる。
俺はその二人の慌てように驚いてふと後ろを見てしまう。
その瞬間、見た。
一筋の光を
その光は俺たちなら迫ってきており、見惚れてしまった。
「世界にはこんな剣があるのか」
「って感心してる場合!?」
アリミアの言葉に正気に戻りその光を避けるように街道から外れる。
そして、俺たちのいた場所にその光は着地する。
いや、激突すると言った方が良いかもしれない。
その衝撃によって辺りの景色は様変わりしていた。
「いてて、着地に失敗しちゃったなぁ」
「ヒロトが調子に乗るからよ!」
「まぁまぁ、ミサキも喧嘩腰になるなって」
「3人とも呑気に戯れてないで私達の役目を徹しましょう」
四人の少年少女の姿がその中心から現れる。
そして、分かることが一つある。
全員が全員、聖具の持ち主ということだ。
「さてと、逃亡者はこれで全部っぽいっし頑張ろっか」
「…ヒロト、真面目にやる気あるの?」
「だから、なんでミサキはヒロトに突っかかってんだよ」
「流石は鈍ちん二人と言ったところでしょうね」
しかし、見たところこの四人は緊張感に欠けている。
上手くすれば…
「おっと、逃げれると思ったかな?」
ヒロトと呼ばれている少年は俺が考えている事を的確に当ててくる。
そして、分かる。
実力差が激しすぎる。
「マスターは下がって!」
ヨカゲがそう言って飛び出す。
槍のレプリカを取り出すと四人に向かって振るう。
「ヨカゲ!奴らは聖具で身を包んでる!」
「分かってる…だから最初から全力」
くそっ、分かってない。
今の時間帯のヨカゲじゃ絶対勝てないと伝えたいのにも関わらず倒すことで頭が一辺倒になってる。
「アリミア、今の状態じゃ勝てない!」
「分かってる…だから」
アリミアは俺の元に跪く。
迷ってる暇はない。
仮契約を消して今から新たな魔剣に契約するしかない。
【裂傷】と魔剣の相性は良い。
それならば…この鋼の剣に…
(本当にいいのか?)
何かが問いかけてくる。
それ以外に何があるってんだよ。
そうして新たな契約をしようと鋼の剣を構えようとした瞬間…
「カルゥ様危ない!」
アリミアに俺は突き飛ばされる。
そして、気がつけば目の前にミサキという女にツッコミを入れてた男が来ていたのだ。
「…貴様ら何をしようとしていた?」
「聞かれて答える奴がいるか」
問いかけてくる声に俺はそう返す。
男は「それもそうか」と言って俺に向かって剣を向ける。
「お前からは嫌な気配がした。何かされる前に討つ」
「…厄介な」
何が厄介ってこいつの持つ聖具の能力が『直感』であり、それ以外は基本魔法などの基礎強化が主なのだが、その直感が侮れない。
俺が何をしようとしていたか分かってなくても嫌な気配ってだけで俺を狙ってきた。
しかし、幸いにも3人は何とかヨカゲが抑えてくれている。
「…それでも…キツイことには…変わらんけどな」
紙一重で攻撃を避けつつ好機を伺うが技量の差があり、自分が打ち込める隙がない。
「魔剣アリミア」
俺はそう言って仮契約のアリミアの魔剣のレプリカを取り出す。
この男がいる限り契約は無理だと判断して俺は剣を構える。
**
中々に厄介。
私はそう思う。
「くっ、こんな少女に足止めされてるだと」
「ヒロト!焦らない」
「今回復する」
二人の少女と一人の少年の連携は柔い。
しかし、個々の戦闘力は半端ではない。
正直、今すぐにもう一本目の槍を手放してしっかりと勝負したいところだが、それじゃ勝ち目がない。
「焦るなってのは無理だろ!この少女は一本の槍を常に回しながらもう一本の槍で戦ってるんだぞ!こんな手加減のされ方、ムカつくだろ!」
私もそう思う。
片手を塞いだ状態の相手なんてムカつく相手でしかない。
しかし、これはしなくてはならないこと。
これが私の勝敗を別ける生命線。
個々を相手する分には技量自体は勝ってる。
しかし
「今!」
私がヒロトと言う男の攻撃を避けたタイミングでミサキという少女が横から炎を放ってくる。
ここで連携がハマってる。
偶然であってもピッタリとハマった動きは非常に厄介だ。
