第7話 冒険家

「死ぬ!

これは絶対死ぬ!」


荒れ狂う暴風の中俺は魔剣を振るっていた。


「カルゥ様、死にそうな時に助けますから安心してください」


アリミアの言葉に俺は安心できない。

なぜなら、今すぐにでも死にそうな状況の中でそれを言われても信用ならない。

というかアリミアと俺の基準ってだいぶ違くない?

俺は戦闘初心者のただの鍛治師だよ。


「マスター、ファイト」


かなり可愛いく言うヨカゲの言葉に俺はもう少し頑張れる!

な訳無いだろ!

この状況でどう頑張れと?

死ねと?

死ねと言っているのか!


「もう、どうにでもなれ!」


俺はそう言ってワイバーンの希少種に魔剣を振るう。

さて、なぜ俺がこんな状況になってるか、その説明を成すか。


**************


始まりは簡単だった。

俺の疑いが晴れた?日から次の日のことだった。


「カルゥ様、自己防衛の為にある程度の実力は身につけておいたらどうですか?

折角冒険家になったことですし、経験を積むことは大事だと思いますよ」


いつも通りに工房に引きこもろうとしたところにアリミアがそう言ってきた。


「でもな…」


俺は渋ろうと頭をかきはじめる。


「マスター、このままだと私達がいなければマスターは…」


ヨカゲの一言にそれの半分は脅しだと分かっていても事実であることは変わらない。


「仕方ない、なら簡単そうな場所から連れてってくれ」


この時の俺を今全力でぶん殴りたい。

もう、ある程度気づけよと…。


そして、俺達は街に出て目的地まで歩く。

その道中は何もなく、過ぎていき…。


「カルゥ様、あそこにいるワイバーンと戦ってください。

大丈夫です、死ぬ前に助けますから」


俺の目の前にあるのは無数のワイバーンの群れ…。


「いやいやいやいや、これ死ぬでしょ!」


「えっと、大丈夫ですよ。

ワイバーンは弱いので」


そうなのか?

いや、でもなワイバーンってたしか竜種の劣化種だった筈だよな…。


「マスター、とりあえずゴー」


ヨカゲにポンっと背中を押されて俺は仕方なしに戦闘を覚悟した。


「因みにカルゥ様、魔剣の魔力波は十分間に一回の制限を設けますね」


えっ、マジで…。

いや、ここは仕方ないと腹をくくろう。


とりあえず、俺は剣を振るう。

しかし、飛んでいる魔物だけはあって簡単に避けられてしまう。


そう、それでいい。


まずは俺という存在を餌でも何でもいい…認識させる。


すると、予想通りにワイバーンは空中で一度旋回をすると速度を付けて俺に襲いかかってくる。


「隙だらけだ!」


俺はギリギリのラインを見定めて魔剣に魔力を食わせる。

そして、振るった暴威はワイバーンに襲いかかり綺麗に真っ二つに切り裂く。


その瞬間、緊迫した雰囲気が辺りを包み込んだ。


気が付けば俺の周りには大量のワイバーンが飛んでおり、明確に俺を警戒をしていた。


「亜竜とは言えでも、竜種って群れるんだな…」


「カルゥ様、実際、ワイバーンは竜種の血が少し入ったただの鳥ですよ…」


俺の呟きに呆れ半分のアリミアの声が聞こえる。


ていうか、竜種の血が入った時点で鳥じゃなくね?


とか、無粋な疑問はこの際に置いておこう。

本当に気にしてる余裕はもう無さそうだから…。


しかし、俺は完璧に油断していた。


今まで対人しか考えていなかったから考えていなかったというべきだろう。


魔物にはブレスを放つ奴がいることを俺は知らなかった…。


ゴウッ


と音響く。

それに対して俺は頭の理解が追いつかなかった。

目の前には何かが直撃したと思われる痕…そして、現在進行形で迫ってる炎や氷、などの様々な塊…。


俺は少し顔を引攣らせるが、いい機会だと思い俺は魔剣に魔力を通す。


『裂傷』


それにより刻まれたブレスは一瞬で原型を失う。

そして、俺はすぐに魔法の実行を行う。


「『錬成』…」


やはり、慣れない魔法の使用は脳に負担が掛かるようだ。

しかし、この魔法のお陰で俺はワイバーン達と同じ土俵に立つことが出来る。


俺は地を蹴り、空気を蹴る。


「へ?」

「は?」


瞬間、二人から聞こえてきたのがやけに耳に残る。

それは有り得ないものを見たという言葉だった。


しかし、俺がしたことは簡単だった。


実は何だかんだで一番適性が高かったのは錬金系列の魔法であり、これはそれの応用。

一時的に空気を固定しているのだ。

あくまでちょっとした固定であり、踏んだ際に普通の地面と比べて違和感があり、力の掛け方によっては簡単に空気が移動してしまう。

それでも、自分の動く程度の力なら耐えられる。


そして、タイミングを間違えずに自身の強化を行えば、例え、耐えられない力でも高く空気の上からでも跳ぶことができる。


俺は近くにいるワイバーンから少しずつ切っていく。

基本、一撃必殺とならない攻撃なのでヒットアンドアウェイで戦っていく。

それにより、着々とワイバーンの数を減らしていく。


まぁ、ここまでは順調だった…順調過ぎたくらいだ。


流石は人の勝てないものに勝つために生まれた概念というだけの性能を魔剣は有してた。


しかし、これは無いぜ。

いや、おそらくこれが最初の狙いだったような気がしてならない。


他のワイバーンよりふた回りほど大きくて、鱗の色が全く違う赤色の鱗…。


文献でしか読まないくらい出現が稀にしか発生しない存在…。


「げっ!ワイバーンの希少種かよ!」


そう、希少種である。

それは稀に生まれることがある化け物の総称であり、存在である。


そもそも、希少種が生まれるのは色々な仮説があるが、一番有力視されているのはその生命の絶滅の危機があった時である。

例えば、これらの希少種の発見頻度は弱い魔物程多く、強い魔物程少ない傾向にある。


そして、それはもう一つの特徴がそれを裏付けている。

それは、生まれた時から高い知能と戦闘能力を他より突出して持っている。

それも、長年生きてきたものよりも強く…。


要するに…、ワイバーン達はおそらく、連日のアリミアの大量虐殺により絶滅の危機を感じてしまったのだろう。


要するに勝つのは困難ということだろう。

その瞬間、炎のブレスが放たれる。

俺はなんとか『裂傷』でブレスに傷をつけようとするが、ふとした瞬間で横に飛んで避けた。


理由は簡単だ。

他のワイバーンとは違う種類のブレスを放たれたからである。


『放射型ブレス』と呼ばれる継続的なブレスにより、『裂傷』の意味を成さないと俺は考えたのである。


「希少種というだけでもここまで大変なのかよ…」


俺はため息を思わず吐きながらも守りに徹した。


予想通りなのかそれ以上なのかわからないが先程からワイバーンの猛攻は終わらずに俺に突っ込んできている。


「まぁ、お陰で楽はできるけどよ」


そうして、タイミングを見計らって魔剣に魔力を食らわせる。

魔剣による衝撃波がワイバーンに真っ直ぐ放たれる。

これで決まった…そう思っていた。

しかし、まだ俺が甘かった。


「ハハ…んなもんありかよ?」


ワイバーンは華麗に旋回して衝撃波を避けて俺に向かってブレスを放ってきていた。

先程とは違う風のブレス…いや、巨大な風の魔法のあまりに空中で跳ぶことを失敗する。


「やばっ…」


その瞬間を狙ったかのようにワイバーンは俺に向かって突進してくる。

しかし、俺もただでは落ちない。

すぐに錬成で空気の床を作り衝撃を緩和して体制を立て直す。

それと共に魔槍を取り出して魔力を食らわせて投げつける。


流石にワイバーンも予想外だったのか大きな咆哮を上げながら仰け反る。

どうやら、掠っただけのようだが魔槍はそれなりの威力を発してくれていたようだ。


「しかし…」


なんとか立て直して再びワイバーンと相対したが俺は失敗を悟っていた。

それは目の前にある現象が原因だった。


荒れ狂う暴風…確かに怒りを感じ取れるワイバーンの瞳…。

そんな中で俺とワイバーンの戦闘の第二パートが開始してしまった。




…そう、してしまったのだ。




ここで冒頭の部分に戻ろう。

俺は魔剣を振るうがワイバーンに届かずに軽く後ろに回り込まれる。


俺はそれに気づき舌打ちをしながらもワイバーンの攻撃を避ける。

今回は尻尾だったがもしも、翼や足などの余計な挙動が少ない攻撃だったらと俺は身震いをする。



ていうか…これのどこが鳥だよ!

明らかに竜としての威厳があるじゃ無いか!


更に魔剣に魔力を食わせる。

先程より多くの魔力を食らわせて魔力波と『裂傷』の効果を同時に発動させる。

俺は剣を振るい一瞬だけ風を止ませる。


それでも一瞬…されど一瞬…。


その一瞬で俺は間合いを詰める。

1傷でも与えれば俺の勝ち。

カウンターを受ければ俺の負け…。


そんな下らないことを考えながら俺は剣を振るう。

しかし、硬い音共に剣は弾かれる。

それは剣の良さでは無い…担い手の実力だとこの一瞬でも…鍛冶屋の俺でも分かる。


神滅龍滅の兵器と呼ばれる聖剣や魔剣が例え弱くても亜竜如きの鱗に普通は弾かれるはずがないのだ。

それなりの剣士ならば竜切りくらいなら軽くできてしまうのが魔剣…逆に言えば剣士の初心者なら亜竜を切るのが限界なのだ。

決して亜竜の希少種を切れるほどの威力は担い手の弱さで発揮できない。


「くそっ!」


たった一度のチャンスを逃した。

ほんの一瞬…それだけのチャンスを作るのにどれだけ考えた分からない。

せめてもう一撃…そう思って構えようとした瞬間、俺は暴風により間合いから離される。



そこで俺の中では最大の活路を求めていた。


それと共にある疑問が浮かんでいた。


自分は何故戦うのか?

鍛治師である俺が戦う必要なんて無い。

確かに俺たち鍛治師は間接的に人を殺したりしてきた。

それでも戦う必要なんて実際ないのでは無いのか?

そんな、考えが俺の中で入り込んでくる。


しかし、それと共に俺は悔しいという感情が走っていた。

戦争の時もそうだ。

俺は結局何もできなかった。

アリミアがいなければあそこで死んでいた。


ー何も出来ない自分がいるー


何も成さない情けない自分が映る。



嫌だ…


怖い…何かを失いたく無い。

考えてみれば簡単だった。

俺はこのままではいずれアリミア達を失う。


俺の…担い手としての実力不足で…。


欲しい…守りたい。

もう、失いたく無い。

父さん達のように…。


嫌だ。



もう一度だ。



嫌だ。



もっとだ。



嫌だ。





「応えろ!」



その瞬間、俺の活路が開く。


剣士としての実力なんて俺には無い。

それでも…例え…弱くても勝つ為の力がある。


「『錬成』!」


そこから先のことは覚えていない。

とんでもない沢山の魔力の使用と混濁した意識の中でワイバーンの希少種を倒したという確かな実感しか残っていなかった…。

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