第6話 魔槍 月花・ヨカゲ
「うん、これはどういう状況だ?」
目の前には騎士らしき人とアリミアが一触即発の雰囲気が感じ取れる。
そう言った俺に対しておっさんが近づいてきて状況を簡単に説明してくれる。
「えっと、要するに俺は帝国のスパイという疑いがかけられているということか?」
「まぁ、そうなるな」
えーと、かなりその状況ってやばくないか?
だって、この先俺は生きてく場所が無くなるということだろ。
『…マスター』
その瞬間、頭の中に声が響く。
「あ、悪かったな。
とりあえず、少しだけ完成品を見せたかったんだが、どうやらそんな雰囲気でもなさそうだな。
もう一つの方は俺がしまっとく」
俺はそう言って槍を置く。
そして、もう一方のネックレスを【武具収納魔法】で仕舞う。
そして、次の瞬間。
黒い漆黒の槍は光りだす。
「てことで、アリミア。
今日からお前の後輩になる子を紹介しよう」
そして、槍は人の形をとり輝きは一層に増す。
「武器に刻んだ銘は『魔槍 月花・ヨカゲ』」
そして、光が収まったところには一人のアリミアと同じくらいの背丈の少女が立っていた。
フードを被っており、そこから出てくる長い黒髪がとても綺麗な紅眼をした少女…。
「ヨカゲ…よろしく…」
少し、小さな声で少女はそう呟いた。
「貴様がカルゥ=レーヴィンか?」
しかし、あの魔術部隊の男は動じた様子もない。
肝が据わってるのか、それとも気にしていないのか…。
「ああ、そうだな。
俺がカルゥ=レーヴィンだ」
「では…」
「悪いがお断りする。
今の俺には無実を証明するものは無いからな」
俺は相手が言い終える前にそう言う。
俺達の国がもし生き残っていたら兵として参加したから一応、名簿には載っているから証明が出来るが、それは無理だろう。
十中八九、俺の元いた国は帝国に滅ぼされていると思う。
よって、無実の証明は不可能。
「そこで、俺は今から冒険家の登録に行きたい」
「今更出来るとでも?」
「そこを何とか」
実は冒険家は所属国家を明確にする必要性があるのだ。
あくまでギルドは中立を貫いており、明確にした所属国家とは別のことをすれば、ギルドでの指名手配が回ることになる。
要するに、所属国家以外に肩入れはし過ぎないということらしい。
それは中立という立場を明確にした人も同じである。
どこかの国と対立した際は個人の問題として扱われる。
「無理だな、今君に逃げられる訳にはいかない。
通りたくば、実力で通りたまえ」
う、そういうことか…。
どうすれば…。
「今の言葉…偽りは無い?」
「ヨカゲ?」
ヨカゲが口を開く。
「ああ、私を倒すことができたのならばな」
「なら、マスター。
私が…戦う。
いや、戦わせて…」
「何を言っているんだい?
こんな少女が?
正気の沙汰とは…」
男は鼻で笑うのを俺は軽く無視する。
「いけるか?」
「…愚問。
…むしろ…持て余してる」
ヨカゲの目が紅くなる。
これは…。
まぁ、いい。
「やり過ぎるなよ」
「…善処する」
そう言って、ヨカゲは男のところまで歩いたいく。
「まさか、本当にやる気なのか?
何を考えてるが知らんが女子供だからって…」
瞬間、男はだまる。
それはそうだろう。
ヨカゲの濃密な殺気を受けたのだから。
実際、契約のすぐの時は選定とか言って殺気をぶつけてきた。
それだけですぐに懐いたのは有難いことだった。
俺としてはあの殺気はギリギリ耐えられるラインだ。
「侮るのはやめにした方がいい…。
……死ぬよ」
それと共にヨカゲは槍のレプリカを取り出して動き出す。
瞬間、金属同士がぶつかる音が起きる。
しかし、それは愚策だ。
すぐにヨカゲは一歩引いて次の攻撃に移る。
それは先程より、速く、連撃を考えた攻撃。
槍は縦横無尽に動き、男を襲う。
男は言葉発する余裕もない。
力、速さと共に上回る攻撃を使われて何歩も引く。
「少し…ごめんなさい」
ヨカゲはそう言うと槍で思いっきり男に突きを入れる。
男は何とか防ぐが、それがヨカゲの狙いだ。
男はドアをも破り吹き飛ぶ。
男が体制を立て直した時にはもう遅い。
ヨカゲは槍を振りかぶり男に振るう。
しかし、そんな単純な動きは横に転がられ避けられる。
しかし、それすらも罠だと男は気付かない。
「…遅い…」
ヨカゲはそう言って体を回して男に槍の柄の部分で殴る。
「ぐっ!」
流石は剣を使ってるだけはあって、ギリギリガードしたようだが剣は限界がきて折れる。
「くそっ、舐めるなよ!
魔導部隊と言うだけあって、私の本領は魔法だ!