これが流れを作って綺麗な動きを作る。
なら、それを正面から壊すのが一番か。
「チャージ40%解放『シャドウジャベリン』」
放たれた炎に向かって槍を投げる。
武器固有能力の40%されど40%それは凄まじい威力であり、炎を消し飛ばしミサキという少女に槍が向かう。
「ミサキ!」
もう一人の少女が剣で槍をいなそうと前に出る。
しかし、凄まじい破壊力を持った槍を弾くことは簡単ではない。
僅かに逸れたものの衝撃で二人は吹き飛ばされる。
私の攻撃を逸らした少女は受け身を取り、すぐに声荒げる。
「ってて…って、ヒロト!一人で行っちゃダメ!!」
私が槍を放った瞬間がよっぽど好きだらけに見えたのだろう。
少年が私に向かって走ってくる。
持ってる盾を構えもせずに剣を振り上げているその光景は呆れるしかない。
私の手にはもう一本のずっと振り回すだけしていた槍がある。
ずっと使っていた槍はチャージ量は40%だったがこれは違う。
100%チャージされた槍だ。
「うおぉぉお!」
ヒロトと呼ばれた少年は渾身の一撃を放とうと剣に魔力が集中している。
私は深呼吸して槍の先端に魔力を集める。
そして、影を纏わせる。
「『シャドウスラスト』」
その詠唱がキッカケとなり影と魔力が荒ぶり槍の先端から稲妻のように迸る。
そのままチャージ解放して倍化された魔力の塊は槍を全く別の形として作り替えているようにさえ見える。
まだある。
純粋な魔力を放つ魔具の特徴。
それを使う。
魔力が私の周囲を抉り始める。
このヒロトという少年には同情しよう。
「この一撃は塵一つ残さない」
彼のお粗末な動きと私の洗練された動き。
その差は大きく。
後から動いた私の一撃はもう彼の首元まで迫っている。
終わった。
そう思った時だった。
彼の盾がいつの間に私の槍の射線上にある。
いつの間に…
いや、そんなことを考えるより。
全力を掛けて貫けば良い!
ガギンッッ!!
突風が吹き抜ける。
気がつけば私の目の前には何もなく道も木も塵一つ残さず消失していた、
「はぁはぁ」
息が荒い。
頭がグラグラする。
そして、負けた。
かなり吹き飛んでおり豆粒のようにしか見えないが確かにいる。
ヒロトという少年は盾を構えた状態で立っている。
「もう、あなたに力は残ってないでしょ?」
剣士の少女が迫っていた。
しかし、私の体は動かない。
あはは
心の中で笑う。
また死ぬんだ。
でも大丈夫。
まだ、わたしには首飾りがある。
目を瞑る。
死ぬ瞬間はいつになっても慣れないな。
私は失敗した。
ごめんなさい。
マスター
…
あれ?
いつまで経っても痛みは来ない。
顔にかかっているのはなんだろう…
水?
いや、違う。
これはこの匂いはこの甘く食欲がそそられるのは…
血だ。
私は目を開く。
「…ま、マスター…なんで?」
マスターが右腕を差し出していた。
錬金術で強化していてもそれは危険な賭けだ。
でも、マスターは迷いなく右腕を身代わりにして少女の剣を防いでいた。
「大丈夫だ。いいから血を飲め。そして、アミリアと一緒に時間を稼いでくれ。たった10秒だ契約を行う」
この人は馬鹿だ。
いくらでも時間を稼ぐ手段も私を救う術も私に血を飲ませる手段があった。
よりにもよってこの選択をするなんて。
本当に…
本当に
私のマスターは最高だ。
錬金術と彼女の剣で濃密な魔力が混ざったこの血は間違いなく私にとって極上の食べ物。
そんなものを飲めば犠牲とか考える必要なんてない。
「うん、マスターも気をつけて」
私は血を啜りながら立ち上がる。
先ほどと比べて世界が真っ赤に見える。
明らかに世界が正常に見えていない。
しかし、これが吸血鬼が本来住む世界だ。
夜に生きる吸血鬼にとって本来光を取り込む瞳という器官は必要なく、全く別の感知器官が備わっていた。
そう、吸血鬼にとって五感というのは少し違う。
六感というべき感覚器官がある。
そして、視覚の代わりに大きく発達した器官を吸血鬼の中では血感と呼ばれていた。
魔力の流れを見ることができる器官であり一応人間も持っていて呼び方が違うらしいけど今はいい。
要するに魔力の流れが見えるから相手が何をしようとしてるのか無意識に動いている魔力によって何を狙ってるのか全てを掌握することができる。
それが吸血鬼の生きる世界。
先ほどまでマスター達と戦っていた男を槍で弾き飛ばす。
マスターが集中してるところを狙ってきたが、この状態の私を出し抜いて行動なんてさせない。
「ヨカゲちゃん!二人の剣士は任せました!私はこの二人を相手しますね」
アリミアは今の私の状態を見て協力は無理と判断したのかそう言ってヒロトとミサキという二人のところへと行く。
それを見送った私は笑う。
地面に槍を刺す。
その瞬間、影が縦横無尽に動き始めてマスターと私以外の場所全体に影の針が生える。
直感というもので男はぎりぎりで避けて、少女は針の上を走っていた。
二人ともかなり厄介。
でも、経験は少ない。
針が消える。
少女は空中に放り出される。
「首飾り『影渡』」
即興で出したレプリカによって私は男を強制移動させる。
いくら直感が良くても突然の圧倒的な魔力で強制移動させられれば対処できる訳もなくなす術もなく二人は私の制圧範囲内に入る。
男はすぐに動き出そうとするがそれはもう無理。
「っっな!影の檻だと」
「っっぐ!いてて、お尻からいった」
影の檻に阻まれて私を睨む男。
地面に落ちて尻餅をつく少女。
私は自分の魔力の感触を確かめる。
かなり大規模なことを連続でおこなっている。
魔力切れは…ない。
それをしっかりと確認できた私は動き出す。
「ちっ、さっきとは別の意味でやばそうだ」
「って、キョウヤ!ボーッとしない!」
私の槍の一撃を捉えた少女は男に向かっていた私の槍を弾く。
でも、やはり…
私はすぐさま槍を振るう。
キョウヤと呼ばれた男は剣を振るって私の槍を何度も弾く。
しかし、その間は少女は動けない。
弾く場所が一定ではなく少女の動く場所動く場所に切っ先が飛ぶ。
私は影で作った槍も交えて手数を増やして攻撃をさらに激しくする。
それを見た少女が加勢しようと影を弾くが直ぐに追加されていく影に対応しようとして互いに同じものに剣を振るってしまう。
その一回の無駄が決定的な隙を晒す。
私の槍が二人を吹き飛ばす。
咄嗟のガードが上手く止めにはならなかったが傷はこれで負わせることに成功した。
「思った以上に怖くない」
私はポツリと誰も聞こえないように呟く。
当たり前のことだけど私に負け要素は無い。
いや、一つだけあるがそれをしてしまえば相手もただでは済まない筈。
だが、
「これで終わりだ」
目の前に迫るキョウヤという男の切っ先。
私は死を悟る。
しかし、それと同時に勝ちも悟る。
「10」
瞬間巨大な魔力の奔流が生まれ、私とキョウヤという男を距離を引き離す。
間一髪のところで私はあの刃の餌食になることはなくマスターのところまで吹き飛ばされる。
「よくやった」
「ん、後は任せた。マスター、アリミア」
**
ヨカゲが気絶する。
その傍らにはアリミアとカルゥの二人がいた。
その手に握られているのはなんの特別な金属も使ってない変哲もない鋼の剣。
しかし、その剣からは明らかに普通の剣とは一線を画する何かがあった。
その剣にアリミアは吸い込まれていき。
「さぁ、受けてみやがれ!聖剣!」
剣を天に翳すカルゥ。
それと共にカルゥから莫大な魔力を吸い上げる聖剣は紅く煌めく。
それを見た勇者達は止めようと動くがそれは叶わない。
ミサキの魔法は圧倒的な魔力でかき消され、大きな魔力の奔流のせいで迂闊に誰も近づくことはできない。
そして、それは解き放たれる。
「『アリミア クロウ』隻腕」
魔力の奔流が形となる。
それは巨大な腕だった。
異形とも呼べるその腕は人間のものではなく、巨大な鱗に覆われ、何者をも引き裂く鋭い爪を五つ持っている。
「引き裂けぇ!」
カルゥは何も持っていない腕を振るう。
それはまるで腕の持ち主のように呼応して腕が動く。
それに気付いたキョウヤの指示は早かった。
「ヒロト!全員を守れ!」
その言葉と共に盾を構えるヒロト。
隻腕が止まる。
しかし、その破壊力は消えることはなく、その爪で引き裂こうと腕は力を加えられる。
「ぐっ、…強すぎる!!」
圧倒的な魔力と力の前にヒロトの盾は押されていく。
「こんなところで負けてたまるか!!聖盾!『ラグエル』」
ヒロトの盾から天使の羽のようなものが生える。
それは持ち主達を守るように竜の爪を押し返し始める。
押され始めるカルゥ。
聖具の力は強力な反面、使い手本人への負担は大きく、その力の押し合いにより使い手にダメージがいく。
「ぐっ、」
『カルゥ様!』
「気にすんな!ここで負ける訳にはいかない。ここで死んでたまるかよ!」
カルゥは魔力を放ち、腕に力を込める。
「ヒロト!押し返して!」
「分かってる!俺たちはここで死ぬ訳にはいかない!」
翼が広がる。
その瞬間、カルゥの腕が押され負ける。
「よっしゃぁあー!!」
四人が喜びの声を上げる。
しかし、違った。
「聖剣!舐めるなぁ!聖剣『アミリア=ハート』ヒート!!」
カルゥがもう一本の聖剣を出す。
その瞬間、崩壊仕掛けた腕の再生が始まる。
そして、膨大なエネルギーがカルゥの中心へと向かっていき…
爆発させる。
魔力は膨れ上がり、全てが腕に集まる。
その集まった魔力は具現化された異形の隻腕に向かいエネルギーを収束させる。
「うぉおぉぉぉ!!」
『カルゥ様!いっけぇ!!』
アリミアの言葉と共に巨大なる右腕が振り下ろされる。
「守る!何があっても俺たちの仲間を!」
「「「ヒロト」」」
ヒロトもまた仲間の呼び掛けに応えるように翼をより大きくする。
翼と爪がぶつかる。
ギイィイィィィィ!!!!!!
辺りに何かが削れていく音が響く。
カルゥの腕が徐々に引き裂かれていく。
ヒロトの体が嫌な音を立てていく。
その均衡は徐々に崩れていく。
散っていく羽。
砕けて光の粒子へと変わっていく爪。
その決着はそう、時間は掛からなかった。
「「「ヒロト!!」」」
悲鳴にも似た叫び声が響く。
その瞬間には決着が着く。
砕かれる音、それと同時に胸を大きく引き裂かれるヒロト。
盾は砕け散る。
翼は引き裂かれる。
それと共に異形の隻腕は消える。
そして、
「はぁ…はぁ…はぁ…」
息を整えながらもカルゥの体はボロボロであり立ってるのもやっと…いや、剣を杖の代わりにしない限り立ち続けることは叶わなかった。
だが、目の前には先ほどまでいなかったアリミアがカルゥとヨカゲを守るように立っている。
「よくもヒロトを!」
「ミサキ!行っちゃダメ!」
「アイツ…俺はミサキの援護に入る」
あとは3対1。
その状況、キョウヤは勝てると踏み、ミサキ共に突っ込む。
もう一人の少女、カナは倒れたヒロトの介抱をしながら攻撃できるタイミングを伺う。
だが、それは悪手だとすぐに悟ることになる。
「カルゥ様、ありがとう。ようやく私の存在を少しだけ思い出せた」
「…アリミア?」
「守ります。絶対に…『』の隻腕」
アリミアの右腕が先ほどの異形の隻腕に変わる。
その腕は力強く、固く、鋭く、凶悪なものだった。
「一応、かなり弱体化してますが私は逸脱した存在…舐められたものですね」
アリミアが動くその動きは速い訳ではない。
今までのアリミアを逸脱していた訳ではない。
しかし…
「『』の心臓」
その力強さは今までとは比べものにはならなかった。
その違いに気付いたものはたった一人。
「ミサキ!止まれ!!」
キョウヤがミサキを静止しようと叫ぶ。
しかし、その時にはもう遅い。
ミサキはアリミアの手によって引き裂かれていた。
「浅かった」
アリミアの呟き。
その言葉の通り、ミサキを殺し切ることはできずにいた。
「引け!」
アリミアが叫ぶ。
その言葉に
「私は…まだ」
ミサキ
「やめておけ、勝ち目はない」
キョウヤ
「今ならまだ全員生き残れます」
カナ
それぞれが反応する。
ミサキは地面についた手を握りしめる。
「分かったわ…引く」
ミサキは小さな声で言う。
そうして、彼ら四人はカルゥ達から離れていくのだった。
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