この程度で思い上がるなよ」
やはり、相手は馬鹿のようだな。
ヨカゲは今の段階で未だに能力を使用していない。
それは決定的差になることを意味している。
男は腐っても隊長だ。
無詠唱で大量の魔法を同時に展開する。
そして、それはヨカゲに向かって放たれる。
「【影の刃】」
瞬間、ヨカゲの影が薄くなる。
その代わり、槍にその影が移動したかのように黒い何かが纏う。
それは柄の部分から矛の部分まで覆われている。
そして、飛んでくる魔法を切る。
「なっ!」
先程より、多彩な動きを見せる槍は気付けば集まっていた野次馬達をも魅了する程にまで綺麗なものだった。
ヨカゲはそれと同時に軽快なステップを踏み、男下まで行く。
そして、より多彩な動きで男を惑わす。
殺さないように配慮しているのか、男には切り傷が一切無い。
「はぁ、はぁ…くそっ!」
「…そろそろ…終わりにしません?」
ヨカゲはそう言って数メートル離れたところで構えを解く。
それは挑発とも言える。
これは魔法を使うものが得意とする範囲であり、決して槍使いが取る間合いでは無い。
「ふざけるな!
これで終わりにしてやる!」
男はそう言って詠唱を始める。
あれは…。
そして、ヨカゲも笑い。
槍を構える。
って、それはやばい!
「アリミア、二人を止めるぞ!
俺はあの馬鹿の魔法を切り裂く。
アリミアはヨカゲを止めろ!」
「はい、わかりました」
男が使おうとしているのは戦略級と呼ばれる対軍隊用魔法である。
威力も範囲も大きく、この辺りを火の海にしかねない。
頭に血が上って無意識で使ってるに近いのだろう。
おそらく条件反射といえるものだ。
俺は魔剣のレプリカを取り出して振り上げる。
そして、思いっきり叫ぶ。
「こいつ、馬鹿だろ!」
そう言って俺は起動途中の魔法を切る。
それにより、魔法そのものが切り裂かれる。
裂傷が効くのは物や人に限らず、魔力にも効くことは分かっている。
ガキンッ
と何かが折れる音がする。
おそらく、ヨカゲの取り出したレプリカだろう。
因みにヨカゲが使おうとしていたのは、【影の刃】の一点集中だけでなく、この槍の俺の付与した特殊な能力【チャージ】と魔具の魔力波を行おうとしていたのだ。
一見、とんでもなく見えないがその実、ヨカゲの行おうとしていたことは軽く戦略級を凌駕している。
特に【チャージ】が危険だ。
この能力は特殊な条件で槍にエネルギーを貯める。
そして、任意でそのエネルギーを解放の一撃を放つことができるのだ。
それだけでも軽くこの辺り一帯は吹き飛ぶ可能性があるのだ。
「はぁ、ここで終わりだ。
ヨカゲ、よく頑張った」
俺はそう言ってヨカゲの下に行き、頭を撫でる。
ヨカゲは嬉しそうに顔を緩めてフードで顔を隠す。
「それで、あんたも通してくれるよな?」
俺は男に対して問いかける。
「まだ、私は倒れていない」
「そうか、ならばこれも実力のうちだな」
俺は先程のネックレスのレプリカを取り出すと、自分の首にかけてアリミアとヨカゲの手を握る。
「【影渡】」
その瞬間、俺達は影に沈む。
**************
「ふう、何とか逃げ切れたな…。
それで、アリミア。
冒険家ギルドはここか?」
俺達は影から出ると、アリミアに場所の確認をする。
「はい。
というか、今のは何ですか?」
質問には答えるが、やはり【影渡】について気になるのか、質問してくる。
「あれはヨカゲのもう一つの契約先である。
魔具 月闇・ヨカゲの能力だな」
俺がそう言うとアリミアは納得したように頷く。
「そういえば、ヨカゲちゃんはそんな能力を持ってましたね」
「なんだ?
知り合いだったのか?」
俺達は冒険家ギルドに入りながら話を続ける。
「はい、私達と年が近い精神体なんて少ないですからね」
「だから、仲良くなるのも必然」
そういうことか、ならヨカゲと契約してよかったかもな。
アリミアも嬉しそうだしな。
俺は受付にたどり着き、ヨカゲと一緒に登録をお願いする。
「あれって竜殺しのアリミアじゃ無いか?」
「マジだ。
男といるぜ」
その際に何かが聞こえた気がしたが気のせいだと信じたい。
アリミア、信じてもいいんだよな?
目を逸らすのはやめなさい。
「ち、違うんです。
少し調子乗って亜竜を殺しすぎたというか…なんというか…」
なるほどな、自重を忘れた訳だな。
そうしてる間に冒険家登録カードが発行される。
「では、アリミアさんの友人ということもあって期待してますよ」
なんか、期待が痛い。
本当に何をしたんだ…アリミアよ。
「やっと、見つけだぞ!
カルゥ=レーヴィン!
大人しく…」
俺は追いかけてきた男に冒険家登録カードを見せる。
そこには確かに書かれた中立の文字がそこにはあった。
「これでいいんだろう?」
「くっ!
仕方あるまい」
男はそう言って去って行った。
はてさて、これから先どうなることやら…。
「そういえば、カルゥ様!
先程、ヨカゲちゃんの頭を撫でてましたよね?
私には撫でたことないのに!」
「はぁ、分かったよ」
俺はそう言ってアリミアを撫でる。
「マスター…私も…」
ヨカゲも要求されて俺はヨカゲの頭を撫でる。
はぁ、意外と分かりやすいものかもな…。
しかし、俺は知らなかった。
聖剣とは何を意味するのか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます